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「小田桐さーん。資料のデータ化教えるので資料室まで行きましょ」
歓迎会の翌週に、仕事をしていると兵藤さんからお呼びがかかった。
会社の方針で、過去の紙資料をデータ化しているみたい。
データ化と言っても読み込んで保存するだけみたい。
「資料室は地下2階ね」
「はい。覚えておきます」
資料室は地下2階…。
「ここね」
兵藤さんに案内された資料室は膨大な資料が置いてあった。
これを全部…?
私一人じゃいつまでかかるかな…。
「あ、うちの部署の分だけだからこっちこっち」
「よかったです」
よかった。
全部じゃないみたいで安心した。
これを全部を骨が折れるどころの話じゃない。
「ん?」
「あれ、ゆーりたんじゃん」
「あ…」
目的の場所に向かっていると、とある男性が資料を探していた。
先週飲み会の帰り道でお会いした方だ。
ゆーりたんって…。
「飛べない豚じゃねーか」
「飛べるし!今すぐ屋上から飛んできてやんよ」
「おう、救急車用意しとくわ。即死だから警察か」
「………」
ええー…。
兵藤さんとたしか…三船さんが言い争いを始めてしまった。
どうしよう…。
「ああ、小田桐さん。気にしなくていいよ。ゆーりたんと僕は大学の同期で腐れ縁だから」
「そうそう。喧嘩してるわけじゃなくてじゃれ合ってるだけだから」
そうなんだ。
私は東京に友達なんていないから憧れるなぁ。
地元にも友達と呼べる友達なんていないけど…。
「えっと…」
「三船さんでしたよね。小田桐です。先週はお世話になりました」
「はぁ!?ゆーりたん、うちの小田桐さんに手ぇ出したの?」
「ちげーよ。先週うちの飲み会の帰り道で、陣内さんと歩いていたところをうちに課長に捕まって挨拶だけしたんだよ」
「ですです」
覚えてますとも。
初対面なのに強烈な視線を向けてきた三船さんですもん。
「小田桐さん、よく俺の名前覚えてたね」
「記憶力はいいんです」
「小田桐さん。ゆーりたんの手の早さは天下一のクソチャラ男だから近づいちゃダメだよ。女の子なら誰でも手を出す変態だから」
「誰がチャラ男で変態だ」
「気をつけます」
小田桐さんと三船さんがわーわーぎゃーぎゃー戯れている。
仲良いなぁ…。
「お前仕事で資料室に来たんだろ。小田桐さんいるんだから仕事に戻れよ」
「あ…。ごめん小田桐さん。ゆーりたんが邪魔しなければ…!」
「俺のせいにするなよ」
「ゆーりたんまたねー」
「失礼します」
三船さんに挨拶をし、兵藤さんと目的の場所に。
資料室の全体から見ると少量だったけど、それでも処理するのには時間がかかりそう…。
急ぎじゃないので空いた時間でということだったけど、この量だといつまでかかるんだろ。
「「あ…」」
午後にお使いで、1階にある総務室にと届け物をするため、社内を歩いていると三船さんと会ってしまった。
「先程はありがとうございました」
「何もしてないと思うけど」
「兵藤さんを止めていただきましたので」
「気にしなくていいよ」
二人で下りのエレベーター待つ。
三船さんは私と20センチ以上身長差があるので、隣に立たれると威圧感を感じてしまう。
「………」
「………」
気まずい…。
エレベーターこないんだけど…。
午前中に初めて会話した三船さんと二人は荷が重いよ…。
エレベーターまだかな…。
「…警戒しないでいいよ」
「え……」
「大輔が言ってたのは冗談だから」
え…?
冗談ってどれ?
「誰でも手を出すようなチャラ男じゃないから安心して」
「あ、はい」
別にそれについては気にしてません。
私みたいな女が三船さんみたいな男性に相手にされることなんてないんですから。
警戒してるわけじゃないんだけどなぁ…。
「何階?」
「1階でお願いします」
エレベーターが到着し、三船さんがボタンを教えてくれた。
エレベーター内も二人って…。
「避けてる?」
「いえ…。そんなことは」
「だって一番遠いところにいるから」
「気に障ってしまったのでしたらすみません」
ボタンの前に陣取った三船さんの対角線上の一番奥に私はいる。
避けてるつもりはないんだけど…。
体が勝手に奥に行っただけです。
ボタンは三船さんが押してくれたし…。
「謝らなくていいよ」
「はい」
まだ配属されて1週間の私に何を求めているんだろう。
社交性の高そうな三船さんと社交性の低い私じゃ会話なんて続かないよ…。
「それじゃ」
「お疲れ様です」
三船さんが先にエレベーターから降りていった。
はぁ…。気まずかった。
 




