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――作戦決行の早朝。帝国兵はいつも通り、仲間の待つ見張り台に向かう。
「よお、交代の時間だ」
「あんたか。助かった。この歳になると夜勤は厳しいわ」
「はは、後は任せてくれ」
「ああ、頼んだ……ん? 何だこの音は?」
ドドドドドドドドド……
遠くから地鳴りのような音が聞こえてくる。
「おい、なんだありゃあ!」
「嘘だろ……あれはまるで……」
2人の目には砂煙を上げながらこちらに向かってくる魔物の群れが映った。その数は数百に及ぶだろう。
「スタンピードだ!」
「警報を鳴らせ! 俺は本部に連絡する!」
一方、コメットはスタンピードの先頭に居た。
「お、警報が鳴ったね。カーラさんは警報に気づいたかな? こっちは信じて作戦を開始するしかないけどね!」
俺は今グレーターシンバの背中に乗っている。巨大なライオンで、付近のサバンナを支配していた魔物だ。
「もう少しで奴隷村か。お前達! 攻撃してきた奴は敵だ! 無抵抗な人間には攻撃するんじゃないぞー!」
「グオオオオオオオン!」
グレーターシンバや他の従魔達の返事を聞いた後、太陽神の仮面を装着する。
「あ、奴隷村に5機しかない魔導アーマーが出てきたね」
奴隷村をぐるっと一周偵察した時に魔導アーマーの数を確認したのだ。迎撃するために出てきた魔導アーマー兵はこちらに狙いをつけるとアイスアローを放ってきた。
「火の力よ 爆散せよ ファイアボール!」
ファイアボールの爆発にアイスアローを巻き込んで相殺する。
「太陽神の怒り!」
奴隷村の壁を熱光線が切り裂く。ついでに魔導アーマーも切り裂いた。魔導アーマーの中の帝国兵が無事だといいが、今は助けてやるほどの余裕はない。従魔達と共に一気に奴隷村になだれ込む。
「よっと! 大顎!」
俺はグレーターシンバから飛び降りると牢屋を壊して奴隷を解放していく。
「あなた様は!?」
「太陽神だ。あの魔物は我の従魔だ。帝国の奴隷制度が気に入らないのでお前達を解放する! 帝国兵を縛り上げるのを手伝ってくれ」
「は、はい……えっ!?」
よく分かっていないようだが、ロープを手渡して次の牢屋に進む。こうして俺は全ての牢屋を解放した。奴隷たちは多少混乱しながらも従魔が倒した帝国兵を縛り上げていった。
ドォーンッ!!
奴隷村の少し離れた場所で大きな音がした。多分、カーラだろう。きっと大丈夫だとは思うけど、様子を見に行ってみることにした。
「カーラさーん! 大丈夫ですか〜?」
「ああ、コメッ……いや、太陽神様か。こちらは全く問題なかったぞ。ほら、計画通りだ」
カーラの魔導アーマーの腕の先には帝国の将軍らしき人物が持ち上げられていた。コメットは陽動部隊、カーラは敵の将軍を討つ作戦というわけだ。
「ぐっ……女ごときに負けるとは……殺すがいい! だが、部下の命は助けてくれ!」
「いけません! ブローマン将軍! 将軍は帝国に必要です!」
ブローマン将軍の部下らしき人達が縛り上げられながらも叫んでいる。うーん、殺すのは気が進まないし、どうしようかな?
「あ、いいこと思いついた。じゃあ、命は助けてあげましょう」
「本当か!?」
「ただし、条件があります」
「条件だと? な、何を要求する気だ?」
「あなた達のスキルをもらいます」
「スキルをもらう? そんなこと出来るわけがなかろう」
「吸収!」
俺はブローマン将軍に手を当ててスキル吸収を発動した。
《スキル:名将1の鼓舞を吸収しました。名将の鼓舞1を取得しました》
《スキル:槍術5を吸収しました。槍術10に統合されました》
おお、なんか便利そうなスキルだ。続いて部下達のスキルを吸収。
《スキル:物理耐性を吸収しました。物理無効に統合されました》
《スキル:剣術3を吸収しました。剣術10に統合されました》
……
結局、有用なものは将軍のスキルくらいしかなかった。
【名将の鼓舞】
軍の士気が大幅に上昇する。攻撃力大アップ。防御力大アップ。恐怖耐性大アップ。
「なかなか良いスキルをありがとう」
「馬鹿な……」
ブローマン将軍と帝国兵はステータスを確認した後、スキルがないことに気づいて愕然としたようだ。とりあえず帝国兵達は奴隷が居た牢屋に入ってもらった。
奴隷の中にまとめ役が居たので、村の中央に奴隷を集めてもらった。奴隷達への状況の説明と今後について話しておこうと思ったからだ。
「我は太陽神! 東の砂漠からやって来た。奴隷制度などという下らない制度は我が潰した! お前達は解放されたのだ!」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」
「お前達は自由だ! 何処へなりと行くがいい! 行く宛が無ければ東の砂漠にある都市に行くのも良いだろう」
「ありがとうございます! 太陽神様!」
「ありがたや〜、ありがたや〜」
奴隷から解放された人々からお礼を言われながら一旦列車に戻った。




