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ラテルが闘技場に現れると観客から大歓声が上がる。さすが前回の優勝者、人気が凄い。
次にマルク君が入場する。観客の反応は……
「マルク死ねーーー!」
「ぶっ殺せ!!」
ブーイングが聞こえてくる。可哀想なマルク君。
その頃、マルク君は……やっぱり震えていた。
「前回優勝者なんてムリだよ!ラーテル獣人の見た目ちょっとかわいいけど、牙が剥き出しだから恐すぎるよ!」
「俺の自慢の爪でお前の皮を剥いでやろうか!」
「ひいいいいい!逃げていいかな?逃げてもいいよね!?」
しかし、無情にも開始のアナウンスが始まった。
「それでは第3回戦、開始!」
ラテルは獰猛な笑みを浮かべながら突進してくる。マルク君と真逆で何も恐れない性格のようだ。
ラテルの爪が急激に伸びてマルク君を襲った。
「うわああ!爪が伸びた!?」
マルク君はパニックになりながらもなんとか避けた。
「チッ!逃げられたか。素早いネズミめ。次も避けられるかな!?」
ラテルの連続攻撃がマルク君に迫る。
「ひいい!なんとか反撃しなきゃ……」
マルク君は全ての攻撃を躱して、短剣でラテルに斬りつけた。
しかし、ラテルには傷一つ付かない。硬さと柔軟性を併せ持つ皮によって防がれたのだ。
「今、何かしたか?」
「何もしてませーん!!」
ラテルとマルク君の戦いは長期戦に突入した。ラテルの攻撃を躱すマルク君と、マルク君の攻撃を物ともしないラテルの戦いとなった。
永遠に続くかと思うような長い攻防の末に、一瞬マルク君の回避が遅れた。
「まずっ……!」
マルク君の右肩にラテルの爪が突き刺さる。
「うぎゃああ」
「トドメだ!」
次は左肩に刺さった。
「熱い!痛い!死ぬ!」
マルク君は慌てて爪から逃げる。
「腕が……上がらない」
マルク君の攻撃手段が無くなってしまった。
「出血もひどいし、次の一発に賭けるしかない……!」
マルク君はそう言うと円形闘技場の内周を加速し始めた。魔王四天王と戦った時の技を出す気のようだ。
ラテルは真ん中で待ち構える。
十分に加速したマルク君はラテルの背後から突進した。マルク君は両腕が上がらない為、ほとんど捨て身タックルだ。
ゴンッという音と衝撃波が広がる。
そして、地面にはマルク君が倒れており、ラテルはまだ立っていた。ラテルの防御力が勝ったようだ。マルク君には相性最悪の敵だったと思う。
「第4回戦勝者!ラーテル獣人のラテルさんです!」
ラテルはフラフラとした足取りで退場した。俺は観客席から飛び降りてマルク君の横に移動する。
「ハイヒール!ハイヒール!」
念の為、ハイヒールを2回かけておいた。マルク君の命に別条はないようだ。医務室に運んで寝かせておく。
「準決勝戦は人族のアンナさんでしたが、相手が居なくなってしまった為、不戦勝となります!」
コメ仙人としてアンナと戦ったら勝てばいいのか負けるほうがいいのか迷ってしまうだろうしね。
「そして、もう一方の準決勝戦は人族のルネさんとラーテル獣人のラテルさんが戦う予定ですが、ラテルさんは先程の戦いで怪我を負った為、回復するまで休憩時間と致します!」
観客達はトイレや食事をしに行くようだ。
「マルク君は大丈夫なのかニャ?」
「ちゃんと回復魔法をかけておきましたから大丈夫ですよ」
「じゃあ、安心ニャ。私は何か食べ物を買ってくるニャ」
「いってらっしゃい」
俺は観客席で待つ事にした。待ちながらスティーヴンが何者なのか考える。
スティーヴンは間違いなく魔王より強い。そんな奴がどうして帝国で料理人をしていたのか。そして今、ゴリンゴル獣国でも同じように料理人をしているようだった。
一体、奴の目的は何なのか?
そんなことを考えていたら休憩時間が終わったようだ。観客達が帰って来た。
「ゴリトカゲの丸焼きを買って来たニャ」
ナビも帰って来た。
「俺に気にせずナビが食べてください」
「分かったニャ」
ナビが満足そうにゴリトカゲの丸焼きを食べていると、武闘大会のアナウンスが始まった。
「準備が整いましたので再開致します!準決勝戦は人族のルネさんとラーテル獣人のラテルさんで行います!闘技場へ移動してください」
準決勝が始まるようだ。




