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ガルズーガから真っ直ぐ北に向かって1時間歩いた。カーラは何も言わずについてくる。街の観光案内を頼まれただけなんだから、狩猟にまでついてこなくてもいいのにと思ったが、監視も含まれているからついてくるしかなかったのかもしれない。
「カーラ。大丈夫ですか? こまめに水分を取ってくださいね。熱中症になったら大変ですし」
「冷却服もなしで歩き続けている奴には言われたくないな……ふぅ」
「じゃあ、少し休憩にしましょう」
大きな岩の影で少し休憩にした。
「そういえば、魔物は全然出てこないですね」
「北側は割と安全地帯だからな。だが、食料はちゃんといたぞ。ほら」
カーラは腰の袋から30センチ程度のトカゲを取り出した。
「い、いつの間に獲ったんですか!?」
「コメット殿が気づかずに踏んだトカゲだ」
「マジっすか……」
トカゲは砂漠の砂と全く同じ色・模様だった。砂に隠れていたら絶対に気づかないぞ。
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「ああ」
カーラが俺にトカゲを渡そうとした瞬間。
「ジャラジャラジャラジャラ!!」
「……何か変な音が聞こえましたよね?」
突然、カーラが持っていたトカゲを投げ捨てた。
「コメット殿! マズいぞ! ジャイアントサイドワインダーだ!」
サイドワインダーって、ガラガラヘビってこと!? 投げ捨てられたトカゲが放物線を描いて飛んでいく。すると、砂の中から10メートルはある蛇が飛び出してトカゲを丸呑みした。
「大きな蛇ですね。人間も丸呑みしそうなくらいだ」
「悠長なことを行っている場合か! あいつはレベル100を超える魔物なんだ! 今のうちに逃げるぞ!」
カーラはそう言って既に逃げ始めている。だが、俺は逃げない。何故なら蛇肉は美味しいからだ。鶏肉と魚肉の間のような味だ。この種類の蛇は食べたことはないが、きっと良い食材となるはずだ。
俺はカーラとは逆方向、蛇の方向に歩き出す。トカゲを丸呑みした蛇は次の目標を俺に定めたようだ。
「ジャラジャ!!」
尻尾を大きく振り、こちらに叩きつけてきた。
「うわっと!」
俺はジャンプし、ギリギリで尻尾攻撃を回避した。すると、蛇は俺の着地地点を狙って牙で噛みつこうとしてくる。ちょうどいい、あのスキルを使おう。
「毒尾!」
俺にはサソリの尻尾がないけど、毒尾を使うとどうなるのか。オアシスの拠点でいろいろと試した結果分かった。今、俺の後ろからスキルで生成された半透明のサソリの尾がジャイアントサイドワインダーの頭に突き刺さった。
「ジャ!?」
脳天に毒を注入されたジャイアントサイドワインダーは若干動きが鈍くなったが、まだかろうじて戦う意思が残っているようだ。大きく尻尾を持ち上げて俺を叩き潰すつもりらしい。得意な牙で攻撃して痛い目をみたから、次に自信のある尻尾攻撃というわけだ。
「ジャラジャラジャラジャラジャラ!!」
尻尾からガラガラヘビ特有の威嚇音が鳴り響く。
「そうそう、これを待ってたんだよ! 石化!」
尻尾を大きく持ち上げているということは弱点である頭が地面に固定されている状態だ。俺は素早く接近すると、ジャイアントサイドワインダーの頭に手を当てて石化スキルを発動する。石化範囲は頭だけとなるように調整した。
ズズウウゥンッ!!
《レベルアップ:レベルが129になりました》
蛇の巨体が倒れた。こうして狩猟ギルドに入ってから初めての獲物をゲットした。
「肉ゲットー!」
「まさか倒してしまうとはな……さすがグレータージャイアントスコーピオンを飼っているだけあるということか」
逃げたはずのカーラがいつの間にか戻ってきていた。
「ちょうど良かった。カーラさん、ガルズーガまで運ぶの手伝ってくれますよね?」
俺は笑顔でカーラさんに尋ねる。カーラさんは苦笑いで後ずさっていく。
「断る!!」
再び逃げるカーラさん。
「なんで逃げるんですかー!」
俺はジャイアントサイドワインダーを引きずりながらカーラさんを追いかけるのだった。




