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「Aブロック、コウモリ獣人のバットヌンさんと人族のアンナさんは本戦闘技場に移動してくださーい!」
2人は闘技場に移動し、ある程度の距離を離れて向かい合った。Aブロックの1位を決める戦いが始まる。
「フッ、本戦でこんな小娘と戦うことになるとは思っていなかったぞ」
バットヌンがアンナに話しかける。
「小娘だと侮っているとすぐに負けますよ」
アンナが答えた直後、アナウンスが始まる。
「Aブロック勝者決定戦開始!」
バットヌンが翼を広げ、空に飛び上がる。
「私は空を飛び、君は地上で手も足も出ない!これでは侮るなと言う方がおかしいだろう!」
「……」
アンナは黙って空を見上げている。
「降参はしないか……ならば、くらえ!」
バットヌンは空を舞いながらコウモリ形の手裏剣を投擲する。しかし、アンナは半身だけずらし躱す。
「私の手裏剣を躱すだと!?」
完全に見切られている事を知ったバットヌンは怒り、手裏剣を連続で投擲した。
アンナは両手剣を脇構えで持ち、次に剣を大きく振った。その直後、強風が巻き起こり投擲された全ての手裏剣は吹き飛ばされてしまった。
「投擲は効かないと言う訳か。いいだろう!望み通り、地上で戦ってやる!」
バットヌンは地上に降りようと意識を一瞬アンナから外してしまった。
「えいっ!」
バットヌンはアンナが巻き起こした強風に吹き飛ばされ、円形闘技場の壁に激突した。バットヌンはピクリとも動かない。
「Aブロック勝者!人族のアンナさんです!」
アンナは楽勝だったようだ。
「Bブロックのチーター獣人のシピーダさんと人族のマルクさんは本戦闘技場に移動してください!」
闘技場に移動したマルク君はブルブル震えている。武者震いだろうか?
「おい!人族、そんなに震えてたらまともに戦えないぞ?俺は兎を狩る時も本気を出すんでね」
「ぼ、僕は震えてなんかいないぞ!これは……そう!準備運動なんだ!」
「そんな準備運動聞いた事ねぇけどな。まぁ、どっちにしても勝負は一瞬で終わるさ」
2人が構えると開始のアナウンスが始まる。
「では、Bブロック勝者決定戦開始!」
シピーダが先に動き出す。真っ直ぐにマルク君に向かっていく。マルク君はクルッと後ろを向くと走り出した。
「な!てめぇ!逃げるんじゃねぇ!」
シピーダは逃げるマルク君を追いかけるが、追いつけない。
「馬鹿な!俺より足が速いだと?」
どんどん引き離される。円形闘技場の壁に沿って走っていたが、いつの間にかマルク君を追うのではなく、マルク君に追われる側になっているシピーダ。
「ふざけるな!」
シピーダは反転して後ろから迫るマルク君に攻撃する。アダマンタイトで作った特製の爪だ。だが、シピーダ自慢の一撃は空振りに終わる。何故なら後ろに居たはずのマルク君の姿はもうなかったからだ。
「どうなってる!?幻術か!」
シピーダは混乱している。
「こっちだよ」
真後ろから声がして振り返るとマルク君の短剣二刀が迫っていた。
シピーダは爪で防御するが間に合わない。マルク君の連撃はどんどん速度を増していき、シピーダの四肢を斬りつけて無力化した。
「俺の負けだぁ!殺さないでくれぇ!」
シピーダが降参し勝敗が決した。
「Bブロック勝者!人族のマルクさんです!」
「「ブーー!ブーー!」」
観客達から大ブーイングが起こった。不甲斐ないシピーダに対するものか、はたまた人族が勝った事に対するものかは分からない。
「お静かにお願いします!一旦休憩時間とします!再開は30分後です!」
本戦は一時中断となった。控室に戻ったマルク君はブーイングで少しショックを受けていたが、アンナやルネの励ましで立ち直ったようだ。
「休憩時間が経過しましたので、本戦を再開します。Cブロックの人族のジーナさんと人族のルネさんは本戦闘技場に移動してください!」
謎の魔術師ジーナとルネの戦いが始まるようだ。魔術師同士の戦いとはどういうものかが、この戦いで知ることが出来るかもしれない。
闘技場で2人の魔術師が対峙する。
「あなたの事は知っているわ。アダマンタイト級冒険者のルネ。火魔法と風魔法が得意だったわね」
「それが何?」
「私は水と土魔法が得意なのよ。つまり、あなたの属性とは相性が良いのよ。あなたからすれば最悪の相手ってこと」
「それが何?」
「馬鹿なのかしら?自分が負けることを理解できないのね」
ルネはもはや語る事は無いと黙ったまま杖を構えた。
「Cブロック勝者決定戦開始!」
「火の力よ 敵を貫け ファイアアロー!」
「水の力よ 敵を貫け ウォーターアロー!」
ルネのファイアアローはジーナのウォータアローで相殺された。
「風の力よ 敵を切り裂け ウィンドカッター!」
「土の力よ 壁となれ アースウォール!」
ルネの攻撃はまたしても防がれた。
「無駄だって言ったでしょう!諦めて降参しなさい!」
「火の力よ 敵を貫け ファイアアロー!」
「無駄よ!水の力よ 敵を貫け ウォーターアロー!」
2人の魔法がぶつかり合い、水蒸気の煙が発生する。相殺と思いきや水蒸気の煙から小さなファイアアローが少し飛び消えた。
「なんで水魔法が火魔法に負けるのよ!」
「火の力よ 敵を貫け ファイアアロー!」
「み、水の力よ 敵を貫け ウォーターアロー!」
次はジーナの足元までファイアアローが飛ぶ。
「ひいっ!」
ジーナは慌てて避けた。
「火の力よ 敵を貫け」
ルネの正面に巨大なファイアアローが浮かぶ。次の魔法で確実に当てるという決意が表れている。
「私の負けよ!だから撃たないで!」
両手を上げて降参のポーズをしたままジーナは負けを認めた。
「ボクの魔法に弱点属性なんてない」
ルネの言葉でジーナは膝から崩れ落ちた。
「Cブロック勝者!人族のルネさんです!」
やっぱり予想通り、ルネが勝ったようだ。さて次は自分の番かな?




