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Blue Stones Fantasy  作者: natariko
序章
2/2

第一章

王の間へ向かう長い回廊は、うららかな午後の日差しの中でもその荘厳さを失わない。

ラックスは緊張を隠しきれず、足早にその回廊を進む。

あいつも、こんな気持ちだったんだろうか。いや、あいつはこんな時に緊張なんてしないか。

そんなことを思いながら、王の間の扉を叩いた。

従者が重い扉を開くのを、ラックスは頭を下げたまま待った。

「ラックスか。入れ」

深くて重い王の声が耳に届く。

「はい」

ラックスが進むと、従者はまたその重い扉をゆっくりと締めた。

「どうだ、足の調子は」

「おかげさまで回復いたしました。もう全く問題ありません」

「そうか。さすがは戦士団第四分隊 副隊長だな」

王はゆっくりと玉座から立ち上がった。

「おぬしに頼みたいことがある」

「は!」

「フィラルディア国の王に、この書簡を届けてほしいのだ」

「フィラルディア国に?」

「あぁ」

王はラックスの前に筒を差し出した。

「出立はそうだな…なるべく早めに、3日後でどうだ」

「し、しかし隊の方は」

「問題ない。第四分隊副隊長の座は、ジャンが受け持ってくれることになった」

「な」

ジャンはラックスよりも二つ年下だが、腕の立つ男だ。自己中心的で隊の規律によく背いており、ラックスは幾度も注意をしたが耳も傾けず、むしろラックスを敵対視していた。

あの男が、なぜ。

ラックスは何を言えばいいのかわからず、黙って筒を受け取った。

「そして隊の方は近く遠征をする予定でな。ラックスには一人で行ってもらうことになる。

まぁおぬしの腕前なら何も問題なかろう」

王はにやりと笑った。

問題ないわけがない。ここ最近、街の外には以前より多く魔物がうろつくようになっていた。

いかに戦士とはいえ、隣国までの長い道のりを一人で行かせるとは…。

そこでラックスは顔を上げた。王はラックスをじっと見つめ、またにやりと笑う。

そうか。王は私を見限ったのか。

書簡の中身を確かめるわけにはいかないが、おそらく取るに足らないような内容に違いない。

理由はわからないが、王とジャンは自分を体よく追いやろうとしているのだ。

「話は以上だ。下がってよいぞ」

ラックスは一礼し、王から遠ざかった。部屋から出ようとしたそのとき、王がまた口を開いた。

「そうだ、アンナにもよろしく伝えておいてくれ。おぬしもそろそろ会いたい頃だったろう」

「いえ、そんな・・・」

「言わずともわかる。戦士とは辛い立場だが、共にこの国を支えていってくれよ」

ラックスは何も言うことができず、そのまま王の間を出た。

重い扉が閉まる音が聞こえても、ラックスはその場でしばらく立ちすくんでいた。


「ラックス、顔色悪いな。どうした?」

中庭をぼんやりと歩いていたラックスに、スラリとした爽やかな青年が話しかけた。

「フロイデ…実は」

ラックスはその青年に王から言われたことを伝えた。

「ジャンが? 王も何を考えているんだか。俺には何の相談もなかったぞ」

フロイデは第四分隊の隊長だ。腕力等は他の戦士と同等か、やや劣るかもしれない。しかし素早い身のこなしで実戦をくぐり抜けてきた。そして何より人望があり、統率力にも長けている。ラックスからすれば、王直属の第一分隊にいてもおかしくない人物だった。

「フロイデにも相談なく王は決めたのか? そんなことって…。俺は一体、何をしたんだ。

いや、そもそもジャンと王は一体…?」

「……これはただの噂話で、俺も信じていなかったのだが」

フロイデは周囲をちらりと確認し、声のトーンを落とした。

「ジャンは王の不義の子じゃないかって話がある」

「何だって?」

「噂だ。俺だって完全に信じているわけではない。しかし、数年前の入隊試験のとき、ジャンが何て言ってたか覚えているか?」

「入隊試験…」

ラックスはフロイデから視線をそらし、記憶をたどった。


ジャンは入隊試験のときから目立つ男だった。戦士として必要な技術は既に備えており、第三部隊が適当ではないか、と分隊長団は判断した。

分隊長団とは、各分隊の副隊長と隊長から成る組織である。戦での作戦会議が主な職務だ。分隊は第一分隊から第六分隊まであり、第一分隊は王直属となり主な任務も王の護衛である。最も優秀で誇り高き部隊だ。

第二分隊は戦を行う戦士団の実質トップ集団であり、戦のエキスパート集団。以降、第三、第四分隊と続き、第六分隊まである。第六分隊の主な任務は救護活動等である。

入隊試験をクリアした者は、大抵の者が第六分隊か第五分隊に配属となる。稀に第四分隊所属となる者もいるが、数年に一人いるかいないかだ。大抵の者は実戦経験を重ね、実績と実力を兼ね備えて昇格し第四分隊や第三分隊へ行く。第二分隊と第一分隊へは更に試験があり、思想や出生に関する調査も行われる。

ラックスもフロイデも、最初は第六分隊からスタートした。しかしお互いに良きライバルとして高め合い、今の地位に至る。

そんな二人にとって、ジャンとの出会いは衝撃的だった。入隊試験で手合わせをしたラックスは敗北、フロイデはぎりぎりのところでジャンに勝利した。

ジャンの強さは型破りだった。それは戦士としてというよりも、生きていく為に必要な、野性的な力だった。

過去に入隊後すぐに第三部隊に配属となった例はなかった。第一分隊の隊長と副隊長はそのことを問題視し、第四分隊への所属がいいのではないか、と意見した。しかし、他の分隊長団員は全員第三部隊への配属が適当ということで意見が一致した。

入隊試験を終えて結果を待つジャンの元に配属を告げに言ったラックスとフロイデは、奇妙な光景を目にした。

王直属の第一分隊隊員たちが、ジャンを取り囲んでいたのだ。

「お前がジャンか。お前のことはよく知っているぞ。隊に入れてやることはできない」

「申し訳ないが、地元に戻って静かに暮らしてくれないか。これはささやかだが、王からの贈り物だ」

隊員の一人が、ジャンに金貨が数枚入った袋を握らせた。

ジャンはその袋を見つめながら「ハッ」と笑い、次の瞬間袋の中身をその場にぶちまけ、隊員の一人の首を掴み高く持ち上げた。

「なっ! 何をする!!」

フロイデとラックスが飛び出そうとした瞬間、ジャンはこう叫んだ。

「お前らの大事な王様にこう伝えろ! 俺はお前を正しい道に進ませるためにここへ来たんだよ、ってな!」

フロイデとラックスは飛び出すのをやめ、様子を見た。ジャンは掴んだ隊員を放り投げ、その場にどかっと座った。

「悪いが第六分隊でいいから入れてもらわなきゃ困るんだ。お袋が地元で俺の活躍祈ってるんだよ」

フロイデとラックスは引き返し、このことを報告すべく分隊長団の元へ急ぎ戻った。すると、静まり返った分隊長団の全員が黙ってこちらを見た。第一分隊の隊長だけが立ち上がり、静かにこう言った。

「ジャンは第五分隊へ配属が決まった。それを告げに言ってくれないか」

フロイデは何か言おうとして口を閉ざした。第一分隊隊長の首元にナイフをあてたような跡が見えた。


「正しい道、ってジャンは言っていたな」

ラックスはフロイデを見ながらつぶやいた。

「そうだ。未だに意味はわからないが、王はジャンに脅されているのではないか? お前のことを追い払おうとしているというよりも、ジャンがより王に近い立場になるように」

「確かに…だが、王に近づくのであればせめて第三か第二分隊に配属されてからでもいい気がするのだが」

「うん。何かわからないが、今でなければならない理由があるのかもしれない」

「例えばどんな」

「それは…わからないが」

ラックスはため息をついた。

「それじゃやっぱり、俺を追い払いたかったんじゃないのか?」

フロイデは笑って答える。

「ラックス、お前はちょっと自虐的なところが良くないぞ。とにかく、俺はジャンの動きに注意しておく。お前はとりあえず指示通り、踊らされてみてくれよ」

「踊らされるって…」

「アンナだってお前を待ってるって」

フロイデはラックスを小突いた。

「お前まで…やめてくれよ。アンナは俺のことなんて、もう忘れてるかもしれないし…」

「だから、そういうところがだな」

「わかったって! さっさと行って、さっさと帰ってくるよ」

三日後、ラックスは荷物をまとめて出発した。

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