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ガルズーガに戻ってきた俺達を見た狩猟ギルド解体班の人たちはしばらく絶句していた。
「ジャイアントサイドワインダーかよ、すげぇな……」
「お前達だけでこいつを仕留めたのか?」
「はい、正確には俺だけです。カーラさんはいくら頼んでも手伝ってくれませんでした」
「私の専門は水魔法だ! お前のような非常識な怪力は持ち合わせていない! それにそのような足のない生き物など気持ち悪くて……」
どんどん声が小さくなるカーラ。
「な、なるほど」
カーラはどうやら蛇が苦手なようだ。少し悪いことをしてしまったかもしれない。だが、こちらも知らなかったので仕方がない。
「というわけで、初仕事達成です。ここに置いておけばいいですか?」
「おう! これは受け取り札だ。これを持って受付で呼ばれるまで待て」
ここの親方らしき男から番号が書かれた札を渡された。
「分かりました」
「よーし、てめぇら! 久しぶりの大物だ! 気合入れて解体しろや!」
「「「おう!!」」」
慌ただしくなった解体場を後にして俺達は狩猟ギルドの受付に向かった。
狩猟ギルドの受付の隣には待機場所が設けられている。そこで待つことにした。酒場のような店もあるせいで、昼間から酒を飲んで酔っ払っている人も割といる。俺とカーラは酔っぱらい達から離れた適当なテーブルに座った。
「それで、コメット殿はこれからどうするのだ? これだけの実力があるのならS級狩猟者になることも夢ではないと思うが?」
「S級狩猟者? 狩猟者にランクなんてあるんでしたっけ?」
「ああ、そういえば受付から説明がなかったな。狩猟者になると最初はF級で始まり、次にE、Dと上がっていき一番上がS級狩猟者だ。ランクが上がれば街全体からの待遇が良くなる。例えばS級であれば、最高級宿とその宿の食事は無料だ」
なるほど、優秀な狩猟者を優遇することで食糧不足を改善しようとしているようだ。俺は世界を見て回りたいのでS級狩猟者を目指すつもりはないけど、一応詳細を聞いてみることにする。
「昇級するにはどうするんですか?」
「狩った獲物はポイントに変換される。ポイントは金か昇級に使うことが出来る。ちなみにE級に上がるために必要なポイントは1万だ」
うーん、相場がよく分からないから1万ポイントと言われてもよく分からないな。
「そうですか。とくにかく今はお金がないのでまずは現金化すると思います。その後の事はそれから考えますね」
「コメット様! 査定が終わりましたので受付までお願いします」
カーラとの会話が終わるタイミングで受付嬢から呼ばれた。
「はい、コメットです。受け取り札はこれです」
狩猟者証と受け取り札を受付嬢に渡した。
「はい、えーっと、F級狩猟者コメット様ですね。確認しました。今回のポイントは……ええええええええ!? 500万ポイント!?」
受付嬢がめちゃくちゃ驚いている。そうか、あの大蛇はそれくらいの価値があるんだな。まぁ、運ぶのは割と大変だったから妥当なポイントかもしれない。1ポイントいくらなのか全然分からないけど。
「狩ってきた獲物はジャイアントサイ……むぐ!?」
個人情報ダダ漏れの受付嬢は後ろから現れた先輩受付嬢らしき人物にチョークスリーパーされて意識を失ったようだ。
「新人職員が失礼致しました。後できつく言っておきますので、ご容赦ください。今回のポイントはいかが致しますか? ポイントのまま貯めることも可能ですし、現金化も可能です。それとも昇級をご希望ですか?」
「じゃあ、現金化でお願いします」
「かしこまりました。では、こちらをどうぞ」
狩猟者証が返ってきた。
「現金は?」
「あら、外から来た方でしたか。申し訳ありません。狩猟者証に500万ウォータを入金してありますので、使いたいときは狩猟者証を提示するようにしてください」
この狩猟者証はクレジットカードみたいなものか! 時代は進んだな! それにこの街の通貨はウォータで、1ポイントが1ウォータになるということも分かった。
「分かりました。ありがとうございます」
狩猟ギルドを出て、とりあえずの生活費を手に入れた。
「そろそろ陽が落ちるぞ。宿はどうするのだ?」
カーラから声がかけられた。そういえば、この人は観光案内役だったな。俺の中では、ただの蛇嫌いな人になりかけてたよ。
「オススメの宿はありますか?」
「ああ、任せておけ」
そうして連れてこられた場所は
「長の家じゃないですか!」
「そうだ。ここ以上に快適な宿はないぞ。しかも無料だ」
「せっかく稼いだ宿代が無意味!」
「いいじゃないか。長の奥さんが作る飯も美味いんだぞ。もちろん無料だしな」
本当に? 実は相手から迷惑に思われてる可能性があるのでは!? だが、もう陽も落ちてしまったので、今から宿を探すのも厳しい。
「怒られるならカーラさんだけにしてくださいよ? 俺は責任持てませんから」
「はっはっは! 私はここで何年も居候をしていたが怒られたことはない。任せておけ」
その結果、長はすんなりとOKを出した。俺は釈然としないまま宿泊をさせてもらったのだった。




