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「コメット様、ご報告があります」
俺がゴーレムを作っていると、ネルソンが話しかけてきた。
「何かありましたか?」
「先程、フィッツ商会の方が訪問されました。このネルソンゴーレム商会をまるごと買い取りたいとのことでした。もちろんお断りしたのですが、去り際に『もう鉄は手に入らない。早く諦めることだ』と言われまして、仕入先に確認したところ、もう鉄は売れないとのことでした」
ネルソンは帝都に何店舗か販売店を展開しており、今ではネルソンゴーレム商会となっている。それをまるごと買おうというのだからかなりの資金力があるということなのだろう。
「そうですか。多分、フィッツ商会からの圧力があったんでしょう。鉄の在庫は十分あるのでそれほど心配しなくてもいいです。それよりも、フィッツ商会と言えば奴隷売買が主な事業でしたよね?」
「はい、その通りです」
これだけあからさまにゴーレムを販売していたらいつか目をつけられることは分かっていた。これから先どんな手段に出てくるかは分からないが、莫大な資金力で経済的に殺しに来るか、それとも武力的に解決しようとしてくるか、だと思う。
「じゃあ、こちらも動き出したほうが良さそうですね。マリアさんとルート君に護衛を付けておいて下さい。あと従業員達にも注意するように通達をしておいて下さい」
「了解でありますです!」
妙な返事をするネルソンは放っておいて、更に指示を出す。
「砂を大量に集めて下さい」
「砂、ですか……? ただちに手配します!」
3時間後、帝都中から集められた砂が運び込まれてきた。帝都以外の街も含めて、まだまだ砂は運ばれてくる予定だ。
「こんなに砂を集めてどうするんだ?」
砂が搬入されたのが気になったのかカーラがやって来た。
「こうするんですよ。ファイア、ウィンド!」
熱してガラス化した砂に風を当ててガラスの塊を作り出した。
「ガラスか、これで終わりなのか? これじゃただの置物にしか使えなさそうだが」
「まだ終わりじゃないですよ。見ててください。クリエイトゴーレム!」
ガラスの塊が変形し、美しいガラス製のゴーレムになった。
「おお! これは綺麗だな。鉄のゴーレムより見た目もいい。貴族からの人気がありそうだ」
貴族向けにメイド風のゴーレムにしてある。
「それが狙いです。重い荷物などは運べませんが、観賞目的や身の回りの世話程度ならガラスゴーレムのほうが良いですからね」
「なるほどな。これは更に奴隷が売れなくなるだろう」
カーラが悪い笑みを浮かべる。お主も悪よのう。
「というわけで俺はしばらくガラスゴーレムを作り続ける予定です。もし何かあれば、この工房に来てください」
「分かった。最近はシャーリンちゃんが私の魔導アーマーを改造していてな。動作チェックの為に呼び出されることが多いんだ。今日もこれから呼ばれているのでな。そろそろ失礼させてもらう」
「頑張ってください。シャーリンちゃんには事故を起こさないように注意しておいて下さい」
シャーリンちゃんは既に何度か爆発事故を起こしている。これ以上はネルソンの薄い髪の毛がストレスで更に薄くなってしまうだろう。
「ああ、従うかどうか分からないが伝えておく」
カーラの返事を聞いて、多分次の事故も起こるのだろうと思いつつ作業を続けるのだった。
――1週間後、ネルソンゴーレム商会は大忙しとなった。
ガラスゴーレムは大ヒットし、皇帝一族や貴族から大量に注文があったのだ。
俺も魔力がある限りガラスゴーレムを作り続けた。魔力操作10のおかげで少ない魔力でゴーレムを作る事が出来る事に気付いたのだ。
「コメット様! またガラスゴーレムの追加注文です! ただの砂が1000万コインで売れていくなんて信じられません!」
ほとんどただの砂が1000万で売れているのだから、かなりの利益率だ。
価格設定も皇帝一族や貴族向けに高めに設定しているが、メイドや執事もこなせる奴隷よりは安いので、奴隷商会はかなり焦っているだろう。
「ネルソンさん、奴隷下取りキャンペーンをしてください」
「奴隷下取りキャンペーンですか?」
「はい、不要になった奴隷と引き換えに割引するんです。不要になった奴隷は殺されたり奴隷商会に売払われたりする可能性が高いので、その前に引き取って開放するんです」
「分かりました! すぐにキャンペーンを出します!」
引き取った奴隷は魔導列車で東の砂漠に送ればいいかな。引き取った奴隷には隷属魔法がかけられているんだったっけ? どうするかは後で考えよう。
「あと、そろそろ底値の奴隷を買い叩いてください。奴隷を買う場合は、ネルソンさんではなく第三者を経由するようにお願いします」
ネルソンゴーレム商会に奴隷を売ってくれるはずがないので、第三者を経由する必要がある。
「承知しました! さすがはコメット様、奴隷商会もこれで終わりですな」
「いえ、奴隷商会の資金はまだまだ豊富です。これからが本当の戦いですよ。それともう1つ、アダマンタイトを買い集めてください」
「アダマンタイトですか!? アダマンタイトは希少すぎて皇帝や貴族達が独占していると思われますが……」
「ゴーレム数体分でいいんです。皇帝一族や貴族に交渉してみてくれませんか?」
「分かりました。しかし、交渉材料が少し足りないかもしれません」
「うん、アダマンタイトを売ってくれたら優先的にゴーレムを納品すると言えば売ってくれるかもしれませんね。もし必要であれば純金製のゴーレムを特別に作ってもいいですよ」
貴族は見栄を何よりも気にする生き物だ。他の貴族が持っていない純金製のゴーレムを所有出来ると聞けばいくらでも交渉に応じるだろう。
「分かりました! このネルソンが必ず交渉を成功させてみせます!」
ネルソンは工房を去り、俺はガラスゴーレムの量産作業に戻った。今では並列魔法により10体のゴーレムを同時に作り出すことに成功している。
「でも、最近ゴーレムばかり作っているなぁ。そろそろ飽きてきたかも。というか観光とか全然出来てない気がしてきた。誰かを誘って外出してみようかな。あ、良い事を思いついた!」
俺は急いでマリアさんとルート君の所に向かった。




