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結局、飲み会の私の代金は兵藤さんと三船さんが出してくれた。
突然誘ってしまった三船さんに申し訳ないことをしてしまった…。
今度会ったらお礼言わなきゃ…。
兵藤さんには朝一でお礼を伝えたが、「大丈夫大丈夫ー」とあしらわれてしまった。
うう…、すみません。
「「あ…」」
昨日の今日でまた三船さんとばったり会ってしまった。
お礼言わなきゃ…。
「昨晩はありがとうございました」
「気にするな」
「突然お誘いしてしまったのに…」
「俺もちょうど飲みたかったから」
三船さんと私の間にぎこちない雰囲気が出ているけど、もしかして見知らぬ女の代金を払ったこと怒ってる…?
そうだよね…。
少しだけ話したことあるだけだしね…。
「その…」
「気にしなくていい。嫌いな女なら金なんて出さない」
「っ!?」
顔に出てた?
穴があったら入りたい…。
「俺が苦手なら無理にお礼を言わなくてもいいぞ」
「そ、そんなことないです…っ」
三船さんは苦手というか、まだ少ししかお会いしたことないのでそんな感情もないです…。
私が三船さんを嫌うなんてお門違いです。
私だって自分の立ち位置把握してます。
「…そう」
「はい…」
「んじゃ、俺打合せあるから」
「呼び止めてしまってすみません。お疲れ様です」
部署の皆さんとはすぐに打解けたのに、三船さんとは中々打解けられない。
打解けたいとは思わないけど、飲み会に一緒になることがあるならせめて会話できるようにはならないと…。
「楓ちゃん、これお願いできる?」
「はい」
午後に同じ事務派遣の内川さんが処理が必要な書類を渡してきた。
内川さんは陣内さんと同年代であり、お子さんが小さいので中々飲み会には参加できないけど、仕事中は陣内さんとともに可愛がってもらっている。
「ホント楓ちゃんは可愛いわねー。そう思うでしょ恵ちゃん?」
「ホントよねー。私の娘もこんな良い子になってくれるといいんだけど」
「わ、私は可愛くないです…」
データを打ち込んでいる時にそんなこと言わないでください…。
タイピングミスっちゃいます…。
「可愛いわよー。東京に染まってない素朴な女の子って感じがして」
「薫ちゃん、それ酷くない?遠回しに田舎娘って言ってるように聞こえるわよ」
「そうじゃないわよー。こう…なんか上手く言えないけど分かってよ」
「大丈夫ですよ。田舎娘ですので、問題ないです」
「もー、そうじゃないのよー!」
秋田から出てきた田舎娘なんですから大丈夫です。
オシャレの仕方も分かりませんし、しようとも思いません。
そんなお金があるなら貯金します!
仙台のお父さんにも悪いし…。
「前任者の二村さんに比べると月とスッポンなのに」
「ほんと。思い出しただけでもイライラしちゃうわ」
「…そんなに酷かったのですか?」
同じ派遣会社みたいだけど、二村さんという方は存じ上げないです。
そんなに酷かったら担当者の方が嘆いてそうですが…。
逆に知っている人のが少ないです…。
「ねー、兵藤くん」
「クソビッチ」
陣内さんが兵藤さんに話しかけるとクソビッチという単語だけが返ってきた。
今日も兵藤さんは眠そうな顔をしているのに、パソコンに向かう指はスピードが全く落ちてません。
クソビッチって…。
「言葉が悪いわよ。まぁ、クソビッチだったのは否定しないけど」
「薫ちゃんも口悪いじゃない。やーねー」
「ビッチオブビッチ」
否定しないのですね…。
そこまで言われるって逆に何をしでかしたんですか…。
噂には酷い人だったとしか聞いていませんが。
兵藤さん、PCと睨めっこしながら会話まで拾えるんですね。
「楓ちゃんはそうなっちゃダメよ」
「自分の体は大事にしているつもりです」
お父さんに育ててもらった大事な体を安々と使ったりしない。
同じ女性として少し嫌だな…。
「無断遅刻当たり前、出社してもすぐにトイレで化粧直し。仕事を依頼すると何もしないのよ。挙句の果てには三船くんにちょっかいかけたりしてたんだから」
「…聞いただけでも同じ女性とは思えないですね」
三船さんはやっぱりモテるのですね。
別に三船さんがモテるといっても私はどうも思いませんが。
「内川さん、終わりました。陣内さん、確認お願いします」
「嘘!?楓ちゃん早いわねー」
「恵ちゃん、私たちより一回りも若いんだから当たり前よ」
「薫ちゃん。年の話はダメでしょ」
午後の余った時間で資料室のデータ化でもしようかな。