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「おかえりなさいませ、コメット様」
城に戻るとセバスチャンが迎えてくれた。ただ、セバスチャンの横には見知らぬイケメンが立っているのが目に入った。
「この人は?」
「ハハハ、余を忘れたか。コメットよ」
「その口調はもしかして……クリスタルドラゴン?」
「うむ、余くらいになると姿形を自由に変えることなど造作もない」
「クリスタルドラゴン様には私の仕事を手伝っていただこうかと思いまして」
セバスチャンの仕事は増える一方だったから、助っ人としてクリスタルドラゴンが参入するのは大歓迎だ。
「それはいいね。クリスタルドラゴン、セバスチャンの負担を軽減してやってくれ」
「良かろう。だが、セバスチャンに名付けをして、余には名付けをしないのは不公平ではないか?」
「え、名前が欲しいの?」
「欲しいとか欲しくないという話ではない。名付けしないというのであれば余は補佐をせぬぞ」
うーん、最近名付け多くない?ネーミングセンスなんて無いんだけど。
光魔法でピカピカと眩しいから、シリウスにしようかな。シリウスとは、太陽を除けば地球上から見える最も明るい恒星である。
「じゃあ、シリウスにするよ」
「うむ、悪くない響きだ。気に入ったぞ」
「セバスチャン、シリウス、今後ともよろしく」
「「は!」」
セバスチャンとシリウスが最敬礼した。
「コメット様に、お伝えすることが御座います」
「マフィアの件?」
「はい、マフィアの詳細な情報が集まりました」
「いいね。報告してくれ」
「まず、マフィアの現状です。マフィアは豊富な資金力と暴力によってシャトラインのスラム街を支配しています」
「シャトラインにはスラム街が出来上がっていたのか」
「はい、そしてスラム街の人々を奴隷のように働かせて、蒸気バイクを製造しているようです。また、神の薬の実験台にもしているようです」
マフィアもスラム街も早急に対処しなければいけないな。
「場所は?」
「製造工場は町外れのスラム街にあります。マフィア本部はシャトラインの中心地に大きな屋敷があります」
「戦後のどさくさに紛れて悪事を働き、マフィアに成長したんだろうね」
「急襲部隊を派遣致しますか?」
「いや、俺が行くよ。セバスチャンとシリウスもついてきてくれ」
「うむ」
「承知しました」
俺はコメ仙人に変装して、蒸気機関車に乗ってシャトラインに向かった。
「コメット様、変装する必要はあるのでしょうか?」
「俺の顔は王都の銅像のせいでバレてるからね」
「なるほど。そろそろ着きますよ」
「まずは製造工場に向かう」
「承知しました」
蒸気機関車がシャトラインに到着した。セバスチャンの案内で製造工場に向かう。
「ここです」
古びたボロボロの工場だ。ここで蒸気バイクが作られていると外観からは想像も出来ない。
「入ろう」
工場の扉には鍵があったが、簡単に引きちぎった。
「きゃああああああ!」
工場内で働く、女や子供達が悲鳴を上げる。
「なんだ、てめぇらは!」
いかにもな風体の男が怒鳴りながら近寄ってくる。
「わしゃコメ仙人じゃよ。ここで奴隷のように働かされている人達を助けにきたんじゃ」
「こいつらは自分から望んで働きに来たんだ。そうだろう?お前ら!」
スラム街の住人達は弱みでも握られているのかブルブルと震えることしか出来ない。
「お前達が何者か知らねぇが、無駄足だったな」
コメットは変装を解く。
「俺はコメット。ヴァリアスの王だ。俺が開発した蒸気バイクがここで製造されている。これでも無駄足かな?」
「ヴァリアス王!?」
「ど、どうする?」
下っ端達が狼狽えている。そこに高そうな上着を着た男が歩いてきた。
「てめぇら、何狼狽えてやがる!嘘に決まっているだろうが!早く捕らえろ!」
俺はニヤリと笑うとこう告げた。
「セバさん、シリさん、少し懲らしめてやりなさい!」
「シリさん?」
「シリウス、貴方の事ですよ。そしてセバさんとは私の事でしょう。さぁ、務めを果たしましょう」
「承知した」
向かってくるマフィア達はヴァンパイアデュークであるセバスチャンと、クリスタルドラゴンであるシリウスに勝てるはずもなく鎮圧された。
「セバさん、シリさんもういいでしょう。完璧です」
身分を隠し優秀な側近と共に悪を裁くというのは最高だ。何度でもやりたい。しかし、今はスラム街の人を助ける事が優先だ。
「スラム街の人々を保護してくれ。ほとぼりが冷めるまでは国が責任を持って保護するように」
「承知しました」
「あと、マフィアのような奴等に対抗出来る人材を集めて組織し、シャトラインの警備隊として働いてもらおう。適正な給料も国から出す」
「すぐに手配します」
「じゃあ、次はマフィア本部に行こう」
「ご案内します」
セバスチャンに案内され、シャトラインの中心地へと向かった。




