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過去②

 アリーナにきれいに並べられた机と椅子。

 いつ見ても変わらない壮大なステージ。

 僕は全国ランクにおけるシード有資格者かつ、昨年の優勝者らしく、中央を堂々と歩いていく。

 中央に指定された席につくと、観客席から歓声が上がった。

 声のした方を向くと、地元のゲーム仲間や過去の試合で知り合った仲間が団体で応援に来てくれていたようで、その中には明日香の姿もあった。

 葛城くん、頑張って!とか、志貴、負けるんじゃないぞぉとか聞こえてくる。


 ああ、頑張るさ。


 いつも通り少しだけこそばゆかったけど、僕は軽く手を振って、対戦相手に向きあった。

 目の前にいるのは年下の少年で、去年までの地方決勝試合でも見たことがなかった。とはいえ、相手は僕のことを知っているのか、ジロジロと値踏みするような視線を送ってきた。


 気分は良くない。


 だけど、それは仕方ないことだと割りきれた。

 いつものことだからね。

 僕は向けられる視線を無視して、審判に使用デッキの申請をした。

 いつも使うデッキと違ったからか、少し驚かれたけど、すぐに承認はおりたので、ルールに則ってカードを机の上に並べる。


 すると、彼はそれに食いついたようで、じっと僕の手元を見ているのがわかった。

 試合前だからか、自分の申請したデッキのほうと僕のデッキを交互に見て、どうやって戦おうかと、考えているのだろう。

 もちろんすべてのカードを審判以外には見せてているわけではないし、相手のも見せられてない。だから、ここから先は運も実力のうちに入る。


 僕のカードを見て、余裕そうな表情をしている彼には申し訳ないが、多分、この試合は僕の勝つ。実戦では使ったことないが、少なくともあの後輩くんとの模擬戦では勝てた。

 後輩くんは比較的ギミックを使うことが少ない。だからこそ勝てたという部分もあるだろうけど、机の上に並べられたカードを見る限り、この新人くんも同じタイプだろう。


 僕が並べ終わると同時に、試合が始まった。







「チッ。なんで、こんなデッキなんかに負けるんだよ」


 案の定、結果は僕の圧勝だった。

 彼は僕のデッキ、自分の手元に残ってるカードを見ながらそう吐き捨てた。

 まあ、そうなるよね。

 とはいえ、出された言葉は悪意を含むもの。試合相手への侮辱行為に該当すると判断したのか、審判は警告を与えようとしたが、僕はそれを止めた。


「君、エイジ君だっけ、なんか勘違いしてないかな?」


 カードを丁寧に並べ直した。

 審判は周りの様子をみながらも、行動を止めなかった。


「赤と黄色、黒と青はそれぞれデッキで組むとき、相性はすっごく良いけれど、賭けになるのを知ってるかい?」


 僕の説明に目を瞬かせながら、聞き入る少年。

 そりゃあそうだろう。

 それが一番、オーソドックスな戦い方、もっとも初心者向けな戦い方だから。


「もちろん赤と黒で攻めて、黄色と青で守る。一番正攻法な戦い方。でも、それだけでは当然、穴をついてくる奴だっている。とくに僕みたいなデバフ攻撃を得意とする人間からはね」


 そう言って何枚かカードを出す。


「だからここにや攻守ちょうどいい白を入れていくと、バフとデバフのバリエーションが多くなって、安定したデッキになってくる」


 説明を入れながら、デッキにカードを置いていく。彼は食いいるように見ていたが、その配置に嘘だろと呟くエイジ少年。苦笑いしながら、僕は本当だよと答えた。

 ほとんど特殊カードやコラボカードはないんだよね。

 うちは一般の家庭だし、まだ僕だって未成年だ。遠征費がかかるのから、必要以上のカードを集めることはできなく、今あるカードで最高の戦いをするためにずっと研究してたんだぞ。


「僕の場合はヘラクレスとアマデウスでそれぞれ体力リチャージとコストキープしながら、楠木正成と松平容保でターン維持しながら攻撃力の底上げ。ヘンリー八世と道鏡、そして日蓮で君のカードへの耐性や毒性付与効果の上昇。たったそれだけ」


 それを聞いたエイジ少年は今度こそあ然としていた。

 でも、それ以上、彼はなにも言わなかった。彼にも思うところがあったんだろう。僕はそう思うことにする。




 そのあとの試合でも僕は勝った。

 いつの試合だって対戦相手に恨まれることもあるけれど、ほとんどの場合はそれが僕だからという理由か、僕が使うカードが低ランクだからだ。

 でも、恨まれた場合でも、きちんと説明すればほとんどの人は分かってくれるし、分からなかった場合は……ーーまあ、その時は伝家の宝刀を使う(しんぱんのかいにゅう)しかないんだけどね。





 そして、昼過ぎの決勝戦。

 予想通りというべきか、僕の目の前には彼がいた。


「よろしくね、真人(まひと)くん」


 この戦いの相手は僕の後輩くんであり最大のライバル、押坂真人くん。先に試合が終わっていたのか、すでにカードが並べられている。

 審判に使用デッキを確認してもらい、机に並べた。

 真人くんは最初のエイジくんのようにジロジロと僕の手元を気にしない。

 さすが僕の後継者と言われてるだけあるね。

 変なところで感心してると、試合が始まるアナウンスがあった。


 さあ、どうくるかな?


 真人くんは知らないだろうけど、僕にとっては勝っても負けても最後の戦い。

 柄にもなく緊張した手でデッキの中の一枚を取って、先制攻撃をした。






 試合後、VIP(とくべつ)室内。


「えーっ! 先輩、辞めちゃうんですか?」


 応援団による優勝おめでとう&準優勝お疲れ様会で、僕が引退宣言をすると、真人くんが驚いていた。どうやらまだまだ続けると思っていたようで、その言葉だけでも先輩冥利に尽きる。

 しばらく新しいデッキの話とか、これからの話をしていたんだけど、周りを見回したら暇を持て余して僕たちの話を聞くふりをしていただけの明日香と目があった。

 ちょっと外へ出れる?

 そう彼女が視線だけで僕に問いかけているのがわかる。小さく首を縦にふって、そっと輪から抜けだした。

 部屋をこっそり出て、さっきまで戦っていたアリーナの中央に二人たたずむ。


「優勝おめでとう」


 ありがとうね。やっぱり幼馴染の声援は強かったよ。

 そう返すと、ねぇ、本当に後悔してない?って尋ねられた。

 まさか彼女からそんな質問が来るって思わなかったから、ちょっとだけびっくりしたけど、ううんと首を横に振る。


「ちょうどいいタイミングだったんだよ。このゲーム以外でなにかしたい、ずっとそう思ってたからね」


 答えに満足したようで、安心した顔になった。


「おばさんたちにはまだ言ってないんじゃないの?」


 どうやら今まで資金援助してくれてた両親への報告については、なんとなく気づいているようだった。直接、その質問には答えなかったが、首を横に振る。明日香はそうなのとだけ言った。



 そのときだった。

 なにかが弾けるような音がした気がして、さっきまでいた部屋のほうを振り向いた。

 明日香も気付いたようで、僕の上着の裾を無意識に引っ張っていた。

 真人くんやほかの人たちは大丈夫だろうか。そう思って走って部屋に戻ると、そこは部屋ではなかった(・・・・・・・・)


「はあ」


 明日香か僕か。


 どちらかの言葉か区別つかなかったが、どちらの言葉であっても、問題ないだろう。





 だって。





「ここはどこなのよ」






 先ほど控え室だったところには見たこともない土地、しかも、見たこともない景色しかなかったんだから。

 呆然とした僕たちが後ろを振り返ると、そこもすでにあのアリーナではなかった。

 目の前に景色に続くものだった。

前回投稿時に気づきました。


ハイ。


すでにあらすじにシキとアスカの本名があると(現在はありません)。


ちなみに、主要キャラ(日本人)の名前は、


・葛城志貴:葛城皇子(天智天皇の諱、もしくはもっと古代の皇子)、志貴皇子(天智天皇の息子)

・廣野明日香: 大倭根子天之廣野日女尊(持統天皇)、明日香皇女(天智天皇の娘)

・押坂真人: 押坂彦人大兄皇子(天智天皇の祖父)、天渟中原瀛真人天皇(天武天皇)


からとっています。

ごめんよ、エイジくん。

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