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しばらくするとアナウンスが始まる。
「Dブロックの人族のコメ仙人さんと熊獣人のグリルスさんは本戦闘技場に移動してください!」
薄暗い廊下を進み、明るい闘技場に出る。熊獣人は既に闘技場で待っていたようだ。
熊獣人はナイフ使いだったな。ナイフ使いは武器を使ってはいるが蹴りや肘なども使う近接戦闘術だ。
「コメ仙人とやら、カンフーという武術を使うらしいな」
グリルスに話しかけられた。
「そうです……ゴホン、そうじゃよ」
「軍で鍛えた俺のナイフ術がどれだけ強いのか、この戦いを試金石とさせてもらうぞ」
「ヒョッヒョッヒョ、自分の強さを知らぬとは、まだまだヒヨッコじゃのう」
熊獣人はナイフを構える。俺は素手のまま立っている。
「それでは、Dブロック勝者決定戦開始!」
グリルスが巨体に似合わない速度で迫る。俺は棒立ちのまま待ち受ける。
グリルスの渾身の一撃が心臓を狙って放たれる。だが、殺気の篭もっていない一撃だ。心臓に刺さる寸前に止まり、左手の別のナイフが俺の右肩を狙ってきた。
「ホイ」
刃が肩に当たる寸前で躱し、グリルスの背中を押してあげた。
グリルスは勢いよく転びズザーッっと滑っていく。
「なんだ今のは!何が起きたんだ?」
「背中をそっと押してあげただけじゃよ」
「なるほど、ならばこうだ」
グリルスはゆっくりと歩いて近づいてくる。
「なるほどのう、ゆっくりならば背中を押しても意味がないという訳じゃな」
グリルスはすぐ目の前まで歩いてくると両手のナイフを連続で繰り出してくる。
「ホホホイ!ホホホイ!」
だが、コメットからすれば全ての攻撃が止まって見えるほど遅い為、全て素手でいなした。
「くそっ!ふざけた掛け声のくせに全て外されるだと!?」
そろそろ飽きたのでナイフを掴んで奪う。
「ホホイ!これで武器はなくなったぞい」
「出鱈目なジジイだ。だが、ナイフなどなくとも近接戦闘は可能だ!」
グリルスは突き、蹴り、投げなどの多彩な攻撃を仕掛けてきた。
「修行して出直しなさい!」
掌底を相手の水月に当てるとグリルスは壁まで吹き飛んだ。もう戦闘続行は不可能だろう。
「Dブロック勝者!人族のコメ仙人さんです!」
「次の試合で負けとこうかな〜」
皆の戦いぶりは見ることが出来たし、観客席から見る試合も良さそうだと思い始めてしまった。置いてきたハティのことも気になる。
Eブロックのダンゴロウとサイゾウの戦いはダンゴロウの勝利で終わった。人と同じ大きさの昆虫は最強だということなのだろうか?
Fブロックはカバ獣人のンブガとライオン獣人のレオンの戦いだったが、カバ獣人のンブガが勝ったようだ。カバ獣人の運動神経恐るべし。
これでA〜Fブロックの勝者が出揃った。あとは前回優勝者とスペシャルゲストを合わせれば8人となる。
アナウンスが始まる。
「A〜Fブロックの勝者は闘技場に移動してください!」
6人はぞろぞろと闘技場に向かった。中央には進行役が立っており、全員そこに集まった。
「それでは、前回優勝者の入場です!」
闘技場の扉が開くと小柄な獣人が入ってきた。よく見るとある動物に似ている。その動物とはラーテル。別名ミツアナグマである。気性が荒く、恐れを知らず、大型猛獣にも襲いかかる。皮は分厚く柔軟性と硬さを両立している為、装甲と言っても過言ではない。
「グルルルルル!」
ラーテル獣人は6人を威嚇する。だが、6人も歴戦の戦士である為、無反応だ。
「ラーテル獣人のラテルさんです!」
名前がまんまだった!
「続きまして、獣王様が推薦したスペシャルゲストの入場です!」
闘技場に入ってきたのは、料理人の姿をした人族だった。
なんか、見たことある気がする。あ、思い出した。帝国で出会った謎の料理人だ!あの時食べたステーキは美味しかった。
「人族のスティーヴンさんです。獣王様の専属コックとの情報です!これで8人が揃いました!果たしてどのような戦いとなるのでしょうか!?」
観客席から歓声が上がった。




