174
外でボーンドラゴンが暴れているせいか、それとも実験とやらで忙しいのか帝国兵をほとんど見かけないまま実験施設らしき区画まで来た。壁には大きく【A1-2 魔導アーマー研究部門】と書かれている。実験とは魔導アーマーに関する事だったのかもしれない。
通路や各部屋には研究員らしき人達が居る。俺は誰にも見られないように注意しながら進んでいく。気配察知と魔力感知をフルに使いながら進むと、魔力感知のほうに反応があった。
「これは、多分カーラさんの魔力ですね」
一番奥の部屋からカーラの魔力を感じる。俺はその部屋の中に忍び込んだ。部屋の中には様々な魔導アーマーが並べられており、試作機のような物も多かった。研究員らしき人物が2人居て、話し声が聞こえてくる。
「実験の結果はどうだ?」
「ダークエルフの魔力との親和性が高いですね。これなら稼働できそうです」
「そうか! それなら、次はその女を洗脳して兵士にしてみよう」
研究者の上司と部下といった感じかな。とりあえず眠ってもらおう。
「眠針! 眠針!」
「ぐッ!」
「せん!?」
よし、これでOK。
「カーラさ〜ん! 居ますか〜? 太陽神コメットが助けに来ましたよ〜!」
強化ガラスの部屋の中に魔導アーマーに乗ったカーラが居た。
「コメット殿か! こっちに来てコレを外すのを手伝ってくれないか!?」
カーラの赤い魔導アーマーは他の魔導アーマーよりも格好良く、3倍速そうだった。
「魔導アーマーになんか乗って羨ま……いや、大丈夫ですか? 降りられないんですか?」
「そうなのだ。魔導アーマーは全く動かせないし、何かが両手両足に絡まって降りることも出来ないんだ。なんとかしてくれ。ところで、その変な仮面は何だ?」
「これは太陽神の仮面です。帝国に顔バレしたくなかったので被ったんですよ。それじゃあ、ちょっと見てみますね……」
確認すると、カーラの両手両足はどういう仕組みか分からないが魔導アーマーと一体化していた。これを無理やり取り外すとなったら外科手術になるだろう。回復魔法もない現状では手が出せない。
「これは完璧に一体化しちゃってますよ。外すことは不可能に近いです」
「なんだと!? 一生このままで居ろというのか!」
「ちょっと待ってください。とりあえず魔導アーマーが動けば逃げることは可能です。胸の所にポッカリと空いた部分にはコアか魔石が装着出来そうですね」
俺が周囲を探すと黒いコアらしきものを見つけた。
「このコアを魔導アーマーに取り付ければ動きそうですけど、やってみますか?」
「……動けないままここに居るよりはマシか。頼む、やってくれ」
「分かりました。何か異変を感じたらすぐ外しますから言って下さい」
「分かった」
カーラがきつく目を閉じたので、俺はコアを魔導アーマーに装着した。魔導アーマーから動作音が鳴り、急に立ち上がった。
「お!?」
「こいつ……動くぞ! 感覚も分かるし、思った通りに動いてくれるみたいだな」
「そうなんですね。羨ましいけど、仕方がありません。それはカーラさんの所有物だと認めます」
「さっきから何を言っているのか分からないが……どっちに逃げればいいんだ?」
逃げるのはいいんだけど、カーラの魔導アーマーは全長3メートルを越えている。通路は狭く、ギリギリ通れるかどうか。
「どうしましょう? まさか魔導アーマーに乗ったまま逃げるとは想定していませんでした。とりあえず、通れるか試してみましょう」
「分かった」
カーラが強化ガラスの部屋を出ようとしたところ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ガシャーン!!
地面が揺れていると思った直後、部屋の強化ガラスが割れた。
「地震!? しかも、かなり大きいですよ!」
床や壁にヒビが入り、地割れが発生する。天井も一部崩れている。警報が鳴り響き、混乱が広がっている。
「コメット殿! 急ごう!」
「分かりました! こっちです!」
崩れて更に通りにくくなった通路を無理やり進む。もう少しで魔導アーマー研究部門の区画の出口というところで、帝国兵2人と魔導アーマーが見えた。
カーラがどういう状況か分からない状態で戦闘は避けたかったが、仕方がない。覚悟を決めて戦う決意をしようとした時、帝国兵達の様子がおかしいことに気づいた。帝国兵2人と魔導アーマーが戦っている。
「うわああああ!」
「遠隔で制御していた魔導アーマーが暴走した! ぐはっ!」
魔導アーマーに吹き飛ばされた帝国兵は強く壁にぶつかり気絶してしまった。
「どうやら魔導アーマーが暴走しているようですね。カーラさんは何か異常とかありますか?」
「ん? いや、私は特に感じないな。むしろ、操作方法が分かって面白くなってきたところだ。私にアレの相手をさせてくれ」
カーラさんが獰猛な笑みを浮かべた。美人がそんな表情をしてもいいのだろうか。と、ふと思ったが、そんなことよりもカーラの魔導アーマーの性能は確かに気になるので見てみたくなった。
「いいですよ。ただし、カーラさんの魔導アーマーが変な挙動をしたら止めますよ」
「よし! 私の魔導アーマーの力を見せてやる!」
暴走した魔導アーマーは暴れまわり周囲の物を破壊し続けている。そして、カーラの魔導アーマーを認識すると両腕を振り回しながら向かってくる。
カーラの魔導アーマーは一気に接近すると、敵の攻撃を余裕で回避する。狭い通路だが、高い空間把握能力と運動性能で問題ないようだ。
「うむ、確認はこれくらいでいいな。次は攻撃だ」
カーラが魔導アーマーの腕を突き出すと敵がその腕を掴んだ。そして両者の力比べが始まった。だが、すぐに勝敗は決した。敵の魔導アーマーは押されて後ろに下がっていく。
「力もこちらが上のようだな。では、最後の確認をしよう」
カーラは敵の腕を掴み返すと引きちぎる。そして、敵の魔導アーマーのコアがあるはずの装甲を貫手で貫いた。敵の魔導アーマーは大破したがカーラの魔導アーマーは無傷だった。強度も数段上みたいだ。
「カーラさんの魔導アーマーは特別製みたいですね」
「ああ、そうみたいだな。脱出時の戦闘は私に任せてくれ」
「分かりました。では、急ぎましょう!」
さっきの大地震で建物自体が崩れる可能性がある。俺達は出口に急いだ。




