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俺達は無事にサウスリンゴルまで帰ってきた。船は一度解体し、陸地を走る荷車にした。ジュエルゴーレム達はそこに乗せている。
遠目に見たサウスリンゴルは特に変わりない活気ある街だった。
スティーヴンが何か企んでいるのは間違いないが、サウスリンゴルですぐに何かを起こす気は無さそうだ。
「サウスリンゴルに入ろうかと思ったんですが、大量のジュエルゴーレムが居るから街には入れないですね……」
「最後に美味しい魚をいっぱい食べようと思ってたのに残念ニャ……」
ゴーレム達を引き連れて街に入ったら大混乱になりかねない。
「このまま北上してセンターリンゴルに向かいます。獣王にお願いして、一時的にジュエルゴーレムを置かせてもらうしかないです」
獣王にはちょっと交渉したいこともあるしね。
「賛成、ゴリナラタケが待っているから」
ルネは置いてきたゴリナラタケが気になっているようだ。
「仕方がないニャ。センターリンゴルはあっちの方角に適当に行くと着くかもしれないニャ……」
魚が食べられないと知ってやる気を失ってしまったナビの適当な案内で俺達はセンターリンゴルに向かうのだった。
行きは5日ほどでセンターリンゴルに着いたが、帰りはナビのやる気が低下した事とお荷物のジュエルゴーレムの輸送のせいで10日かかった。今はセンターリンゴルの門の外に居る。
「ふー、ようやく着きましたね」
「長かったですね〜。馬車にずっと乗っていたせいでお尻が痛いです」
「アンナはまだいいですよ。僕なんてルネから特訓と称してずっと走らされたんですから!」
マルク君は大変だったようだ。
「俺は獣王に用があるから、皆はここで待機しててください。そうだ、アンナの【獣王の大剣】とマルク君【獣王の脚】を下さい」
「どうぞ」
「もしかしたら、返しちゃうかもしれないですが、その時は代わりの装備を用意します。いいですか?」
「全然構いません。その大剣、アンナには少し軽すぎました」
「僕もAGI2倍は速すぎて、目が追いつきませんでした」
2人とも使い勝手はあまり良くなかったみたいだ。それなら心置きなく返せる。条件次第だけどね。
というわけで、城の謁見の間でゴリラスと再会した。
「お久しぶりです」
「おお、帰ってきたか。目的は達成したか?」
「いえ、スティーヴンに奪われてしまいました」
「あいつか……それでは今後はスティーヴンを追うのか?」
俺は首を振る。
「いえ、スティーヴンの目的は何なのか、どこに居るのか検討もつかないので、一旦ヴァリアス王国に戻ります」
「そうか」
「ここに来たのは、2点お願いがあるからです。もし聞いていただけるのなら国宝を返します」
「おお!それはどんな願いだ?」
「1点目は、呪牙島でテイムしたゴーレムをセンターリンゴルの人目につかない場所に置かせてください」
「ほほう、あの島にはゴーレムがおるのか。しかも、テイムしたとな?さすがはコメット殿だ。その程度であれば問題ない。城の倉庫を貸し出そう」
「2点目は、呪牙島をください」
「島をくれだと!?」
「はい、現在あの島にはほとんど価値はありません。呪牙島には秘宝がありましたが、それはスティーヴンに奪われました。秘宝を守っていたドラゴンもゴーレムも居ません。今は毒ガスが充満し、溶岩が流れる死の島です」
「そんな島を何故欲しがる?気に入ったなどという誤魔化しは通用せんぞ」
チッ。なかなか鋭いようだ。仕方がないから教えてあげることにする。
「仕方がありません。あの島には魔隕鉄と呼ばれる鉱石が大量にあります。それが欲しいのです」
「なるほど、それが狙いか」
「しかし、魔隕鉄の価値を知っている者はほとんど居ません。売ろうとしても安く買い叩かれて終わりです」
「ふむ」
「魔隕鉄を採掘するのも命がけです。そんなことをするよりも2つの国宝が返ってきたほうが得ではないですか?」
「……言いたい事は分かった。良かろう。2つの願いを叶えよう。その代わり国宝は返してもらうからな」
「交渉成立ですね」
無事、交渉は成功した。
「もうセンターリンゴルを出発するのか?」
「いえ、数日滞在してから出発する予定です」
「それならば、以前使っていた客室を使うが良い」
「ありがとうございます」
城の倉庫にジュエルゴーレムを運び入れる際、獣王が1体欲しいと言ってきたが、さすがに断った。ジュエルゴーレムは見た目が良いから欲しい気持ちは分かるけどね。
それから1週間程度滞在する予定だったが、冒険者ギルドからの指名依頼や獣王からの頼み事、マルク君の特訓などをしていたら1ヶ月ほど経過していた。
ここはセンターリンゴルの外だ。全員集合している。
「そろそろ帰らないと、セバスチャンも心配してるだろうし……」
「そうですね。あたしもお母さんが心配です」
アンナのお母さんは病弱だったから心配だ。
「ボクの部屋で栽培しているキノコも心配……」
それは間違いなくヤバい部屋になってるだろうね。
「じゃあ、急いで帰りましょう」
のんびりと蒸気バイクで帰る旅はお終いだ。
「フローティングアイランド!」
土魔法と風魔法を混合させたオリジナル魔法だ。呪牙島の脱出時にも使用した浮かぶ島の魔法である。
消費する魔力が多すぎて誰も真似できないが、コメットの魔力量であれば微々たるものだ。
「うーん、速度を上げると風が凄いな。風魔法で障壁を張ってみようか……」
一人でぶつぶつと呟きながら、風魔法で障壁を作ると風が止んだ。
その後は、快適な空の旅を楽しみながら3日で王都ヴァリアス付近の草原に到着した。
全員が浮かぶ島から降りたのを確認し、魔力供給を停止する。少しだけ浮かんでいた岩の塊がズズンッと地面に落ちた。
「浮かぶ島の最後は落ちるんじゃなくて宇宙まで飛んで行って欲しいところだけど、さすがに無理だな……」
荷車にクリスタルドラゴンやジュエルゴーレム達を載せて王都ヴァリアスの門を通ると、噂を聞きつけた住民達が集まっていた。
「うおー!かっけー!」
子供達がはしゃいでいる。
「なんてキレイな宝石かしら!」
貴族の奥さん、これはジュエルゴーレムです。
「コメット様、万歳!」
「「万歳!」」
国民が喜んでくれたみたいで良かった。なんとなく、ふと街を眺めた俺は、思わず声を上げてしまった。
「なんじゃこりゃあああああああ!」




