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「さて、今日からやっと街の観光ですね。カーラさん、案内をお願いします」
「ああ、大体の場所なら案内できると思う。どんな場所に行きたいんだ?」
「そうですね。まずは冷却服を売っている店に行ってみたいですね」
「分かった。ついてこい」
カーラさんについていくと、大きな店に着いた。雑貨屋のような雰囲気だ。ショーウィンドウには最新式の冷却服が飾られている。店の中に入ると、様々な魔道具が置かれている。
「カーラさん、これは何ですか?」
「それは魔道水筒だ。魔石さえあればいくらでも水が湧き出てくる道具だな。狩猟者には必須の道具でもある」
「へぇ〜そうなんですね。こっちのこれは何ですか?」
「ああ、これか。魔道冷蔵庫だ。食材や素材を中に入れると冷やしておくことが出来るぞ。これは裕福な家には必ず置いてあるな」
ここでしばらく生活するなら買ってもいいかもしれない。だが、必須かと言われると微妙なんだよな。炎熱無効スキルで冷却服は不要だし、水は魔法で生み出せるし、冷蔵庫も氷魔法でなんとかなりそう。
それにしても、砂漠の街だけあって水や温度に関する魔道具が多いな。その土地に合った文明になるというのは面白い。
「俺も狩猟者ですからね、魔道水筒を買います」
水分補給もなしで動き続けたら不自然に思われるだろうから、買っておくことにした。魔道水筒は20万ウォータだった。店を出てカーラに次の要望を伝える。
「次は武器屋を見たいです」
「ああ、それなら私の得意分野だ」
カーラのオススメの武器屋に来た。鍛冶スキルのレベルは10だから本来は自分で作ったほうが良い武器を用意できるのだけど、鍛冶のための窯も素材も砂漠で用意するのは難しかったので、とりあえずの武器を買うことにしたのだ。
「いらっしゃい。おや、カーラが友達を連れてくるとは珍しいな」
店主のダークエルフだ。
「友達ではない。ただの案内役だ。武器を探しているようなので連れてきた」
「コメットと申します。オススメの片手剣か両手剣はありますか?」
「用途は狩猟用か?」
「はい、狩猟用です」
「分かった。少し待っていろ」
少し待つと店主が店の奥から戻ってきた。手には、片手剣と両手剣らしきものを持っている。
「こっちは片手剣、こっちが両手剣だ。どちらも砂鋼製だ。見習いが打った代物だが、その分安くしとくぜ。初心者には十分すぎる性能だ」
初心者の狩猟者だと思われているようだ。まぁ、F級狩猟者だから間違ってはないけどさ。
「手に持ってみてもいいですか?」
「おう、いいぞ」
ヒュヒュン!!
片手剣はバランスが少し悪い。あと切れ味もそんなにない。初心者の鍛冶師が作ったのは本当のようだ。
ブォン!!
両手剣の重量感はちょうどいい。ジャイアントサイドワインダーを倒すにはちょうど良さそうだ。だが、やはり切れ味と強度が少し足りていない。
「両手剣はいくらですか?」
「本来100万ウォータだが、今なら50万ウォータで売ってやる」
50万ウォータなら買っちゃってもいいかな? ……あ、良い事を思いついた。施設を借りて両手剣を鍛え直せばかなり良い品質になるのではなかろうか。
「お願いを聞いてくれたら購入を決めたいのですが」
「あぁ? お願いだって? うーむ、普段なら内容すら聞かずに断るところだが、カーラが連れてきた客だしな。一応、お願いの内容だけは聞いてやる。言ってみろ」
「購入後に、鍛冶窯と鍛冶道具を貸していただきたいのです。もしくはそういう場所を紹介していただくだけでも」
「ふむ……まぁ、いいだろう。だが、失敗して剣が駄目になっても責任は取れんぞ」
「はい、大丈夫です。では、50万ウォータを先に払いますね」
50万ウォータを払った。
「いいだろう、窯はこの店にもある。こっちだ」
俺は店主についていく。カーラも最初は驚いていたが、ついてきた。小声で「鍛冶なんて出来るのか?」と聞いてきたので「大丈夫です」と返しておいた。
「壊さなければ自由に使っていい。ただし、作業は見させてもらうぞ」
「分かりました。火の力よ ファイア!」
鍛冶窯の中にファイアを放ち、両手剣を熱していく。
「!?」
店主もカーラも声が出ないほど驚いている。両手剣が十分に熱されたところで、ハンマーで形を整える。
「水の力よ ウォーター!」
最適な温度の水を桶に溜めて、その中に両手剣を沈めて焼き入れを行う。あとは、出来上がった剣身を研ぎ上げて完成だ。
「うん、なかなか良くなったかな」
「ちょ、ちょっと見せてくれ!」
店主が頼み込んできたので出来上がった剣を渡すと、剣を調べた店主はプルプルと震えている。
「……で!」
で? 出来損ないのゴミが!と怒る気だろうか。
「弟子にしてください! この両手剣は完璧です! この品質なら1000万ウォータでも即売れてしまいます!」
突然、弟子入りを懇願してきた。
「俺は弟子を取らない主義なんです。申し訳ありません。カーラさん行きましょう」
「あ、ああ。店主のあんな姿初めて見た」
「師匠待ってくださあああい!」
店主の相手をするのが面倒になった俺は逃げるように武器屋を後にした。




