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「小田桐さんを歓迎します!乾杯!」
金曜日。
定時後に皆さんに連れられて会社近くの居酒屋に。
今日は私の歓迎会だ。
課長の広瀬さんの挨拶で歓迎が始まった。
皆さんがお酒を飲む表情は嬉しそうだ。
「聞いてよ!楓ちゃんったら21なのよ」
「陣内さんっ!?」
乾杯と共にジョッキのビールを飲み干した陣内さんが私の年を暴露する。
陣内さんの言葉に皆さんが口々に「若い」と言う。
「若いなー。うちで一番若いか?」
「ですです。僕が25なので一番若手っすね」
「俺の半分以下じゃないか」
「よっ!おっさん!」
「誰がおっさんだ!」
業務中とは打って変わった皆さんの雰囲気。
いつも真面目に見える広瀬さんも、眠そうな表情をしている兵藤さんもイキイキとしている。
「俺も人事から聞いた時驚いたんだよ」
「広瀬さんは事前に知ってますもんね」
「21だぞ。でも派遣会社からはイチオシです!って言われたんだよ」
「楓ちゃんはしっかりしてるわよー。メモもしっかり取ってるし、一度言ったら全部覚えてくれるのよ」
「そんな…。恐縮です」
そんな褒めないでください…。
派遣会社の方もそんな言い方しなくても…。
「前の人に比べたら最高よ」
「あれは凄かったですよ」
「派遣元も信頼回復しなきゃってことで小田桐さんを送り込んできたんだろうな」
皆さんが口々に私の前任者のことを口にする。
どうやら勤務態度がイマイチであり、陣内さんや皆さんとも上手くいっていなかったみたい。
陣内さん良い人なのにな…。
「もうね!楓ちゃんが可愛いのよ。私の娘にしたいくらいよ」
「陣内さんっ!?娘って…」
「陣内ちゃん、もう1人作るのか?」
「かちょー!セクハラですよ」
陣内さんの娘って…。
私みたいな不出来な女は相応しくないですよ…。
「こんな良い女の子いないわよー。兵藤くんも嫁さんにするなら楓ちゃんみたいな女の子にするのよ」
「ええ…」
「リアルの女性には興味ないんで」
「これだから童貞は…」
「どどどど童貞ちゃうわ!」
陣内さんもそこまで褒めなくても…。
兵藤さんはオタクでリアルの女性には興味がないみたい。
いつも眠そうな顔をしているのはアニメを見ているからと判明した。
童貞って…陣内さん、セクハラです。
「楓ちゃんに手を出す男がいたら私が〆てやるわ」
「こっわ…」
その後も、皆さんが業務中に見せることのない一面を見ることができた。
良い雰囲気の会社だなぁ…。
「業務端末と社員証は落とすなよー!」
「はーい!」
「お疲れ様でしたー」
私の歓迎会を終え、皆さんが次のお店に行ったり、帰宅したりと別れていく。
歓迎会ということで、私の会費はゼロだった。
申し訳なく、出そうとしたら広瀬さんに止められた。
恐縮です…。
「楓ちゃん、お家どこ?」
「赤羽です」
「なら途中まで一緒に帰りましょ」
「はい」
帰宅する陣内さんと駅までご一緒することに。
楽しかったなぁ…。
「あら…」
「どうかしましたか?」
「企画部の連中ね。会社が近いから、週末はそこら中の飲み屋に会社の関係者がいるのよ」
「そうなんですね」
駅まで歩いていると、目の前の居酒屋で騒いでいる集団がいた。
どうやら同じ会社の方たちらしい。
大きい会社だから、その分部署も多いよね。
「陣内さんじゃないっすかー!」
「おつー。私は帰るのよ」
「そっちの可愛い子紹介してくださいよー!」
「うちの楓ちゃんをあんたに紹介するわけないじゃない!」
集団の一人が陣内さんを見つけて声をかけてきた。
可愛い女の子って…。
私は可愛くないです。
「挨拶だけでも…」
「たくっ…。楓ちゃん、挨拶したら帰るわよ」
「小田桐 楓です。今週からお世話になっています」
陣内さんを引き留める男性が中々折れないので、仕方なく陣内さんが折れた。
私の挨拶だけで開放されるなら大丈夫です。
陣内さんにはいつもお世話になっていますから。
「?」
私は強烈な視線を感じ、視線の方向に顔を上げた。
「小田桐ちゃん。三船はダメだよー。こいつ女の扱い最悪だから」
「課長、嘘言わないでくださいよ」
「………」
私に強烈な視線を向けていたのは三船さんという方らしい。
お会いしたことないけど…。
何かまずかったのかな?
「ほら!挨拶は済んだから退きな!邪魔よ」
「おつかれちゃーん」
企画部の方々に開放された私たちは駅まで行くことができた。
今日は久しぶりに楽しかったなぁ…。
また来週から頑張ろう。