018
全てを思い出したコメットが長い回想を終え、周りを見回すとそこは石造りの壁、鉄格子、トイレと思われる穴があった。
つまり、どう見ても牢屋の中だった。
「え?」
何故、自分が牢屋に捕まっているのか思い出せない。
記憶を取り戻した時のショックでボーっとしている間に牢屋に入れられたようだ。
とりあえず看守を呼んでみることにする。
「おーい、看守さーん!」
「おーい!誰もいないのかー?」
看守が近づいてきて檻を棒で叩く
「うるさいぞ!黙ってろ!!」
「あのー……」
「痛い目にあいたくなければ黙れ!」
問答無用ということが分かった。
「……」
これ以上は黙っておくことにした。
翌日、騎士っぽい格好の人がコメットの牢屋まで来た。
「お前!これから質問をするから偽りなく答えよ!」
「分かりました」
「名前は?」
「コメットです」
「この街に来た目的は?」
「記憶喪失で森を彷徨っていたので、街まで命からがら逃げて来ました」
「嘘をつくな!記憶喪失のフリをして、我が国に潜入するつもりなんだろう!」
「本当です。そうだ、あの熊の毛皮が証拠です」
「黙れ!私は騙されんぞ!まずはお前の事を領主に報告させてもらう。我が国の転覆を狙うスパイだとな!そうなれば、お前は処刑されるだろう」
「何の証拠もなしに処刑するのですか?」
「疑わしきは罰するべきなのだ。もしスパイじゃないのだとしたら、運がなかったと諦めるのだな!ハッハッハ!」
騎士風の男は笑いながら去っていった。
うーん、この国はハズレっぽいなぁ。
末端まで腐ってるとなると、国のトップはよほどの愚か者か、性質が悪い者だろう。
こうなったら選択肢は一つだな。脱走するしかない。
でも、普通に脱走するだけじゃ面白くないよなぁ。
しばらく情報収集をしながら考えてみよう。
そして処刑前に計画を実行しよう。
そうと決まれば牢屋で時間を潰すのは愚策だ。
牢屋の壁の一部を扉のように開くように改造する。
石工10の職人技によって改造されたようには見えない。
牢屋を出ると建物の外に出ることが出来た。1階だったようだ。
そのまま街に潜伏し、物乞いに話を聞いた。
その結果、この国の名前はガーマ帝国であり、悪政によって民は苦しめられていることが分かった。
街の外れにはスラム街も存在するようだ。
領主の家の場所も聞いておいた。
ガーマ帝国の東にはエディア共和国があり、南にはパルム教皇国、北と西は海が広がっているようだ。
よし、目的地はエディア共和国にしよう。
次に計画を考える。脱出計画である。
どうすれば、この街を少しでも良く出来るのか。
そして計画を思いついた。次は準備だ。
4メートルはある壁をジャンプで飛び越える。
森まで行き、鑑定を繰り返しながら目的の物を探す。
「鑑定、鑑定、鑑定、あった!」
【ナスディーの実】
15センチメートル程の丸い実。タンニンを多く含んでおり食用には向かない。肌に塗るとタンパク質と反応し、黒く変色する。変色した部分は二度と戻らない。
なんて凶悪な実なんだ。汁が手に付かないように厳重に葉で包んだ。
あとはクヌギに似た木の樹液を採取して木で作った器に入れた。
再度壁をジャンプで越えてこっそり牢屋に戻る。
ナスディーの実は壁の中に空洞を作って隠した。
計画の時間まで待機する。
夜になった。さあ、始めよう!
壁の扉から外に出る。忘れ物は、ないな。ナスディーの実と樹液くらいしかないしな。
まずは、この牢屋のある建物の責任者を探そう。
この建物は基本1階建てだが、一部2階建ての部分がある。
きっとそこだろうということでジャンプして窓から侵入する。
まずは個人的なことで申し訳ないけどタンスを漁って服を貰う。ずっと裸か毛皮か囚人服だったので、まともな服を着たくなったのだ。
と思ったけど、サイズが合わず、ぶかぶかだ。裁縫スキルも取っておけば良かったか。
とりあえず、見た目を隠せるマントを貰っておく。
あとは金目の物を物色だ!出来れば現金だけのほうがいいかな。
厳重に鍵のかかった鉄の扉を発見した。これっぽい。
扉を力任せにこじ開ける。さすがSTR最大の力だ。
中には大量の金貨と何かの書類が入っていた。
うーん、書類を読む時間はないな。
大量の金貨を大きな布に包んで持っていく。
すると部屋の扉が開き
「何者だ!」
責任者らしき人物が現れた。と同時にコメットは責任者の背後に瞬間移動し、手を叩いて音を鳴らす。
「パァーーーーン!!」
物凄い音と衝撃波によって責任者らしき人物は耳から血を流しながら気絶した。
最初、手刀で首トンして気絶させようとか思ったけど、首の骨が折れる未来しか見えなかったからやめた。手加減って難しい。
気絶させた男は簀巻きにして持っていく。
窓から脱出し、次は領主の館へ。
領主の館は警備をしている者が複数居たが高速移動とジャンプによってバレずに侵入出来た。
領主もきっと金品を貯め込んでいるはずだ、領主の部屋を探していく。
ひときわ豪華な扉を見つけた。多分この部屋っぽいな。失礼しまーす。
ドアノブを掴むとくしゃっと潰してしまった。
「あ……」
握力が強すぎた。これは実生活に支障が出るレベルだぞ。
領主はベッドで寝ているようだ。
さるぐつわ、簀巻きを手際よく済ませる。
「むぐ!むぐぐーーー」
何か言っているようだが、無視する。
部屋には大きな鉄製の扉がある。金庫のようだ。
扉を押すとグニャっと鉄が変形し、ドア枠ごと外れてしまった。
大量の金貨や白金貨と思われる物が保管されている。
他にも、宝剣やらアクセサリーやら壺やらが置いてある。
狩りに使えそうな剣は貰っておこうかな。迷惑料として。
あと、貨幣は全部没収です。
これで計画の第一段階は完了だ。
次に領主と監獄責任者の顔にナスディーの実で罰ゲームのお絵かきをする。
眉毛を繋げる。領主は暴れるので威圧したら小を漏らして気絶した。
瞼に第二の目を描く。あとは鼻毛か。あとは調子に乗って、濃いヒゲともみあげを描いておこう。首から下は全部真っ黒でいいか。
下着姿にした領主と監獄責任者にナスディーの実を塗りつける。
再度簀巻きにして2人を担いで、一旦森まで行き木に吊るす。
次に樹液を2人の身体に塗りつけて、日が昇る直前まで放置する。
2人はたまに目を覚ましては、身体に群がる虫を見て気絶する、を繰り返している。
日が昇る前に2人を街の広場まで運び、適当な場所に吊るす。
領主を起こして低い声で伝える。
「民の為に尽くせ。俺は見ているぞ」
領主はブルブルと震えながらも頷いた。
そして最後にスラム街に行き、金貨をばら撒く。
貧しい家の中にも放り込む。道路で寝ている物乞いにも渡す。
白金貨もばら撒こうと思ったが、貰った人が後で不幸になる可能性が高いので止めておいた。
日が昇った。
「ふー、ここまでだな」
やっぱり徹夜は疲れるなぁ。
「ほいっ、と」
壁を飛び越えてエディア共和国へ向かった。




