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砂漠を歩き続けて1週間が経過した。拠点から見て南西の方角だ。北に向かっていたのは大きな間違いだったらしい。
「もう少しで中継地点のオアシスがある。そこで1日だけ休憩する」
「イエッサー!」
「そのイエッサーとは何なんだ? なんとなく馬鹿にされているような気がするんだが? お前はどこから来たんだ?」
スカーフに覆われた口元は見えないが、目は睨んでいるように見える。
「ただの返事であります! 他意はありません!」
敬礼で応える。カーラはまだ怒っているようだ。
「俺がどこから来たかですか? 強いていうならヴァリアス王国ですかね」
「ヴァリアス王国……? たしか1000年前に突然消滅した国だったか。全く笑えないジョークだ。さっさと出身地を答えろ」
ヴァリアス王国は滅んでしまったのか……? ヴァリアス王国が何百年続いたか分からないけど、今はその1000年後か。突然消滅という表現は少し気になるけど、今はそれよりもカーラに応えるほうが先だな。
「俺、記憶喪失、なにも分からない」
最終兵器:記憶喪失である。
「何故突然カタコトなのだ? 逆に怪しいぞ」
「いや、本当に分からないんですよ。だから、その質問には答えられません」
地球の記憶はあるけど、実際どこから来たのかは覚えていないのだ。嘘はついていない。
「ふーん、まぁいい。ところで、お前の装備はバジリスクの革だな。お前が作ったのか?」
「はい、俺が作りました。それがどうかしたんですか? もしかしてカーラさんも欲しいんですか?」
「いや、バジリスクの革は防御力としては優れているんだが、重いし暑さも防いではくれないだろう? 冷却服は持っているのか?」
冷却服? どことなくファンタジーかつ近未来な雰囲気がするぞ!? 地球で言うならファン付きベストの進化した物みたいな感じか。
「冷却服は持っていません。俺は暑さに強いので。でも、冷却服には興味がありますね」
冷却服を装備するのは当たり前という感じでカーラは説明していた。つまり今、カーラは冷却服とやらを装備しているのだろう。俺はじっとカーラの服を見てみたが、ゆったりとしたローブを着ているのでよく分からない。
「う……。そんなにじろじろ見るんじゃない! 私の冷却服は肌着として着るタイプだ、いくら見たって見えないぞ!」
「そうですか。本物が見れるかと思ったのですが残念です」
きっとガルズーガという町に行けばきっと冷却服もあるだろうし、どんな文明が発達しているのか見ることが出来るだろう。俺はワクワクして自然と歩く速度が上がってしまうのだった。




