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 ネルソンゴーレム商会の裏口を通り、工房まで戻ってきた。ここまで来れば他人に見られる心配はない。


「皆さん、お疲れ様でした。ご協力感謝します」


「いえいえ、私達も貴重な体験が出来ました」


「楽しかったです!」


「こちらの方は、どうされるのですか?」


「あ、すみません。どうぞ肩に掴まって下さい。よいしょっと」


 両脚がないので、俺が支えて台車から椅子に座らせてあげる。


「自己紹介がまだでしたね。俺はコメットと申します。こちらがマリアで、この子がルート。ちなみにこの姿は変装ですよ」


 目の前で髭とカツラを取って見せる。奴隷の男は少し驚いたように目を見開いた。


(それがし)の名はロスキタスだ。奴隷になる前はトラリア連邦で傭兵をしていた」


「トラリア連邦? 初めて聞いた名前ですね。国名ですか?」


「そうだ。帝国の南西に位置する国だ。自然に満ち溢れた良い国だったが故に、帝国の侵略を受けることになった」


「帝国と戦争中というわけですか。帝国はたしかロディニア魔法国とも戦争を起こそうとしていましたよね」


「はい、私達の故郷が心配です」


 マリアさんとルート君にはロディニア魔法国に連れていくことを約束している。奴隷の問題をさっさと片付けなきゃいけないな。


「そうですね。ロディニア魔法国には必ず連れて行きますから、もう少し待って下さい」


 まずは目の前の奴隷問題を片付けようと、ロスキタスに目を向けると先にやるべきことを思い出した。


「あ、ロスキタスさんの両脚をまずはどうにかしたいですね」


「どうにかする? 某の脚が治るというのか!?」


「うーん、体が欠損している場合はハイヒールじゃ治らないかもしれないですね」


 以前、魔法大学で読んだ書物には身体の欠損を治すには、より上位のフルヒールが必要と書かれていた。だが、当時の神聖魔法はパルム教によって秘匿されていたので習得方法までは書かれていなかった。


「選択肢としては義足の作成ですね。ちょっとシャーリンちゃんに相談してみましょう」


 俺達はシャーリンちゃんを呼んでロスキタスの義足を作成出来るか相談してみた。


「魔導アーマーの専門家であるワシに義足を作れじゃと!?」


「もし作っていただけるなら、カーラさんを1日自由に借りる権利と魔導アーマーの改造費用を出しますよ。それに、義足に魔導アーマーの技術を応用したら、面白い物が出来上がるんじゃないですか?」


 俺がシャーリンちゃんの興味が湧きそうな話題を振ってみた。


「む!? むむむ……! たしかにカーラを1日借りたら研究が大きく前進するのう! しかも、義足に魔導アーマーの技術を応用じゃと!? たしかに面白そうじゃな!! すぐに工具と材料を持ってくる! 待っておれ!」


 シャーリンちゃんは急いで自室という研究室に向かったようだ。


「ロスキタスさん、ついでに奴隷も解放しておきますね。隷属解除!」


 俺はロスキタスの肩に手を触れた状態で隷属解除を発動させると、隷属化の時に浮かび上がった紋様が消えた。


「!? ……なんということだ。奴隷のまま死ぬことを覚悟していたというのに、コメット様は某に生きろというのか」


 ロスキタスは下を向いて目頭を手で押さえている。その涙にどれだけの思いが込められているのか俺には全く想像もつかない。


「ええ、これからは自由に生きてください。誰にでも自由に生きる権利がある」


 ただし、国の法の範囲内での話ではあるが。もしも、今の帝国のように国の法に納得がいかないのであれば、別の国に移住するしかない。


「もし、義足をもらえるのであれば残りの人生を懸けてコメット様を守ると誓おう」


「いや、故郷に帰って自由に暮らす選択肢でもいいんですよ? いや、本当に」


 これ以上、旅の仲間が増えていくと入国や出国時に大所帯となり怪しまれてしまうかもしれない。誰か何か良い言い訳を考えてくれないだろうか? コメットサーカス団とか? そんなことを言ったら本当にサーカスをする羽目になりそうだ。


「そのような不義理なことは出来ん! どうか許可を」


 ロスキタスの意思は固いようだ。


「うーん、そこまで言うなら許可しますけど、代わりと言っては何ですがトラリア連邦に行った時は案内をお願いしますよ」


「お任せを!」


 話がまとまった直後、シャーリンちゃんが戻ってきた。そして計測用の工具でロスキタスの体を測っていく。


「ふむふむ……断面のサイズは50センチじゃな。ふむふむ……良し! 多分魔導アーマーのスペアパーツを流用すれば割と簡単に作れそうじゃ! そうと決まればこの奴隷を連れていくが、良いな!? 返事など聞かずとも分かるとも! では行こう!」


「な!? コメット様! この方に任せて大丈夫なのか!? 何故黙って手を振っている!?」


 シャーリンちゃんはロスキタスの台車を押して研究室に戻って行った。俺は黙って手を振るしかなかった。


「ふぅ、今日はなんだか疲れました。もう何もせずに寝ます」


「たしかに色々ありすぎて疲れましたね。私達も着替えたら休むことにします」


 マリアさんとルート君も色々あって疲れてしまったようだ。俺は今日フィッツ商会で得た情報を忘れないようにメモに残した。


 その後、俺は自室に戻ると泥のように眠った。

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