終わりの運命(1)
「私があなたを召喚したの。」
唐突に告げられた意味不明な言葉。
けれどなんとなく理解できた気がした。
首根っこを掴まれ、そして俺が逃げれるように助力したのだ。
そこには普通に考えてデメリットしかないような気もする。
一歩間違えれば共犯者として捕まえられる。
そこまでして俺を助ける理由がない。
そんな考えをまとめた所で質問をした。
「なんで俺を召喚した。」
まず最初にこう考えた。
なので質問をした。
特にそれ以外に質問した理由はない。
まぁどうせ世界を救って欲しいとか、そういう理由だろう。
適当な推測を立て、質問に対する答えを待つ。
「それはまだ言えない。まだその時ではないわ。」
「へぇ…そうか。ならいいわ。とりあえず俺は何をさせられんだよ。意味もなく召喚したわけでも無さそうだし…」
「残念だけれど、召喚するために使ったMPが回復できてないの。その後に全力疾走してしまったから…今意識が朦朧とし…ているのよ。喋っているだけで…も精一杯…ってわけではないけれども、意識が…もうすぐで落ちそうだわ。答えると長くなってしまうわ…とりあえず…これを預かっ…てて…もら…え…」
ーーバタリ…
彼女はそう言って地に倒れ込む。
今のところ何がなんだかわかっていないが、彼女が俺に渡そうとしたものを手のひらから取る。
それは光輝く指輪?のようだった。
「なんだこれ…指輪か?まぁとりあえずなんかよくわからんこと言ってたし、つけるか。」
つけた瞬間、何か背中にとんでもない物を感じた。
背筋が凍る。
恐怖を感じる。
そんな月並みな言葉では表せない。
何か本当に異質な物を感じた。
「うっ…なんだこれ…くっそ…まぁとりあえずここにいたらさっきの奴らに見つかるか。こいつを運びながら適当なとこに移動するか。」
そうやって少女を担ぐ。
「こいつ…意外と重いな…」
ーーバチンッ!
「いって…こいつ殴りやがった!本当に意識落ちてんのかこいつ!まぁいいや。さっさと逃げよう。」
ーー数時間後ーー
「ん…ふぁぁあ…ここは?」
少女は目覚めると可愛らしく伸びをする。
さっきまでと違う草原のような場所なので当たりを見回す。
「やっと起きたか。で?MPは?回復したのか?」
「まぁ少しは…ってその指輪っ!もしかして!あなた!はめたの!?遅かったか…まず最初に説明していれば…」
「もしかして俺…やばいことした?」
「やばい所じゃないわ。一歩間違えればあなた…死ぬわよ…いや…死ぬどころじゃないわ…言葉で表せないほどの苦痛を…」
「まぁ大丈夫大丈夫!安心しろって…」
ーーバァン!!
そう言葉を遮られ、音の主がいる方向へと目を向ける。
さっきまで緑に染まっており、まるで今までのことを忘れそうなくらい現実離れした美しい草原の景観を乱すように砂埃が舞っていた。
そしてまるでダイナマイトで爆破したかのような穴が空いている。
なのにそこには何もいない。
そんな光景に危機感を覚えた。
だがそれよりも、背中の後ろに漂う異質な空気感…
振り向こうと思っても振り向けない。
圧倒的恐怖。
(逃げなきゃ死ぬ…逃げなきゃ…)
そんなことを考える。
だがどうやっても逃げれない。
そもそも逃げれるビジョンが浮かばない。
けれど覚悟を決め、ゆっくりと…
右の方へ首を回す。
ーーアギャァァァァァァ!!!!
「はっ!」
恐怖に固められた意識を戻し少女の左の方向へ死に物狂いで飛び込む。
もはや1秒もこの場に留まりたくない。
だが少女を助けなければ!!
そんな想いが頭によぎり、自分だけでも逃げる方が生き残れる可能性はあったものの、二人で生き延びる方を選んだ。
いやむしろ選ぶ時間などなかった。
考えずに衝動的に飛び込んだのだ。
そして少女を突き飛ばすと防御の態勢に移る。
「がガァぁぁガァガァが!!!!」
この世のモノとは思えない雄叫びをあげ、化け物が拳を突き出す。
「うっ…がはっっ!!」
この一撃で左腕と肋骨 2本が折れた。
むしろこれでとどまれたのがよかったのかもしれない。
そしてその勢いのまま吹っ飛ぶ。
背骨を地に打ち付け、転がる。
その光景を見た少女は、はっ!と意識を取り戻し、化け物目掛け魔法を放つ。
「焔ノ劍 閃!!」
光すらを超越するスピードの炎で出来た複数の剣が、化け物の体に突き刺さる。
だが魔法を直に食らった。という様子もなく、シノミヤユウの方向へ歩みを続ける。
「聞いてないっ…?なら…術式展開ッ!」
化け物に刺さった剣が抜け、化け物の四方を囲む。
その後、並行するように手の動きを変え、結界のようなものを展開する。
「術式完成。詠唱開始。地獄…極楽…全てを破壊する力よ。我に力を…」
「塵と化せ。終焉 伍式」
「発動」
ーーウグァァギャァァァァ!!!!!
黒い炎が結界の領域内を埋め尽くし、そして周りの光が歪むほどの重力が結界に発生し、黒い太陽が完成する。
そして化け物が弾け飛ぶ。
血や肉片が、そこかしこにべちゃりと落下し、黒い炎により塵と化す。
「流石に…ここまでは…やりす…ぎたか…しら…」
けれど先程までの空気感は全く変わらない。
だがむしろさらに強くなっている。
「はっはっはっ!いいな!その技!僕も使ってみたいなぁ!」
「誰!」
さっと後ろを振り向く。
「うっ…」
察したのだ。
今までの異質な空気感は、さっきの化け物ではない。
こいつから発せられているのだ。
気を抜くだけで意識が持ってかれる。
死ぬ。
無理。駄目。死ぬ。死ぬ。死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
そんな言葉で頭の中が埋め尽くされた。
「ねぇ…君…」
「な…なによ…」
声を震わせ、手を血が出るほど握り締め、全身の筋肉を硬直させ、声を絞り出す。
こいつには勝てない。
こいつだけは。
この世界にはいてはいけない。
そう思った矢先。
そいつから、まるで死を宣告するような言葉が狂気に溢れた笑顔で発せられた。
「ねぇ君…一緒に遊ぼうよ!」
結構頑張ったんで褒めてください…それより眠い…