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過去③

「どういうこと?」

「いや、聞かれても」

「そうだね」


 とりとめもないやりとりをくり返す僕たち。着ているものはさっきと同じだったけど、立っている脇には巨大な壁が広がっている。

 なにか建物でもあるんだろうか。

 そして、その建物はなにをするところなのだろうか。


 その答えはすぐにわかった。


『では、第七十五回"レギオン・チャンピオンシップ"の一次予選をはじめる。各地区からエントリーしてくれた挑戦者の諸君、全員自分の席についたか? ついてないと失格になるぞ?』


 野太い男の声のアナウンスが流れる。


「レギオン・チャンピオンシップ?」


 なんだそりゃと顔を見合わせる僕たち。


[レギオン]

 軍団兵

[チャンピオンシップ]

 選手権


 すなわち"レギオン(軍団制の)チャンピオンシップ(選手権)"。

 どんな試合なのかわからないが、なにやらイベントが行われるみたいで、人々の歓声が聞こえてくる。





 しかし、そんなことを悠長に考えてる余裕はなかった。後ろからそこ危なぁい、どいてぇ!!という叫び声が聞こえ、瞬時に両脇に飛びのいた。

 油が十分にさされてない車輪が軋む音が聞こえるのと同時に舞った砂埃を防ぐために、おもわず目を閉じてしまった。頭上からはパサパサパサっていう音が聞こえてきて、砂が降りかかってくるのがわかる。

 しばらくして目を開けると、そこには巨大な荷馬車とそれを曳いてる馬が二頭がいた。


「ヤァ、無事だったかい、君たち!?」


 馬を操っていたのは銀髪の若い男だった。荷馬車の御者台から降りてきて、大丈夫そうだねと笑う。

 本当は文句を言ってやりたいところだったが、へにゃりと笑う姿に思わず毒気を抜かれてしまった。





「で、君たちは見慣れない服装だけど、どうしてあんなところ、人気(ひとけ)のないアリーナの裏側になんていたんだい?」


 建物の中にある食堂で銀髪の男性、ルーカスさんはお詫びと言って飲みものを差しだしながら尋ねてきた。

 さて、どうやって答えるべきか。

 異世界から飛ばされてきましたと言っても素直に信じてもらえないだろう。それにこの人を信用してもいいのかという問題もある。

 でも、今はだれも僕たちが頼れる人はいない。明日香とアイコンタクトをとり、ざっくりと話すことにした。

 すべて話し終わった後、ルーカスさんは細い目をさらに細めて、なるほどねぇと考えこむ。


「とりあえず、ボクの手伝いをしてもらえばいいかな? 服は……うーん、まぁ大丈夫かぁ」


 僕たちの服を見ながら呟くルーカス。

 今着ているのはいわゆる私服、普段着だったが、この世界では見慣れないもの。結局アレコレ悩んだ末にどうにかなるだろということでそのままでいることになった。

 しばらく僕たちがどういう場所から来て、どういう経緯でここに飛ばされたのかという話をした。ルーカスは地球という星に興味を持ってくれ、キラキラとした目つきでいろいろ質問攻めにあった。

 それがひと段落ついた後、"さん付け"ではなく、呼び捨てにするように言ってきた。どうやらそのほうが雰囲気が出るのだとかルーカス。

 明日香がどんな職業をしてるのかと聞くと、首を傾げてたいた。


「ボクはなんでも屋っていう感じかな? 食料から雑貨、はては武器までなんでも扱っているんだよ?」


 なんなんだ、この人は。なんで自分の職業を答えるときに疑問形なんだよ。

 そう思った瞬間、それじゃダメなの?とニッコリ笑いながら尋ねられたが、そのときに出していたオーラはそれまでのものとはまったく違う、氷のようなものだった。

 おっと。考えてることがモロバレのようだった。明日香にも一瞬の隙に側頭部を叩かれれるが、ふに落ちない。

 うん。なんで勝手に思ったことが悪いんだよ。


「悪くないよ。勝手に君の心を読んだボクが悪い」


 どうやらこの人(ルーカスさん)は心を読めるらしい。ごめんごめんと笑って彼はこっちにおいでと手招きする。


「とりあえずここはフアレット国立競技場。"リアバルテン"や"スノック"と呼ばれる競技が行われるんだ」


 そう説明しながら、僕らに木箱を持たせて通路を歩いていくルーカスさん。本当はリアバルテンやらスノックと呼ばれる競技の説明をしてもらいたかったけど、なにせ人目が多い。

 僕らの立場は『浮遊者』と呼ばれる立場らしく、ここの人たちにどんなふうに扱われるかわからない。できる限りその事実を知る人は少ないほうがいい。だから、知っているふりをするように言われたのだ。

 うんうんと適当に相槌をうちながら慣れた道のように脇目も振らず進んでいく。一応、僕らの身分は『遠い島国の出身で、ルーカスの商会に頼みこんで入らせてもらうことになった見習い』ということになり、行く先々で会う人とは彼にならって頭を下げておけば怪しまれないと教えてくれた。


 しかし、ことはうまく運ばなかった。

 六件目の配達では慣れてきたのか、ようやく"この世界の人です"感が出てきた僕たちは喋りながら歩いていた。すると、なにかとぶつかってしまった。


「いってぇなぁ」


 足元から甲高い声が響く。

 ちょっと箱をずらして下を見てみると、十歳くらいの少年がこちらを睨んでいた。


「お前、何者(なにもん)なんだよ。偉っそうにしやがっーー」


 少年が叫ぶと、近くにいた母親らしき女性が慌てて謝りながら彼を引きはがす。怪我はしてないし、こちらこそ見てなくて申し訳ありませんでしたと頭を下げる。

 しかし、腹の虫のいどころが悪い少年は再び突っかかってきた。


「おめぇら《レギオン・チャンピオンシップ》に出ろよ! そして、俺と勝負しろ!」


 こら、ミカエル!

 母親の悲痛な叫びにべぇっと舌をだすミカエル少年。


「いや、そんなこと言われたって僕は――」

「出てみなよ」


 この世界のものなんてわからない。

 だから断ろうとしたが、それまで黙っていたルーカスがそう横槍を入れてきやがった。今の彼の雰囲気はさっきと似ていて、僕は身じろぎできなかった。

 明日香は彼女で、そのルーカスの言葉になにか言いたげだったけど、彼に押し黙らさせられていた。


「いや、僕、知りませんよ? その、なんでしたっけ、ええと」

「《レギオン・チャンピオンシップ》」


 どもった僕にすかさず助けてくれた明日香。

 相変わらず彼女らしく、頼もしい。

 しかし、不安げな僕にルーカスは悪魔のように笑いながらそう宣言する。


「大丈夫。君たち(・・・)なら勝てる」

久しぶりの更新です

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