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街の混乱はなんとか収まったようだ。俺はガルズーガの長のところに事情を聞きに行くことにした。長の家に着くと家の壁は破壊され、戦いの傷跡が残っていた。俺は急いで家に入り、長を探した。
「長! 大丈夫ですか!?」
長は部屋の地面に倒れていた。命に別条はなさそうだ。
「う……コメット君か。わしは意識を失っておったのか」
「何があったんですか?」
「帝国からの襲撃じゃ。数年に一度こうやって襲撃し、住民を攫っていくんじゃ。そうじゃ、カーラは、カーラはどこじゃ!?」
「この家には居ないみたいですが、ここに居たんですか?」
「なんということじゃ……わしを助けるために囮になって逃げたんじゃ。もしかすると帝国に捕まってしまったかもしれぬ」
「分かりました。俺がカーラを探してみます。もしかしたら、上手く逃げて街に居るかもしれません」
「頼む。カーラを助けてやってくれい。わしに出来ることならなんでもする!」
「長はここで安静にしていてください。下手に動くと死にますよ」
俺は回復魔法を覚えていない。それは無詠唱魔法として覚えていたからだ。だから今はヒールも出来ないし、ポーションも持っていない。長を回復してあげることが出来ない。とにかく安静にしておくようにと忠告し、カーラを探しに出かけた。
カーラを捜索した結果、帝国に連れて行かれたらしいということが分かった。狩猟ギルドの者が目撃したらしい。俺は一旦長の家に戻って報告することにした。
「悪い予感が的中してしまったようじゃのう。住民たちの多くは連れ去られ、水結界も街もボロボロじゃ。わしらはどうすればいいんじゃ……」
今回の襲撃はかなり酷いようだ。長はかなり落ち込んでいる。
「カーラは必ず俺が連れ戻しますから、どうか安心してください。あ、そうだ。南東の街を再生する計画があるんですが、そこに移りませんか? ここよりは安全だと思います」
「南東の街じゃと……? ただの噂話じゃろう?」
俺はこれまでの経緯を長に説明した。廃墟の街が存在し、住民は居ない事。世界樹を植えた事についても説明した。
「世界樹……にわかには信じられんが、もしそれが本当なら、わしらはやっと安住の地を手に入れることが出来るのじゃな!?」
「ええ、そうです。さすがに帝国もそこまで攻めては来ないでしょう。サソリ君2号を案内役として貸します。設備や人の運搬にも便利ですよ」
「分かった。わしはここの住民を説得しておく。カーラを頼んだぞい」
長の目に希望の光が戻った。
俺はすぐにボーンドラゴンに乗って帝国を目指した。サソリ君2号はガルズーガの警備用に置いてきた。今のガルズーガは水結界がないので外敵に対して全くの無防備だから。
「不謹慎だけど、ちょっとワクワクするよね。帝国の文明はかなり進んでいそうだ。それに魔導アーマー欲しい」
つい本音が漏れてしまった。魔導アーマーは欲しいけど、砂鋼の両手剣で斬れてしまった装甲はいただけない。俺だったら少なくともアダマンタイト製にするだろうね。
ドォーーーーン!!
ボーンドラゴンに乗って走っていると、突然地面が爆発した。地雷!?
「大丈夫!? ボーンドラゴンの足が粉々になってるけど!?」
俺はほとんど被害を受けなかったが、ボーンドラゴンの足は割とダメージを受けたみたいだ。
「再生スルマデ、少シ時間ヲクダサイ」
ボーンドラゴンの散らばった骨片を集めて再生するらしい。だが、大きく時間をロスしてしまった。翌朝、ボーンドラゴンの足は完璧に再生していた。
「ボーンドラゴン、これを装備しろ。まだまだ地雷はありそうだからね」
俺は一晩かけて作った砂鋼製の爪を渡した。この爪は足の底も保護する構造にしている。次に地雷を踏んだとしてもきっと大丈夫だろう。
「ワカリマシタ」
「……よし、じゃあ出発だ!」
ボーンドラゴンが爪を装着したのを確認してから出発した。その後、何度か地雷を踏んだがボーンドラゴンの足が粉々になることはなかった。
1日中、ボーンドラゴンが走り続けたが帝国軍に追いつくことは出来なかった。
「タイヤらしきものの跡があるから、輸送車を使ったのかもしれないな。あとは、地雷のせいだ」
今、目の前には敵の基地が見えている。出来れば、敵が基地にたどり着く前に捕虜を取り返したかったけど、仕方がない。帝国に喧嘩を売りに行こう。
「あ、ちょっと待った。帝国に喧嘩を売るなら正体を隠したほうが都合がいいよね。指名手配とかされそうだしね。そんな時は、テレレレッテレー! 太陽神の仮面!」
太陽神の仮面を装備する。ちゃんと5時間太陽に当てておいたので、スキルも使える状態だ。どんなスキルが飛び出すのか楽しみだ。
そして今回の作戦は……正面突破に決定しました! 俺は太陽神として帝国に正義の鉄槌を下すのだ。そして帝国に恐怖を植え付けなければいけない。二度とこんなことを起こさないようにね。
「それじゃあ、レッツゴー! ボーンドラゴン!」
ボーンドラゴンが全速力で帝国の要塞に近づいていく。駆け抜ける足元では地雷が爆発していくが、対策済みなので問題はない。ただし、爆発音で接近していることがバレてしまったようだ。要塞からけたたましい警報音が鳴り響く。
「あー、ぞろぞろと魔導アーマーが出てきたね」
要塞の壁の上に魔導アーマー達が整列し、銃口がこちらを狙う。
「せっかくだから太陽神のスキルを試してみよう。太陽神の怒り!!」
スキルを発動させると自分の額から一条の赤い光が迸る。光の当たった要塞の鉄壁は真っ赤に溶けて崩れていく。俺は要塞の壁を斬り裂くように横一文字に薙ぎ払った。
「熱光線じゃん! なかなかの威力だし、今後とも使っていこうかな!」
要塞の壁のほとんどが溶けて中が丸見えになった。そして、壁の上にいた魔導アーマーのほとんどが機能停止したようだ。
「よし! 進め! ボーンドラゴン!」
要塞の中に侵入する。何体かの魔導アーマーが取り囲んでくる。俺はボーンドラゴンを飛び降りて、指示を出す。
「俺は要塞の中に入るから、ボーンドラゴンはここを死守しておいてくれ!」
「承知シマシタ」
ボーンドラゴンの骨マシンガンの音を後ろに聞きながら要塞の内部に侵入した。




