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――それから一週間後、俺は相変わらずゴーレムを作り続けていた。ロスキタスのことが気になったが、シャーリンちゃんと一緒に研究室に籠もっており、部屋の中には入れてもらえなかった。
最近、奴隷商会からの監視が強化されたらしいとネルソンから報告があった。奴隷商会は奴隷が全く売れずに大分弱ってきているようだ。だが、窮鼠猫を噛むという諺があるように追い詰められた奴隷商会は何をするか分からない。
そんなある日、シャーリンちゃんがやっと部屋から出てきた。シャーリンちゃんの後ろには何やら黒い布を被った人物がついてきている。これはもしかして、いや、もしかしなくてもあの人物以外考えられないだろう。
「ついに完成したのじゃー!!」
「おー、パチパチパチ」
今、この工房には俺しか居ないので拍手が小さいが仕方がない。
シャーリンちゃんがバッと布を取ろうと引っ張るがロスキタスの背が高すぎて出来ないので、ロスキタスが自分で布を取った。
「むー! ……ジャジャーン! どうじゃ!? 魔導義足が完成したのじゃー!」
予想通りロスキタスが布の下から現れて、魔導義足でしっかりと立っているのが分かった。
「凄いじゃないですか? 動力源はどうしているのですか?」
しまった。ふと疑問に思ったことを聞いてしまった。この手の人間に迂闊なことを聞くと痛い目を見ることを知っている。シャーリンちゃんは待ってましたとばかりに笑顔になっている。嫌な予感は的中したようだ。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれたのじゃ。このふくらはぎの部分にカートリッジがセットされておってな。カートリッジの中には適切なサイズにカットされた魔石がはめ込まれておるのじゃ! 更に魔石の属性が重要でな……」
シャーリンちゃんが早口で説明を始めてしまった。こうなると1時間は喋り続ける可能性が高い。話の内容に興味はあったが、今はどちらかというとロスキタスを祝ってやるほうが先決だろう。
「シャーリンちゃん! とても興味のある話ではありますが、今はロスキタスさんを祝ってあげましょう」
「む……! たしかにそうじゃな! また後で説明してやろう」
俺はロスキタスに向き直る。
「ロスキタスさん、ずっと研究室に籠もってお疲れ様でした。そして、おめでとうございます。今後は自分の脚で好きな場所に行けますね!」
「ああ、ありがとう。二度と歩くことは出来ないと諦めていた。コメット様には返しきれないほどの恩が出来てしまったな」
「ワシには!? ワシにも感謝してくれてもいいんじゃよ!?」
ロスキタスはジト目をシャーリンちゃんに向ける。
「ああ、強制連行され昼夜問わず研究に協力させられ苦痛を与えられ続けたが、結果的に魔導義足を作って貰えたことには大変感謝している。アリガトウ」
どことなく棒読みのアリガトウだった。
「研究室に籠もって何をしていたかと思えば、そんなことをしていたんですか?」
俺も思わず呆れ顔になってシャーリンちゃんを見てしまった。
「う……面白い研究対象だったんじゃから仕方がないじゃろうがーーーー!!」
シャーリンちゃんは言い訳を叫びながら走り去ってしまった。ちょっと悪いことをしてしまったかな。
俺はロスキタスの状態を確認した後、客室にロスキタスを連れていき休ませることにした。ロスキタスはほとんど不眠不休で研究に協力していた為、かなり疲労が限界に達していたのだ。ロスキタスはベッドに横になるとすぐに眠った。
俺が工房に戻り、何をしようか考えているとネルソンが急いで工房にやって来た。ネルソンの焦った様子から不測の事態が起こったのではないかと予想される。
「コメット様! た、大変です!」
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
「ソルビー様が、奴隷商会に攫われました!」
ソルビーって、シャーリンちゃんのことだよな。えええええええ!? さっきまで一緒に居たのに何故そんなことに??
「さっきまで一緒に居たんですよ!?」
「先程、『仕方ないのじゃー!』と叫びながら店を出ていったので、危険ですよと呼び止めようとしたのですが、目の前で傭兵風の男に連れ攫われてしまったのです。最近、ゴーレムを作っている技術者を探っている者が居ることは知っていたので警戒はしていたのですが……」
ネルソンは何も出来なかったと肩を落とした。
「そういうことですか。それで、攫った奴らはどの方向に逃げたのですか?」
「あ、そうでした! 重要な報告がもう一つあります! 現在、この建物は傭兵と思われる者達に取り囲まれております! それで追跡も出来なかったのです! どどど、どうしましょう!?」
その情報をもっと早く教えて欲しかったとも思ったが今はそんな突っ込みを入れている場合じゃない。
「遂に武力行使に来ましたか。分かりました。では、すぐに皆を工房に集めて下さい。そして裏口の防衛をお願いします!」
奴隷商会との戦いの火蓋が切って落とされた。




