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「うーん、朝か。……眠い」
俺はベッドから起きると装備や持っていくアイテムをチェックして朝食を取った。セバスチャンとシリウスは既に準備を終えて待機している。
「じゃあ、行こうか。どうやって行こうかな? 普通に飛んでもいいし、何かに乗ってもいいな。前回は石柱に乗って行ったんだっけかな?」
「コメット様、ご安心ください。王族専用エアザングドアを用意してあります」
「エアザングドア?」
「はい、ザングドア様が住んでいる空飛ぶ箱の事でございます」
そんなダサい名前だったのか!
「いずれ名前は変えさせるのは決定として、じゃあ、それに乗っていこう」
セバスチャンの案内で中庭に行くと一軒家ほどの箱が置かれていた。
「思ったより大きいな。それに装飾が豪華だ」
「はい、大出力の風魔法発生機と風魔法のバリアにより十分な速度が出せます。外装はアダマンタイト合金製ですので剛性も高く、大抵の攻撃にはビクともしません。中もご覧ください」
セバスチャンの説明に熱が入る。王族専用ということでこだわったのかもしれない。
「見てみよう」
中も超豪華だった。高価そうな調度品も置かれているが、急加速で壊れないか心配になる。
「中も凄いな。これに乗っていくのは少し気が引けるけど、せっかく用意してもらったんだし、これでいこう」
「運転手、出発せよ!」
セバスチャンの指示でパルム教皇国に向けて出発した。
――3時間後、俺達はパルム教皇国に到着した。
セバスチャンが事前に連絡してあったようで教皇や司祭達が出迎えてくれた。
「お久しぶりです! コメット様!」
エアザングドアの出入口から降りた俺に駆け寄ってきたのはシャルロット教皇だ。両親を亡くし、12歳で教皇となったシャルロットは現在17歳。とても美人に成長し、国民からの人気も高いようだ。
「お久しぶりです。お美しくなられましたね」
「あ、ありがとうございます……」
顔を赤くしたシャルロットは黙り込んでしまった。
「コメット様、お噂は色々と聞いておりますぞ。国作りも順調なようですな」
次に話しかけてきたのはジェームズだ。以前、回復魔法交渉をしたときに対応してくれた神官だ。
「ジェームズさんもお久しぶりですね。元気そうで何よりです」
「用件は伺っております。こちらへ」
ジェームズとシャルロットに先導され、礼拝堂に入った。そして礼拝堂の一番奥にある机の手前で立ち止まった。
「コメット様がおいでになられた理由は、パルム教皇国が邪神から狙われているという件でしたよね?」
「はい、その通りです」
「私達パルム教の聖書にはこう書かれております。“悪しき神は聖なる神像によって封印された“と」
「では、邪神は聖なる神像を狙っているということですか?」
「邪神の考えは分かりません。ですが、神像はたしかに存在します。ここパルム教皇国で代々守られてきたのです」
「なるほど。俺達をここまで案内したということはもしかして……?」
「はい、聖なる神像はここにあります」
机にはロウソクが2つ置かれている。シャルロットはそのロウソクの1つをレバーのように倒した。
「おお!」
俺は思わず声を出してしまった。何故なら礼拝堂の机が移動し、地下へと続く隠し階段が出現したからだ。
「ここには教皇であるシャルロット様しか入れない決まりとなっております。コメット様はここでお待ちください」
「申し訳ありません。コメット様。個人的には中までご案内したいのですが、ジェームズが許してくれませんので……」
シャルロットはまるでデートを邪魔された乙女のように悔しそうな表情で隠し階段の奥へ入って行った。
「あ、帰ってきたみたいですよ」
しばらく待つと、シャルロットが神像らしき置物を手に持って帰ってきた。
「こちらが聖なる神像です」
シャルロットが手に持っている神像は一見何の変哲もない像だ。しかし、魔力感知すると膨大な聖属性のオーラを放っている。やはりただの像ではなさそうだ。
「物凄いオーラですね。これなら邪神が狙うのも頷けます」
「さすがはコメット様、聖なる神像の本質を見抜ける者は神官の中でも、なかなか居ないんですよ」
「俺は魔力感知が得意なだけですよ」
神官達は魔力感知のスキルを上げる機会もそうそうないだろうし、気づく人は少なそうだ。
俺が聖なる神像をじっと見つめていると一瞬違和感を感じた。聖属性のオーラは絶えず揺らめいているが、その中に一瞬異質なものを感じたのだ。
「今一瞬……いえ、何でもありません」
今はもう違和感は消え去ってしまった。魔力感知が高くなければ説明しても分からないだろうし、気のせいの可能性も高い。
「?」
周りの者は首を傾げている。余計な事を言ってしまったみたいだ。
「じゃ、じゃあ、その神像を邪神が狙っているものと仮定して、今後の作戦を立てましょう!」
「では、会議の間へ行きましょう。ついてきてください」
ジェームズが礼拝堂の出口に歩き出そうとし、すぐに立ち止まった。
ジェームズの視線の先を見るとそこには3人の男が立っていた。その内の1人には見覚えがある。
「スティーヴン! やっぱりお前は邪神の手下だったのか!」
「神像を渡せ。と言っても聞かないのだろうな……」
スティーヴンがニヤリと笑うと手で合図を出した。
「俺は魔王マルコリウス。仕方がねぇ戦うか!」
「我が名は魔王サタナブル。参る」
スティーヴンの両脇に居た人物がこちらに走り出した。セバスチャンとシリウスがそれを迎撃する。
っていうか、魔王多すぎないか!?




