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「うおおおおおお! これが帝都!」
目の前には東京ドーム何個分なのか分からないほど広大な敷地を囲むように巨大な壁があり、今も拡張工事が進められているようだ。
そして、帝都は上方向にも巨大だった。まるでミルフィーユのように、土地と空間が交互にあり、天井が明るく光っている。人工太陽だろうか。
帝都の空中を卵のような球体が飛んでいる。風魔法を使った乗り物だろうか。
「かなり文明が発達してますねぇ」
帝都に近づくと巨大な壁はより一層巨大になり、帝都に入るための門と順番待ちしている人々の列が見えてきた。もちろん俺もその列に並ぶ。
手に持っているのは帝国兵が持っていたIDカードだ。門を通る時に身分証として役立つと思って持ってきた。もしもバレた時には全力で逃げて壁から侵入するしかないだろう。
しばらく列に並んでいると、ようやく自分の番がやってきた。
「次! 身分証を提示しろ!」
「はい、どうぞ」
「……お勤めお疲れ様であります! お通りください!」
このIDカードの帝国兵は門の兵士よりも階級が上だったのかもしれない。ろくに顔や装備のチェックなどもなく通ることが出来た。
「さてと、まずはどこに行こうかな?」
ぶらぶらと街を散策することにした。門を通ってすぐにメインストリートが真っ直ぐ伸びている。そして、その両脇には様々な店が立ち並んでいる。
丁度すぐ近くに食料品店の看板が見えた。
「お、食料品店か。今の時代の人は何を食べているのかな?」
食料品店に入ってみた。店のドアに近付くとプシューッという音と共にドアが勝手に開いた。魔力感知には光魔法と風魔法の気配がしたので魔法で動作しているようだ。
「いらっしゃいませー! ごゆっくりどうぞと言いたいところなんですが、ご存知の通り今は戦争の準備のせいで品薄なんです。すみませんね」
「なるほど、仕方がないですよ。残っている品物を見せてもらっても?」
「もちろんです。品数は少なくとも品質は良いですよ」
店主の返事を聞きながら棚の商品を見ていくと、そこには謎の錠剤が並んでいた。
商品名にはこう書かれている。【帝国料理フルコース味】、【東風スパイス味】、【魔石味】、【筋肉モリモリマッチョマンの変態味】。
なんだこれ!? 全く意味が分からないし、最後のほうなんてもう食べ物なのかどうかすら怪しいぞ。でも、店主は品質は良いと言っていたしなぁ。そもそも、この謎の錠剤は食料なのだろうか?
聞きたいけど、一般常識なのかもしれないし聞いたら怪しまれるかもしれない。困った。
「申し訳ありません。味が良い割高な商品か、人気のない味しか残っていないのです。でも、必要な栄養素は全て含まれておりますので、ご安心下さい」
俺が商品棚の前で困った顔をしていると店主が何を勘違いしたのか、弁解を始めた。でも、なんとなくヒントになる情報が貰えて良かった。この錠剤は多分、完全食だ。完全食とは健康を維持するために必要な栄養をすべて含んだ食品のことである。
この小さな錠剤に全ての栄養が詰まっているのか、凄いな! そして商品名は味付けの名前か。よく見ると商品名の下に価格が書かれている。帝国料理フルコース味は5万コインだ。
俺はハッとした。そういえば、俺が持っているお金といえばガルズーガで使えるウォータというお金だけだ。この帝国の通貨の単位はコインというらしい。何かを買うにしても、まずはお金が必要だ!
「えーっと、探している商品が見つからなかったので今日は帰ります」
「そうですか。またのお越しをお待ちしております〜」
適当な理由を言って店を出た。
「お金がないのは問題だぞ。お土産も買っていきたいし、宿にも泊まれないのは厳しい。どうしよう!?」
まずは金策を考えなければ。ここまで来て何もせずに帰るわけにはいかないのだ。




