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プロローグ 幼女VS俺(高2)

「これで最後だな」


 俺は手に持っていた教科書の束をゴミ捨て場に投げ入れた。今年に入って初めての資源ゴミの日……つまり、大掃除のゴミが一斉に出されるこの日は、地域指定のゴミ捨て場にはあふれ出さんばかりの資源ゴミが集まっている。


「にしてもほんとにすごい量だな」


 新聞や雑誌の類いだけでなく、使わなくなった教科書もあれば漫画本もある。どれもぼろいのでお金にはならなそうだが。


「ってあれ?」


 ゴミの山の中に明らかに紙ゴミじゃないものを見つけた。


「なんだこれ……箱か?」


 緑色にキラキラと光る箱。表面には細かい模様が彫られており、意外にもずっしりとした重みがある。


「きれいな箱だな。まだ使えそうだし……てか、燃えないゴミじゃないのか? 今日出しちゃだめだろ……」


 箱が開いた。俺が開こうとしたわけでも、ボタンらしきモノを押したわけでもないのに。


「は?」


 そこにあったのは真っ暗な闇。底冷えするような暗黒がぽっかりと口を開けている。


「う、う、うわああああああっ!?」


 途端に襲いかかってくる、全身を打つ強い衝撃にたまらず悲鳴を上げる。まるで台風に巻き込まれたかのような気分だ。

 なんとか目を開くと、視界は一面真っ暗闇だった。自分の体がふわふわと宙に浮かんでいることに気がついた。


「ひ、ひええええええええええ!?」


 そして、俺はそのまま気を失った。


○●


 ぷに、ぷに、ぷに。


 頬にかすかな感触。不快感に俺は目を覚ました。


 視界に飛び込んできたのは暗い天井だった。ゴツゴツとした岩のような形をしている。


 そして、耳に飛び込んできたのは少女の悲鳴だった。


「ひいいいいいっ!」


 声の方を向くと、金色の髪の少女が呆然とした顔でこちらを見ていた。白い肌に短い手足。そして成熟しきってない幼い顔立ちから見るにまだ小学生くらいだろう。

 てか、格好がやばい。体操服にブルマって……2-5 鈴木って……。


「い、生きてた……」

「悪かったな」


 少女の手には菜箸のようなモノが握られており、それで俺の頬をつついていたらしい。


「じゃ、じゃあ……殺さないと……」


少女は菜箸を置くと、背中から包丁を取り出した。


「え、いやいやいや……」


 俺はやけにごつい包丁と覚悟を決めたような少女の顔にただならぬ雰囲気を察する。


 少女はやけに素早い動きで俺に馬乗りになる。


「す、すぐ終わらせるから」

「いやいやいやいやいや!」


 さすがにインドア派な俺とは言え、こんな幼女に力で負けるはずもない。すぐさま幼女の体を押しのけ……ってあれ?


 腕が縛られてる。


「恨まないでください!」

「ちょっと待ってええええええ!」


 幼女が包丁を高く振り上げた。


「おらあっ!!!」


 俺はブリッジをするように腰を持ち上げる。普段使わない筋肉が痛い。


「きゃあっ!?」


 幼女はバランスを崩し横に倒れる。チャンス。

 俺はもぞもぞと体を芋虫のように動かし、幼女に覆い被さった。絵面はかなりやばいがこっちは命が危ないのだ。


「どいてください! このっ! このっ!」


 幼女はぽかぽかと俺の脇腹を殴るが、効果は薄い。包丁を取り落としてくれたノが幸いした。


「重い……って!」

「イタタタタ!」


 幼女は俺の髪を引っ張り始めた。さすがにこれは痛い。涙が出そうだ。


「落ち着け! 話せば分かる!」

「何も話すことなんてありません! 死ね!」

「一回離して! 抜けちゃう! 髪の毛抜けちゃう!!」


 俺が暴れると、幼女は髪の毛を離してくれた。が、次に幼女の手がつかんだのは最もつかんではならない場所だった。


「ごびょおおおっ!?%!($‘#」


 二つの玉が悲鳴を上げる。神のイタズラか悪魔の罠か。そう思うほど繊細でか弱い男のシンボルは、幼女の非力な握力とは言え、死に直結しかねない激痛を伴った。


「は……なし……てっ」

「そっちが先に離れてください!」


 下腹部をおそう痛みに息をすることすらままならない。このままでは間違いなく死ぬ。


高校の入学式。不安と期待で胸をいっぱいにしたあの日。

中二の夏。親と喧嘩し、家を飛び出したあの夜。

小五の運動会。ゴール直前で転倒し、涙をのんだ夕暮れ。

幼稚園生の頃。一生によく遊んだゆうちゃんは今どこで何をしているのだろう――。


「うああああああああああああっ!」


 やばい! 走馬灯って奴だ!

 俺は幼女の腹に肘鉄を食らわせた。幼女の手が緩む。


「おらあっ!」


 俺は地面に横たわる幼女に頭突きを食らわせた。ただでさえ高校生の俺と小学生くらいの女の子という体格差。全体重を額にかけた俺に、地面に倒れている幼女はその力を受け流すすべはなく。


「ボキョッ」


 と、文字に起こせばこんな感じの悲鳴を上げて失神した。


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