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「マリアさん、今日の予定は何かありますか? 何も無ければお願いしたい事があるのですが」


「今日の予定ですか? 特にありません。もし、何かあってもコメット様のお願いであれば最優先に致します」


「いえいえ、予定があるときは断ってくれていいですから。ルート君も一緒に来て貰っていいですか?」


 俺がルート君に向かって尋ねる。


「はい! 楽しみです!」


 元気があって良い返事をするルート君。


「じゃあ、付いてきてくだだい」


 俺は衣装部屋に向かった。ついでに途中で見つけた従業員を捕まえて同行してもらう。


「それじゃあ、マリアさんとルート君は貴族風の衣装に着替えてください。俺も着替えます。従業員の方、手伝いをお願いします」


「は、はい!」


 従業員は慌てて服選びを始める。


 マリアさんは何故貴族風の衣装に着替えるのか分からないといった顔をしているので、俺は説明することにした。


「今から俺達は貴族ごっこをします! どうですか? 楽しそうでしょう?」


「わーい、やったー!」


 ルート君は喜んでいるようだ。


「あ、あの、どうして貴族ごっこを?」


「ああ、大事な目的を先に言うべきでしたね。目的は奴隷商会の視察です」


 奴隷商会で売られている奴隷の価格をチェックしたり、奴隷商会の現状を聞き出してみようと思っている。


「そんな事をして大丈夫でしょうか?」


「大丈夫ですよ。いざとなったら俺が責任持ってなんとかしますから」


 なんとかするとは、『たたかう』『にげる』『はなす』『どうぐ』など、色々とやりようはある。


「そうですか。コメット様がそうおっしゃるなら私達は信じてついていくだけです」


「はい、安心してください。じゃあ、着替えたら出発しましょう」



 着替えが終わり、誰にも見られないように裏口から出た。ちなみに俺はカツラと付け髭を装備している。変装は完璧だ!


 まずはこちらに圧力をかけていたフィッツ商会に行ってみよう。


 少し歩くとフィッツ商会が見えてきた。かなり高級感のある店構えだ。庶民は絶対に入れない雰囲気を醸し出している。


「うわぁ! こんなお店入るの初めて!」


 ルート君がはしゃいでいる。


「ルート、これから私達は貴族の家族としてお店に入るのです。あまりはしゃぎすぎないようにしなさい」


 マリアさんに怒られてシュンとするルート君。


「多少はいいですよ。ルート君、奴隷商会とはどういう店か、ちゃんと見ておくと良い経験になりますよ」


「は、はい。ちゃんと見ます」


 真剣な顔になったルート君は目を見開いて店を観察している。


「じゃあ、入りましょう」


 俺が先頭で店に入る。


「いらっしゃいませ。フィッツ商会へようこそ。私がこの商会の会長を務めるフィッツジェラルドでございます。以後お見知りおきを」


 出迎えたのは眼光の鋭い眼鏡の男だった。痩せているが、修羅場をくぐり抜けた者特有のオーラのような物を感じる。


 従業員はほとんど見当たらない。雇う余裕も無くなってきたということかな?


「奴隷を買いたいのですが」


「おお! そうですか! それならばショールームにご案内します。奥様とお子様には少し刺激が強い可能性もありますので、ここでお待ち下さい」


マリアさんとルート君は待合室で待機し、俺だけがフィッツジェラルドについていった。

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