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(あ、終わった……)
と思ったが、いつまで待っても死が訪れることはなかった。
「な、何故死なないのだ! まさか豪運スキルを持っているとでも言うのか!?」
豪運スキル? そんなものもあるのか。豪運スキルは無いが、LUKは最高値まで上がっている。
「俺のLUKは99999だ! ざまぁみろ!」
「LUK99999だとおおお!? そんなステータスはあり得ない!! 桁がおかしいだろう!」
「お前が信じなくとも事実だ……ッ!」
俺は時空刀を鞘から抜くと、スティーヴンの胴を真っ二つに斬った。
「……」
時空刀の効果によりスティーヴンの時間は止まった。出血もしないまま空中に留まっている。
「ハァッ!」
更にスティーヴンの手足を斬って10秒待つと、スティーヴンはいくつかのパーツに分かれて地面に転がった。
「な!? 何が起こったのだ!」
スティーヴンは首だけでも動いている。既に人間じゃなかったようだ。
「何が起こったのかは企業秘密だよ。さぁ、お前の目的と計画を教えてもらおうか」
「ふん、その質問に答えると思うのか?」
「答えなければ殺すだけだ」
俺は時空刀を構える。
「……良かろう。答えてやる。私の目的は世界の正常化だ」
「正常化だって?」
「私は世界中を料理人として渡り歩いてきた。そこでは飢え、戦争、人の汚れた欲望を目にした。そして私は気づいたのだ。人は進むべき道を間違えたのだとな。ならば、全てを滅ぼしてリセットしてやればいい! 次の人類に希望を託すしかないのだ!」
俺にはスティーヴンの考えが全く分からないが、この世界に絶望しているということだけは分かった。
「それがお前の正常化か。お前にとっては残念なお知らせだが、俺はこの世界が気に入っているんでね。全力で阻止させてもらうよ。それで、計画は?」
「やはり同意は得られぬか。計画はな……今から見せてやろう!」
スティーヴンの身体、手足が影に沈んでいく。
「きゃあああああああ」
「教皇様!」
悲鳴が聞こえた方向を見ると、シャルロットの眼前にスティーヴンが立っており、シャルロットの胸に禍々しい装飾の短剣を突き刺した直後だった。
「!」
今すぐに短剣を抜きヒールをかければ助かるかもしれない。俺はとっさに走りだした。
だが、スティーヴンのほうが一手早かったようだ。右手には以前奪われたクリスタルコアが握られている。
そして、左手にある神像がひび割れ、中からドクドクと脈打つ心臓が現れた。
「――邪神オルバース召喚」
その直後、心臓が膨れ上がりスティーヴンとシャルロットを飲み込んだ。
「くそ! 間に合わなかったか!」
俺はシャルロットを助ける為に近づこうとしたが断念せざるを得なかった。
何故なら膨張する紫色の肉塊から次々に棘が生え、周りにある物を突き刺し取り込んでいくからだ。
「まるでオニヒトデみたいな見た目だ。っていうかデカすぎるでしょ!!」
既に体長50メートルを超えている。思わず叫んでしまうほど巨大だ。そして、まだ巨大化を続けている。
「コメット様! これは!?」
「コメット! 今度は何をしたのだ!?」
セバスチャンとシリウスが魔王との戦闘から戻ってきたようだ。
「こいつは邪神だ! 俺が召喚したんじゃないぞ! スティーヴンが召喚したんだ!」
「これが邪神……」
「召喚が完了する前に、出来るだけ住民を避難させてくれ!」
「承知しました!」
「余に任せておけ」
俺はセバスチャンとシリウスに指示を出した後、邪神をなんとか出来るか試してみることにした。
「シャルロット! 聞こえますか!? 生きてたら返事をしてください!」
駄目だ。返事がない。代わりに邪神が鳴き声を上げ棘の触手で攻撃してきた。
俺は余裕をもって回避したつもりだが、予想以上に触手が巨大な為ギリギリの回避となってしまった。
もう邪神の大きさは300メートルくらいだろうか、東京ドームを超える大きさだ。
周囲の建物はほとんどなぎ倒され、立派な教皇の城も潰されてしまった。
「これは、巨大化を止めないとマズイ事になるな」
俺は試しに攻撃してみることにする。
「下手な下級魔法は意味がないだろうなぁ。火の上級魔法は効きそうな気がする。よし! ……ヘルファイア!」
巨大な火柱が上がるが、邪神と比べると小さく見える。
一部分は黒焦げになったが、すぐに触手が焦げを食いつくし再生する。
「なるほど、巨大化を阻害する部分は排除していくのか。まるでナチュラルキラー細胞みたいだな」
『&$#^&¿€‡…※#@^*!!』
よく分からないが、言葉を発しているようにも聞こえる。
「見た目からは全く知性を感じないけどな……」
邪神はブルリと震えると大量の触手で攻撃してきた。
「さっきよりも速い上に数も多いな!」
全力で避けるが、まるで津波のように巨大な触手が押し寄せる。
「ぐはっ!」
まるでトラックに衝突されたかのような衝撃が全身を襲う。更に触手の先に魔力が集まり爆発を引き起こした。
「なんだ今の攻撃は、反則だろ!」
ちょっと驚いたけど、ダメージは微々たるものだった。
「今度はこっちの番だな! 全力ストレートパンチをお見舞いしてやる!」
触手の波に向かって全力ストレートパンチを叩き込む。正面の触手の一部が吹き飛び、向こう側が一瞬見えた。
しかし、すぐに触手は再生し再度爆発を引き起こした。
「嘘だろ? まさかクリスタルコアで無限再生するってこと!?」
こちらのHPはかなり多いが、無限ではない。微々たるダメージも蓄積すればいずれ……。
「このままじゃジリ貧だ。こうなったら、あの技を使うしかないのか……」
俺は覚悟を決めた。




