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スティーヴンは帝国にいた魔王をも凌駕するほどのオーラを開放している。
こいつはどう考えても只者じゃない。ここで倒しておかないと、勝ち進んだ先でアンナ達に危害が及ぶ可能性がある。負けてもいいかなんて思っていたが、気が変わった。
サンプソンの指輪と弱化のネックレスを外し、リミッターを解除する。
「ほほう、力を隠していたか。小僧」
スティーヴンは俺にしか聞こえない声で話しかけてきた。
「バレてましたか?あなたの料理は美味しかったので残念です。もう食べられなくなるとはね」
「ゆくぞ!」
スティーヴンの姿が消え、次の瞬間には真後ろに気配が現れる。コメットは大きくジャンプして回避する。先程までコメットが居た場所をスティーヴンの手刀が空振りしているのが見えた。
コメットは空気を蹴ってスティーヴンに右ストレートパンチをお見舞いする。通常の魔物であれば粉々になるほどの威力だが、スティーヴンは片手で防御した。
「スティーヴンさん、あなたは何者ですか?」
「消えゆく者に教える必要はない」
「そうですかっ!」
スティーヴンの後ろに回り込む。しかし、読まれていたのか回し蹴りを食らってしまった。大きく吹き飛ばされ、設置してあった柱にぶつかって柱が折れた。
「攻撃をまともに食らうなんて白亜紀以来ですよ」
「小僧こそ何者だ?」
「消えゆく者に教える必要はありません」
俺は地面を蹴った。闘技場の地面は真っ二つに割れて、深い谷が出来上がった。突如地面がなくなったスティーヴンに踵落としを食らわせて谷に落とす。
「雄大なる大地の力よ ガイア」
地面に手をつけて土の上級魔法を発動させると割れた地面が元に戻った。こんな攻撃じゃスティーヴンにダメージを与えられないだろう。
そして、良い案を思いついた。その時、地面の下からドドドと音が聞こえてきた。大きな砂埃の柱が上がり、地面の下からスティーヴンが帰ってきた。
「服が汚れたぞ。どうしてくれるのだ!」
「じゃあ、消毒してあげますよ!ダーク!」
スティーヴンに闇魔法をかけて目隠しをする。そして、懐に潜り込み低く屈む。
「喰らえ!本気右アッパーカット!!」
脚の力、腰の力、肩、腕と全ての力を連動させ、今まで出したことのない本気の力でスティーヴンの顎を撃ち抜いた。反動でコメットの足元にクレーターが出来上がる。
スティーヴンは超高速で飛んでいき、成層圏を突破したはずだ。狙い通りであれば太陽にぶつかるコースだ。汚物は消毒しないとね。
さて、ここまで暴れてしまったら後が面倒なことになる。幸いなことに砂埃で観客席からは何も見えないはずなので、高速移動でこの場から逃げることにした。
コメ仙人の変装を解いてハティ&ナビと合流し、何食わぬ顔で観客席に座った。
「今の試合は凄かったニャ。コメットさんも見るべきだったニャ」
「ちゃんと見てたので大丈夫ですよ」
砂埃が収まり、闘技場が見えるようになるとクレーターや地割れの跡が残っているのが見えた。
「これは大変なことになりました!コメ仙人さんもスティーヴンさんも見当たりません!この結果について運営側で審議中です」
しばらく観客席はザワザワしていたが、再びアナウンスが始まると静かになった。
「結果を発表します。両者とも棄権とみなし、失格とします!よって、2回戦の勝者は無しです!」
ちょっと予定が狂ったけど、スティーヴンのせいだということにしておこう。




