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「コメットさん、お疲れ様でした」
「リーダー、結構時間かかったね」
「殺さないようにテイムするのは意外と大変なんですよ」
「強者にしか無い悩みだ!」
マルク君も十分強者だと思うけどね。そんなことを喋りながら暫くすると、クリスタルドラゴンが目を覚ました。
「余を本当に従わせるとは……名を聞こう」
「コメットだ」
「今後、余はコメットについて行く」
「じゃあ、早速質問なんだけど、守っている秘宝って何?」
「余が守護する秘宝は、【クリスタルコア】だ。クリスタルコアは無限のエネルギーを秘めている」
「無限!?それは凄い。でも、瞬間的に取り出せるエネルギーの量は無限じゃないんでしょ?」
「当たり前であろう。この世界の物理法則に準ずる。人間には理解できぬかもしれんが、エネルギーは質量と光の速さの二乗を掛け合せた物だ」
「アインシュタインが発見した静止エネルギーの方程式ですね」
「む、知っておるのか。要するに、クリスタルコアの質量を超える出力は出来ないということだ」
エネルギーを無限に取り出せるなら、空飛ぶ島なんかも作れてしまうかもしれない。
「なるほど?それで、クリスタルコアはどこに?」
「クリスタルコアはあそこに……あやつはコメットの仲間か?」
クリスタルドラゴンの視線の先には、祭壇があり、祭壇の上にはクリスタルコアが置かれている。
そにクリスタルコアに手をかけている人物は知っている男だった。
「スティーヴン!」
「ここまでの案内ご苦労だった。目的の物は手に入れた。さらばだ」
スティーヴンはクリスタルコアを祭壇から外すと闇に溶けるように消えてしまった。
「あー!折角の浮かぶ島計画がー!」
「コメット!まずいぞ。クリスタルコアを取り外すと、火山が爆発する仕掛けになっているのだ」
ゴゴゴゴ……
地下深くから地鳴りが聞こえてくる。それと同時に地震も起こり始めた。
「皆、全力で上に逃げますよ!火山が爆発します!」
「「了解!」」
「ひいいいい」
上へと続く洞窟をひたすら走る。走りながら後方を確認すると真っ赤なマグマが洞窟を湧き上がってくるのが見える。
「下からマグマが来ました!」
アンナが皆に報告する。
「ひいいいい!!」
マルク君が叫び声を上げる。
俺は走りながら後方を氷魔法や土魔法で洞窟を閉ざしてみたりしたが、あまり効果はなくマグマが壁を突破してくるのが見えた。
「余だけならば、マグマなど恐れはしない。余は元々マグマ溜まりから生まれたのでな」
余裕を見せるクリスタルドラゴンは一時的に身体を小さくしてハティに乗っている。
洞窟をひたすら走ると、ジュエルゴーレム達の居るエリアに戻ってきた。
「ジュエルゴーレム達は全速力で地上に向かえ!」
指示を出すとドタドタとジュエルゴーレム達が走り出す。
「ジュエルゴーレム遅っ!これじゃあ絶対に間に合わない!何か方法はないか……!?」
色々と考えてみたが、ジュエルゴーレムの数、足の遅さなどを考慮すると手段は限られてくる。
「ええい!こうなったら一か八かだ。ジュエルゴーレム達よ集まれ。皆も集まって下さい」
全員を1箇所に集める。螺旋階段の下から上に向けて狙いをつける。
「全力アースディグ!」
穴を掘る魔法を全力で放った。すると螺旋階段は消滅し、地上までまっすぐな縦穴が開いた。
「ロックウォール!」
次は皆が乗っている地面に対して岩の壁を作る魔法をかける。
「そして最後に、全力ウィンド!」
風魔法で足下の岩の壁を浮かす。
「さっき思いついた浮かぶ島計画のおかげで助かった!」
浮かぶ岩に乗った俺たちは縦穴をまっすぐに上に昇っていき、マグマに追いつかれる前に地上まで出ることが出来た。
「やったー!」
「助かったニャ……」
皆から歓声や安堵の声が聞こえてくる。
「だが、まだ安心するのは早いぞ。この後、火山が爆発すれば周囲一帯は危険地帯になる」
クリスタルドラゴンの言う通り、まだ終わっていない。浮かぶ岩を全力で船まで飛ばす。岸辺の小舟は仕方がないので捨て置く。
「船に着いた!皆、すぐに船に乗り込んでください!」
ジュエルゴーレム達は遅いので多重ウィンドで移動させる。
「蒸気エンジン最大出力!ついでに魔法でウィンド!ウォータージェット!」
ありとあらゆる推進力で船を急速に発進させる。
ドーーンッ!!!
船を発進させた直後、火山が噴火した。
火山から巨大な噴煙が立ち昇り、火山弾が大量に飛んでくる。
「アイスウォール!」
俺は氷の壁を作り、火山弾を防ぐ。
「ブラストボール!」
ルネは得意の風魔法で1つずつ火山弾を防いでいる。
「クリスタルウォール」
クリスタルドラゴンもクリスタルな壁を作り出し、船に当たりそうな火山弾を弾いてくれているようだ。
火山弾が収まり、少し落ち着いた時に大事なことを思い出してしまった。
「あーー!」
「コメットさん、どうしたんですか?」
アンナが聞いてくる。
「魔隕鉄拾ってくるの忘れてた……」
俺は遠ざかる島を見つめることしか出来なかった。




