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「セバスチャン、犯人を探しておいてくれ」
設計図を盗んだ犯人は気になるが異世界を発展させる為に次は鉄道を作ることにする。
蒸気機関車が地球で最初に作られたのは1802年。リチャード・トレビシックが初めて作ったとされている。
とりあえず気楽に交渉できるガーマ帝国との間に鉄道を敷くことにした。現在、帝国の皇帝をしているのはセバスチャンの部下だからだ。
ゴブリンキングに指示を出して大量の枕木とレールを作らせる。石も用意した。石は枕木に敷き詰める為だ。
レールを敷く前に、まずは基礎部分を作る必要があると考えた。
「ロックドラゴンいるかいー?」
神殿の奥からのっそりと岩のようなドラゴンが現れる。
「我が主よ、何か用か?」
「鉄道っていう乗り物専用の道を作りたくてね。以前と同じように道路を作って欲しいんだよ」
「その程度のことならば、お安い御用だ」
「じゃあ、ここからシャトラインまで鉄道用の道路を作ってくれ。そこまで終わったら次はまっすぐ西に向かって道路を作って欲しい」
「承知した」
よし。次はゴブリン達を連れて、レールを敷きに行く。
「おーい!そこ!ズレてるぞ!」
「おいおい!枕木が足りないじゃないか!早く持って来い!」
ゴブリン達の知能は低く思った通りに作業は進まなかった。
「ええい!こうなったら俺が全部やる!!」
部下に任せずに全部自分でやってしまう駄目な上司のパターンだが、相手がゴブリンならば仕方がない。
持てるだけのレールと枕木を持って設置していく。石の敷き詰め作業はゴブリン達にお願いした。
「ふぅ……一先ず、シャトラインとヴァリアスの間は繋がったかな」
レールを敷く作業は一旦保留にしてヴァリアスの城に戻った。理由は蒸気機関車を作る為である。
三輪バギーからハンドルを無くして、三輪を四輪に変える。あとは、魔物が突然現れても大丈夫なように外装を出来るだけ頑丈に作る。
作っていると誰かが近づく気配がした。
「陛下、お疲れ様です」
「ヘロン博士でしたか、お疲れ様です」
「今は何を作っているのですか?」
「鉄道ですよ。レールの上を走る車です。今は、魔物への攻撃手段として氷弾魔法杖を設置しました。魔力を流すことで氷の弾が飛ぶんですよ」
「それは素晴らしいですね!私も頑張らないと!」
「よし!これで完成です」
蒸気機関車が完成した。この世界の蒸気機関は石炭を使わないので黒い煙は出ない。とてもクリーンなエネルギーで素晴らしい。
「お〜!早く動く姿を見たいです!」
「今から客車を作るのであと数日後に来てください」
「分かりました!」
客車を作った。内装に関しては、城のメイドや執事にお願いして作ってもらった。貴族向けの内装だ。
「完成だ!」
こうして蒸気機関車1号が出来上がった。
「名前は何がいいかな?機関車○ーマスは怒られるからなぁ。1829年にレインヒル・トライアルで勝利した機関車と同じ名前にしよう」
機関車の側面に【ロケット号】と彫られたプレートを設置した。
「陛下、お呼びですか?」
「はい、鉄道が完成しました」
「うわぁ、カッコイイです」
機関車をヒョイと持ち上げて、レールに乗せる。コメットだからこそ出来る力技である。客車をレールに乗せて、機関車と連結する。
「さあ、乗ってください」
博士や従者達が乗り込んだのを確認し、蒸気機関車のレバーを押して火力を最大にした。蒸気機関車はゆっくりと走り出し、だんだんと速度を上げていく。
レールが思ったよりも上手く設置出来たようで、横揺れもほとんどない。歩いて1日かかるところを、蒸気機関車で1時間もかからずに到着することが出来た。
「感動しました!全然揺れなかったです」
「さすがは御主人様です!こんなに速い乗り物に乗ったのは初めてです!」
博士やメイド、執事達は驚いているようだ。
試験運転は成功だ!
シャトラインの石や木材を買い集めて駅を作成した。スキルレベルが最大になると駅を作ることも容易いのだ。
「ヴァリアスに戻ったら、この建物『駅』を建てるようにセバスチャンに言ってくれ。俺はこのまま帝国までレールを敷くから」
それから1週間程かけて帝国までレールを敷いた。途中の谷には橋をかけた。鉄道はジャンピングブリッジをジャンプ出来ないだろうからね。
そして、ガーマ帝国とヴァリアス王国の交易がより活発に行われるようになった。
3ヶ月が経過した。帝国との鉄道を参考に各国も、鉄道の開発を始めたようだ。
今はロートスや魔法大学にも鉄道で行けるようになった。
「そういえば、ヒュージシルクワームはどうなったかな?セバスチャーン」
「はい、ヒュージシルクワームの工場は順調に稼働しております。ヘロン博士が作った製糸機械で糸を作り、その糸を使って作った布がこちらになります」
「鑑定」
【マジックシルクの布】
耐熱、耐寒、耐衝撃、耐魔に優れた布。非常に軽く、肌触りが良い。
「最高の布じゃないか!これを量産して、衣類を作れば産業革命と言えるんじゃないか!?」
「はい、そう仰ると思いまして、既に衣服を作らせております」
「さすがはセバスチャン。衣服も蒸気機関を使って量産するようにしてね」
「畏まりました」
「作った衣類はまず貴族に高く売り込もう。そして頃合いを見計らって庶民にも行き渡るように安く作るようにしてくれ」
「仰せのままに」
セバスチャンは命令を遂行する為、立ち去った。コメットは自室へと戻った。
さてと、あとは異世界が発展していくのを眺めるだけでいいんだけど何もしないのは暇なので何をしようか考えていると部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ?」
メイドが入ってきた。
「コメット様、コメット様の知り合いと名乗る者が謁見したいと申しておりますが、いかが致しますか?」
「それってどんな人ですか?」
「猫です」
「まさか……あいつかな?謁見の間に通してくれ」
「はい、すぐに準備致します!」
5年前の猫を思い出す。
「あいつ、生きていたのか……」
コメットは謁見の間に向かいながら呟いた。
謁見の間に着き、王の椅子に座る。正面の扉が開き、懐かしい猫が入ってきた。
「ナビ、久しぶりですね」
「お久しぶりニャ!」
5年前と何も変わらず学者帽と地図マントを着た猫だった。
「生きていたんですね」
「あの時は本当に死ぬかと思ったニャ!嫌な予感がして街を離れて正解だったニャ!」
「それで、どうしてヴァリアスに来たんですか?」
「冒険のお誘いニャ!クリスタルドラゴンの場所が分かったのニャ!」




