194
各自準備をしながら待っていると、小型ゴーレムがころころと転がりながら戻ってきた。
「おかえり小型ゴーレム達。調査結果をこの地図に書き込んでくれ」
俺が小型ゴーレムに指示を出すと、小型ゴーレム達が地図に数字を書き込んでいく。警備兵の数なのだろう。
「ふむ、ココとココとソコが警備兵の数が多いな」
カーラが地図を指差した。
「ココはデュソリエ奴隷商会ですね。コッチはここから最寄りのフィッツ商会です。ソコはアランデル奴隷商会ですね。アランデル奴隷商会は帝国で最大の奴隷商会です」
ネルソンがそれぞれの奴隷商会について説明した。
「ついでに、私からもご報告があります。コメット様が捕らえた元気奴隷商会のマクガヴァンを尋問したところ、ソルビー様の居所は吐きませんでしたが計画を持ち掛けてきたのはフィッツ商会のフィッツジェラルドであると口を割りました」
フィッツ商会か……フィッツジェラルドには会ったことがある。なんとなく狡賢い感じの印象だった。そして、金に対する執着心のような物も感じた。
あの男ならシャーリンちゃんを攫う計画を立てていたとしても納得してしまうだろう。
「じゃあ、俺はそちらのアランデル奴隷商会に行きます」
そう、今行くべきはフィッツ商会ではない。地図上のアランデル奴隷商会には200という数字が書かれている。デュソリエ奴隷商会の2倍だ。
もし、自分がフィッツジェラルドならば最大の警備を行うアランデル奴隷商会にシャーリンちゃんを送るはずだからだ。
「コメット様、某に指示をくれ。寝込んでいる間にシャーリン殿が攫われ、某は何も出来なかった! 某に汚名返上の機会をくれ!」
ロスキタスはなかなかに義理堅い男のようだ。
「分かりました。じゃあ、ロスキタスさんは俺と来てください」
「お任せを!」
次に俺は地図のデュソリエ奴隷商会を指差す。
「カーラさんはゴーレム1000体を率いてデュソリエ奴隷商会をお願いします。ただし、魔導アーマーの着用は必須です」
「はぁ、あの魔導アーマーには良い思い出がないのだがな……。承知した」
渋々といった感じで了承してくれたようだ。さすがに傭兵100人が待ち構える場所に生身で行くのは厳しいだろう。
「最後にフィッツ商会にはネルソンさんお願いします」
「ええ!? 私で御座いますか!?」
ネルソンはまさか自分が指名されるとは思っていなかったようだ。
「だって、マリアさんやルート君に任せるのは酷というものでしょ? ネルソンさんは元鍛冶屋で体力もあるじゃないですか」
「そ、それはそうですが……」
「じゃあ、特別にゴーレム5000体と大型ゴーレムを貸します。それなら大丈夫ですよね?」
「わ、分かりました。フィッツジェラルドを捕えてくればいいのですな?」
「はい、お願いします」
ネルソンはゴーレムの扱いについても慣れているし知識もある。指示を間違えて無関係な人に迷惑をかけることも無いだろう。
「じゃあ、各自準備をしたら出発してください。作戦開始です!」
各々から了解を示す返事があり、準備の為に散っていった。
「さて、ロスキタスさんも準備しないといけないですね」
「某はいつでも準備は出来ているぞ」
「その寝間着で行くつもりですか?」
「む! これは失礼した。起きてすぐに騒動を知り慌てて駆けつけたのだ」
俺とロスキタスは工房に行った。途中、ロスキタスは倉庫に向かおうとした。一般的な装備品は倉庫に置いてあるからだ。
「コメット様、何故工房に?」
「ここには俺が空き時間に作っておいた特注の装備があるからですよ」
そう言って工房の材料が置かれている棚を横に移動させると、隠し部屋が現れる。
空き時間に趣味で作っておいた武器防具が所狭しと並んでいる。
「ロスキタスさん、好きな武器と防具を選んでください。と言っても素材が砂鋼くらいしかないので、大した物はありませんが」
「おお! この槍は素晴らしい! こっちの鎧は名工の一品と呼ぶに相応しい! こんなに良い物を借りても良いのか?」
「貸すのではなく、プレゼントしますよ。さぁ、急いで着替えて下さい。すぐに出発しますから」
「かたじけない!」
ロスキタスはいくつかの砂鋼製手斧と槍、チェインメイルと兜、篭手を選んだ。
急いで装備を整えたロスキタスと共にアランデル奴隷商会に向けて出発した。




