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2人が闘技場に現れる。
「人族は弱すぎる。さっきの奴だって無様に負けた」
「マルクの仇はボクが取る」
「お前にはムリだ。マルクって奴より弱いだろ。そんな細腕でどうやって勝つんだ?」
「すぐに分かる」
そしてルネが構えると開始の合図が始まる。
「人族のルネさん対ラーテル獣人のラテル。準決勝、開始!」
「火の力よ 敵を貫け ファイアアロー!」
開幕すぐにルネのファイアアローが炸裂する。しかし、ラテルの皮に少し焦げ跡が付く程度だった。ラテルの皮は魔法に対する耐性も備えているようだ。
「その程度の魔法だったら防御の必要すらない!お前も八つ裂きにしてやる!」
ラテルはもはや何も恐れるものはないとばかりにルネに向かって真っ直ぐに走ってくる。
「その慢心が命取り……」
ルネが呟くと、魔力を操作して複数のファイアアローを生成していく。
「ファイアアロー!」
複数のファイアローが連続でラテルに襲いかかる。
「小賢しい!邪魔をするな!」
いくらほとんどダメージがないと言えども、10本、20本の火の矢を浴びせられれば回避や後退を余儀なくされる。
ラテルは苦々しい表情をしていたが、ニヤリと笑い、ルネの周りを走り始めた。ラテルは思ったよりも素早い。そのせいでファイアアローは当たらなくなった。
「俺が近接戦闘しか出来ないと思っているだろ?遠距離も得意なんだぜ!前大会の優勝者は伊達じゃないってことだ!」
そう言うと右手の爪が1メートルほどに伸びた。そして大きく振りかぶって腕を振った。すると、4本の爪が高速で撃ち出された。
「ファイ……!?」
ファイアアローを放とうとしていたルネは魔法を中断し、横に飛んだ。
「うぐっ!」
大きく横に飛んだルネは受け身も取れずに地面を滑った。そして、ルネの脇腹に1本の爪が刺さっていた。
ルネはフラフラと立ち上がったものの、苦痛に顔を歪めている。
「ヒャッハッハ!これで俺の勝ちは確定!あとは残酷なショーの始まりだ」
ラテルは新たに生えた爪を研ぎながらルネに近づいてくる。
「リーダーの特訓はもっと厳しかった……この程度で負ける訳にはいかない!」
ルネは魔力を高めていく。
「諦めて降参すれば、これ以上痛い目をみないで済んだのに……残念だなぁ!俺にとっては楽しいがな!」
ルネの詠唱が始まる。
「凄烈なる」
風の上級魔法である。詠唱に気づいたラテルは走ってトドメを刺しに来る。
「させるかよ!」
爪を振り上げる。ルネの詠唱は間に合わない。
「ファイアアロー!」
先程の魔法詠唱は風魔法だが、今放ったのは火魔法である。つまり、並列魔法
。更に無詠唱魔法である。
「その魔法は効かないと言ったはずだろうが!」
火の矢を振り払いラテルが激怒する。そこへ……
「フレイムジャベリン!」
「熱っ!うがあああああ!」
火の中級魔法がラテルに当たる。さすがのラテルも中級魔法はダメージを負うようだ。
「暴風の力よ」
ルネの風魔法の詠唱が紡がれる。
「ざぜるがあああああ!!」
喉が焼かれたラテルが再度爪を射出した。4本の凶悪な爪がルネに向かって飛んでいく。
だが、爪がルネに当たることは無かった。何故なら魔法が完成したからだ。
「ストーム!」
闘技場の中にある全ての物が風の刃によって切り刻まれていく。ラテルも例外ではない。唯一の例外は術者のみである。
「うぎゃああああああああああああ!!」
ラテルは攻撃を諦め、丸くなって防御に専念するが、容赦ない風の斬撃はラテルの防御を削っていった。
風魔法が収まると、そこには倒れてかろうじて生きているラテルと、油断なく杖を構えたルネが立っていた。
「勝者!人族のルネさんです!」
「「うおおおおおおおおおお!!」」
ほとんどの観客が立ち上がり大きな拍手を送っている。それほどの試合だった。
「さすがはルネさんニャ!私は勝つと信じていたニャ!って、コメットさんはどこに行くのニャ!?」
「ルネが怪我をしたみたいだから、ヒールをしに行くんだよ」
「なるほど〜!いってらっしゃいニャ」
というわけで、また観客席から闘技場に飛び降りてルネのところまで治療に行った。
「ルネ、おめでとう!すぐに治療するけど、まずはその刺さった爪を抜きますよ」
「リーダー、分かった」
3、2、1で一気に引き抜く。
「あうっ」
「ハイヒール!はい、治療は完了ですよ。控室まで肩を貸そうか?」
「じゃ、じゃあお願い……」
少し顔を赤くしたルネに肩を貸して控室まで送った。
その後、観客席には戻らずにお祝いパーティーの準備をすることにした。決勝戦はアンナとルネだから、どっちが勝っても良いと思った。
こうして、武闘大会は幕を閉じた。




