終わりの運命(2)
「ふふっ…ねぇ?遊んでくれない?いいじゃぁ〜ん!遊ぼうよ!」
丸で駄々をこねる子供。
実際に身体的特徴としては、子供。
だが異様な威圧感や恐怖を身体中から吐き出している。
ビリビリと揺れるような空気。
立つこともままならない程の圧に「ぐらり」と視界を持揺らすが、ハッと息を飲み意識を保つ。
ただただ、意識を保つのに全力を注ぐのみ。
「うぷっ…遊べるほど余力が残っているように見える…うっ…」
目から涙を滲ませ、口からは涎を垂らしている。
血眼で子供の方を少女は睨む。
口は動かせるが、先ほどまでとさほど状況は変わらない。
敷いて言えば、詠唱ぐらいならできるか。
頭の中でそう考える。
けれど戦闘態勢に入るには、あまりにも不十分。
先程の化け物との戦闘。
そして召喚。
そこで使った力はあまりにも強大である。
10代の少女には確実に重労働。
そんなことは頭の中で考えると、子供から返事が返ってくる。
「うーん。だめかぁ。そりゃ初対面だしねぇ…はっ!閃いたよお姉ちゃん!これならどう!?二人で自己紹介し合おうよ!」
そう言った流れになった瞬間、威圧感、恐怖が彼から全て消える。
先ほどまで何もなかったかのように。
そして少女はこう答える。
「そういう問題じゃ…」
言葉を遮り子供はこう言う。
「僕の名は…うーん。そうだ!カッコいい名前思いついた!聖なる暗黒騎士!だーくねすほーりー!こういう名前だよ!略して…略して?うーん…リーネスって呼んでよ!」
「聖なるって…対義語じゃない…しかも思いついたって言ってるし…けどいいわ…リーネス…名乗ったのだからこちらも名乗らないとね…じゃあ名乗ってあげるぅ〜わっ!!」
ーーシュッ!
少女は瞬間的にリーネスの後ろに移動する。
まさに刹那。
瞬きする間もない速さで移動し、0.2~3秒も立たないうちにリーネスの首目掛け少女は魔法を放つ。
「爆散しろっ!焔ノ劍•爆ッ!(レッドブレイク)」
先程とは微妙に違う複数の焔の剣がリーネスの首を切り裂く。
そして爆散する。
爆発した焔の剣は杭のような形になり、リーネスの周りを囲う。
少女は後ろに仰け反り、囲いの外に出る。
「じゃあ私の名前を教えてあげるわッ!私の名前は!バートリ!モニカ•バートリよ!術式展開ッ!」
そして彼女が焔の杭を使い、またもや結界を張り、指で印を結ぶ。
「術式展開完了!詠唱開始ッ!なんてね!私程度になると詠唱なんていらないのよッ!」
「全てを飲み込め。終焉•零。」
この技も同様に、化け物の時と同じような黒い炎が結界内をリーネスと共に埋め尽される。
そして重力により周りが歪む。
「ぐっ…モニカさんっ…いいねっ!けどまだまだだよっ!」
重力に抗っているのか、重力による振動などが少し収まる。
だがそんなことも束の間。
「これだけだと思うっ!?ならもっと上げてあげるわ!
そういった瞬間、振動が強くなる。
恐らくどんな強靭な男も立っていられない程に。
周りの地面もビキビキとひび割れ、砕け始めたころだった。
振動が止んだのだ。
先程までの結界が消えている。
代わりに空間にヒビが入っている。
「成功…したのね…流石に時空の外に追い出せば…あんな化け物でも…最初から殺しに行って正解だわ…」
ーーー数分後ーーー
「…きて…お…て…」
外から声が聞こえる。
先程まで意識の外側にいても感じていた痛みも消えている。
(まさか死んだのか。)
(こんな異世界に転移してすぐに?)
(まぁいいや…今はもう…休もう…)
「起きてッ!」
ーーパチンッ!
「イッテェ!なんだ!」
「やっと起きたのね。死んだかと思ったわ。」
「え?あ、あぁ…」
「大変だったのよ。化け物殺して。あんた治して…」
「治してくれたのか…」
「そうだ。アイツで思い出したわ。名前…言ってなかったわね。」
「そうだな。で?お前の名前は?」
「あんたが先に言いなさいよ。まぁいいわ。私の名前はモニカ•バートリよ。言ったわ。あんたの名前言いなさいよ。」
「シノミヤ•ユウだ。お前?バートリ?その名前どっかで聞いたことあるような気がするけど…」
「どこでもいいでしょ…それよりあんた、あいつがくるわ。全身の魔力を右手に込めなさい。少しだけ時間稼ぎをしてちょうだい。」
先ほどまで時空の割れ目がさらに広がる。
複数の巨大な手が割れ目を広げている。
「お姉さん…まだまだ遊び足りないなぁぁぁぁぁあああああっっっぅ!!」
「しつこいわねぇ!シノミヤっ!行くわよ!」
「あぁ!いいとこ見せなきゃな!」
「君も遊んでくれるのぉぉぉぉ!!?」
「うげ…こういうタイプのやつか…」
「そうよ。無駄話はいいわ。魔力を放出して!シノミヤっ!」
「やり方知らないんだがっ!?弾け飛べっ!!クソガキッ!」
波動のようなものがリーネス目掛け飛ぶ。
リーナスの周りにいる大きな手がリーネスを囲い、波動から本体を守る。
「その程度かぁ…ならいいよ…厄介な方から潰してやるからさぁ!ねっ!モニカ!」
「その程度読めてるわ。結界発動。薄汚く食い散らかせ…暴食の獣」
モニカの周りに薄い影のようなものが出現する。
そして結界内のリーネスが操る腕を全て食い尽くす。
「なにそれかっこいい!」
「なにそれかっこいいな。」
「シノミヤとリーネスって仲良いのかしら。同意見じゃない。」
「こんな奴となんて嫌だね。死んでも嫌だ。ということで!イメージ的にはぁ!?魔力で腕を囲う感じで!殴る!」
「まさに脳筋ね。魔力も使えていないし、何も考えていない攻撃。やっぱりリーネスと似てるじゃない。まぁ手伝ってあげるわ。腕力超強化」
「ひゃっはぁぁぁぁ!!!俺の時代だぁぁぁぁぁ!!」
バキッ!ドン!メシャァ!
潰れるような音が鳴り響く。
その音と共に、リーネスの周りを囲う腕もぐしゃぐしゃと潰れていく。
「ひどいなぁぁぁ!!!仲良くしなきゃだめだよぉぉ!!!」
「ぐふっ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「押し合いなら負けないよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「へっ!こっちだってぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
「ぐっ。うはぁ!」
「あれれ?負けちゃったねシノミヤくん!」
「次は負けない!殺す!」
「準備は終わったわ。そんなお遊びもうやめて頂戴。」
そういうと、リーネスの周りに何か異常なものが見えた気がした。
「短期解決が目標なのよ。ということでおしまい。」
「あ」
ーーグシャァ。
その場に響いたあまりに気持ち悪い音。
肉が潰れる。そして骨が折れ、剥き出しになる。
先ほどまで大きな腕を操っていた子供は一瞬で肉塊となっている。
先程までの原型は全くもって無い。
人の形すら留めておらず、かつて人だったものが残っているだけ。
そしてシノミヤは返り血を浴びる。
吐き気がする。
気持ち悪いとかじゃない。
そんなものじゃない。
人の死。
自分を殺そうとしていたが、明らかな人の死。
何も感じない?
そんなわけがない。
目の前で人が死んだのだ。
シノミヤは真っ赤に染まっている。
そう。真っ赤に。
「え?」
「うっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁ!!!」
「うぷっ…おごっ…おえぇぇぇぇぇぇ!!!」
吐き出す。
そう。
吐き出している。
人の死のあっけなさ。
目の前の肉塊の哀れさ。
血溜まりの生臭さ。
意味もわからず死んだ。
何もかも分からない。
だがその中で一つわかったことがある。
ここは『地獄』だと。
長い。