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――「乱暴なお客さん」後編

今回は短いです。

――「乱暴なお客さん」後編



「つまり、お前達は自分達が助かりたいばかりに、憐れな娘を生贄にしようと決めたわけだ。誰一人として、この娘を助けようとしなかったわけだな。力のないか弱き村人か。そういう役割でいたいのなら、そうしているがいい。だが、この娘の負った傷は、お前達が与えた傷でもある。」

 老騎士は、兜の中でぐぐもり、不気味に反響する声でそう言い放った。農民たちはそれに対して、俯くばかりで、子ども達も泣くだけであった。

「お前も彼女を傷つけたんだぞ。か弱き村人よ。」

と、泣いてばかりの少年の方へ視線をあわせて投げ掛ける。少年は、後ずさりし、しりもちをつき、狼狽して目線を泳がせ、ふるえながら拳に力を込めた。

「おじさま、この村人ばかりを責めることは容易いことですが……」

 そう言いながら少女騎士は老騎士を右手で制する。そうして、腕を組んだ老騎士と、俯いてばかりいる農民の方へ交互にバケツ状のヘルメット頭を動かしながら、

「村を、人々を守るのは領主の務め。そのために、騎士は鎧と剣を磨き、訓練している。ですが、今回、その騎士は与えられた役目を果さなかった。ça veut dire,だから、この娘を守ることができなかったのは、領主の責任です。」

「お前なら信仰心が足りなかったから、とか言うと思ったぞ。」

「領主の信仰心は足りなかったようです。だからこのような惨劇に。ですが、あなた、お嬢さん。」

 少女騎士は、農婦達に抱きかかえられている憐れな村娘に歩み寄って、頭に手を置いて、耳元で長いことささやいていた。

 しばらくすると彼女は村娘から一歩下がると、むかって十字を切り、腰のバッグから銀でできた十字架を取り出し、村娘の手に握らせた。

「神はいつもお傍に。」

「ふん。『神がこれを望んだ』わけか。」

 老騎士がいつもの悪態をついたそのとき、広場の馬がいななき、建物の残骸へと隠れるように走り出した。同時に、はるか上空からやけに耳障りなタカの鳴き声がした。その音が空気を振るわせると、彼は呼びかけるように叫ぶ。

「おい! 剣を取れ。他のやつは建物の中へ入るんだ!」

と少女騎士と村人へ乱暴に言い放つ。騎士たちは剣を引き抜く。木こりのイサクは空を見上げて動かない。見上げた顔は、花の上で舞う蝶を追いかけるような動きで、段々低い位置を追いかけてゆく。視線は、村の広場を向いてとまる。

「あ、ありゃ、あれは、あの鳥、屍食鳥ししょくちょう! ああ、神よ! た、助けてくれ!」

「いいから小屋に入るんだ。オークどもと仲良くな!」

 かかしのように動かないイサクを、老騎士が蹴って小屋へ放り込む。ふたりは広場へ早足で近づく。

 広場では、巨大なコンドルのような鳥が獲物を探していた。馬5頭をあわせたよりも大きい。森から鳥のさえずりは聞こえない。胸は茶色く、白色の羽や背中は所々赤褐色に汚れている。羽毛のない頭部はイボが浮き出て、充血し血管が浮き出ている。赤い目がするどくぎらつく。黒いくちばしには、肉の破片が絡みついており、鼻をつく腐臭がここまで漂ってきそうだ。着地の衝撃によってか鳥の足元の土がえぐれ、土煙が舞っていた。

「Sacré bleu!(サクレブルュー!)育ちすぎの鳥ですね!」

「死肉の匂いにつられてきたか。おい、目が合ったぞ。」

 老騎士が言い終わる直前に、巨大鳥が羽を大きく広げて、威嚇する。振動する空気で石ころが震えるほどの鳴き声をだす。大きく広げた羽は、当たった建物の屋根を吹き飛ばす。


挿絵(By みてみん)


 二人は別々の方向へ駆け出した。老騎士は剣を両手で肩に担ぐように構えて、正面から巨大鳥へ立ち向かう。少女騎士は胸の高さで構えながら、巨大鳥へ大きく左に迂回して接近を図る。

 鳥は、老騎士に狙いを定めたようだ。一瞬後ずさったかと思うと、次の瞬間には、雷のようなすばやさで老騎士に飛び掛った。彼は左へ転がり込んで、獰猛な爪から逃れた。しかし、相手の懐からは離れない。彼の居場所は鳥が羽を広げた内側まで接近している。

 彼は立ち上がりつつも、片手で巨大鳥の足へ斬りかかる。斬りかかるが、鳥は既に頭をこちらに向けていた。回るコマのように鳥は剣を避け、空を切る。左から右へ空を斬った剣によって、老騎士の体は重心が右へずれる。鳥は抜け目なく、その隙をついた。小屋の屋根を越えるほど首を天へ向け、瞬く間もなくくちばしで老騎士を突く。

 賢い巨大鳥は、もうひとりの小さい騎士を忘れてはいなかったが、自身に巨大な力があるゆえに油断していたのかもしれない。くちばしを振り下ろす間際に、鳥は右の羽に激痛を覚えることになった。驚きのあまり、突き出そうとしていたくちばしは天を刺す。同時に牛の背を越すほど、跳ね上がる。兜が震えるほどの金切り声を発する。羽の半分が、斬首された首のように落ちる。少女騎士が、巨大鳥の右後方から自慢の羽を斬り裂いたのだった。

 飛び上がった動きに合わせて、巨大鳥の羽から血しぶきが舞い、わらぶき屋根に滲みをつける。当然、その隙を逃すわけはなく、老騎士は驚嘆する鳥の胸へ横薙ぎに剣を振るう。巨木を切倒さんとするほどの力を込め、両手で斬りつけたのだ。

 その激痛と衝撃に、またも金切り声をあげた巨大鳥は、左右非対称となった羽を懸命に動かし、上空に上がった。そうして、負け犬の遠吠えのように鳴き声をあげると、赤い血を落としながら森の奥へ飛び去っていった。

「屍食鳥ルフか。まったく、毎日がどきどきワクワクだな。」

「神よ、力を与えてくださり感謝します。おじさま、ドラゴンに変身すればよかったのに。」

「そうしたらドラゴンハンターが喜ぶだろうな。」

「Ah ha !見ものですね。それにしても、おとぎ話以上でした。あれは悪魔が生み出した怪物に間違いないですね!」

「楽しんでくれていて、なにより。」

 戦いの音が止み、化け物が逃げ去った気配を感じ取ったのか、村人達はおそるそる小屋から顔を出す。

「鳥は追い払った。しばらくは近づいてこないだろう。」

「神よ!」――村人たちは跪いて十字の首飾りを握り締め「魔女の呪いだ! 今日という日は呪われている。」とイサクが愚痴ると、口々に罵り言葉をささやいていた。唾を大地へ吐き捨てると立ち上がり、

「騎士さま方は恩人だ。しかし差し出せるものは何も……」

「私たちには必要ありません。それよりも、亡骸を埋葬しなくては。」

 老騎士はクロークで剣を拭って収めると、腕を組みながら、

「今度はアンデットに化けるぞ。」

「ああ、確かに。だが司祭さまがいなければ……。修道院も近くにないですから、祈りを奉げられない……。」

 イサクが肩を落としながら俯くと、剣を納めた少女騎士が歩み出て、

「Voilà. Donc,それは私が何とかできるかもしれない。これでも私は――「このおチビさんは、聖地では修道騎士をやっていた。信じられないかもしれないがな。」老騎士がかぶせるように続けるのに、彼女は肩をすくめてゆっくりと肯く。

「まあこんな成人したのかわからないような小娘のなりですから、よく父親の武具を盗んできたおてんば娘などといわれます。」

と、自身の頭を兜ごしにぽんぽん叩きながら、サーコートの赤い十字を摘んでみせると、鞄から液体の入った瓶を取り出した。白に赤い十字のサーコートと、瓶を見たイサクは十字を切ると手を合わせた。

「聖水に、白地に赤い十字の上着。神殿騎士の方でしたか。聖地からこんな辺境まで?」

「神のお導きによって。」

「神のお導きかはわからないが、幸運にもここに正しい弔いができる奴がいる。」

 老騎士は、組んだ腕を解いて、村の井戸まで歩み、天を見上げた。太陽は森の向こうの丘から煌々と輝き、老騎士の兜を輝かす。空は、トパーズのように水色に染まり、河を渡る小船のように白い雲々がかかっている。

いまさらながら、フランス語の解説はありません。ですが、感嘆詞ばかりなので、雰囲気で。おーまいごっど!的な感じです。

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