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【第四部】全部間違っているのよ、と彼女は言った


「それはそうと」


 陽太の部屋に取り残された佐々木紗季に、心配事がひとつ。


「陽先輩、流石に結城先輩の居場所くらいは知ってるよね……?」


 四ツ谷陽太という男は、かねてより頼りにし辛い男であった。

 やや勢いで行動することが多く、無鉄砲。


 最初は自分も、バカな人だって印象しかなかった。

 学園祭で、ちょっとしたいざこざに巻き込まれたところ、出会ったのが彼だった。


 的はずれな行動と言動で場をかき乱して、むしろ状況は悪化。

 最悪。なんでただでさえ面倒なのにこんな人まで絡んでくるのか。


 めちゃくちゃに苛ついていた当時を振り返る。

 でも、結果としては――――


「――――っと、想い出に浸っている場合じゃないなぁ。んー、やっぱ絶対知らずに飛び出してる……と、思う」


 紗季はまるで自分の家のように、ベッドに寝転がって考える。

 ほんのり陽太の匂いがして、少し照れたがやめようとはしない。


 仮に陽太のあとを追いかけるには、家の鍵がないために開けっ放しで不用心極まりない。

 スペアの鍵の場所なんて流石に認知していないし、家探しする時間もない。


 そもそも、たまたま鍵が空いていたから飛び込んだだけなので、合鍵でも作成しておけばと後悔。怒られる気もするけど。


「わたしは留守番確定として、でも結城先輩に直接連絡を取るのはちょっと。器用に違和感なくかわしちゃいそうだし、仮に会ってくれてもわたしが介入してるって知られるのはマイナスだし、どうしたものか」


 この件に関してはあくまで、陽太自身が考え、発起し行動に移すことが大切なのだ。

 内容、結果がどうあれ、過程が優陽に届くはず。きっと。


 つまり紗季の介入があったことは、秘匿情報。

 介入を内密にしつつ、うまく手引する難易度の高いミッションに脳みそを回転させる。


 LIMEを開いて適当に眺めつつ、アイデアを絞り出していると。

 目についた。


「あっ、そうだ! 無理やり聞き出しておいてよかったー。始めてで不躾かもしれないけど……仕方ないよね」


 とある人物の名前が、フレンド欄の下の方にあることに気がついた。

 なかなかタイミングが無く連絡できていなかったが、今こそ!


 軽い挨拶と、メッセージを送り。


 既読は、すぐに付いた――――




 ――――部屋を飛び出した陽太は早速、途方に暮れていた。


 紗季に発破をかけられるがままに決意したのはいいが、肝心の優陽の居場所はどこだ?


 彼女も陽太と同様、ひとり暮らし。友人関係に詳しくないが、弥々以外と出かけることは少ない……と聞いた覚えがある。

 大学の位置を考えるとそう遠くに部屋を借りているとは考えにくい。ここにきて自分の恋人の居住場所を知らない事実に絶望した。


「どうしたものか」


 同時刻、部屋に残した後輩も似たような言葉を口にして悩んでいることなどつゆ知らず。

 とりあえず、で最寄りの駅に向かう。


 やがてたどり着いたはいいものの、当然のように歩みは止まった。

 あわよくば、奇跡的に出会う……


「ないわな」


 己の計画性のなさに途方に暮れるバカが一匹。

 ゴールデンウィークの駅前は一層の喧騒に包まれ、行き来する人たちの波の中に優陽がいないか目で追う。


 探し人の行き先を、ない頭を撚るもアテがない。大学に用事がある? いまいち。

 自宅にいるか弥々と出かけているか……


 二択、であればまだコンタクトが取れるかもしれない。

 知らない友人と出かけられていたらお手上げだ。


 困り果てて立ち尽くしている姿に、背後から一言。


「相変わらず、変な顔をしているわね」


 冷ややかな声。

 一瞬、自分に投げかけられた言葉だとは思わずに無視していたら、


「貴方に言っているのよ、陽太。頭も顔も変なのに、ついに五感にまで異常をきたし始めたのかしら?」


「いや言い過ぎな!?」


 振り向いた先にいたのは、自分の恋人の恋人。

 クールで射抜くような眼差しに、黒い長髪と白のワンピースのコントラストが人並みの中で映える。


 八神弥々はじっと佇むだけで、絵になっていた。


「しまったわ。陰気臭い背中に見覚えがあったせいで、つい話しかけてしまったのね」


「僕を罵倒することで快感を得る趣味でもあるのか?」


「否定はしないけれど、罵倒しやすいんだもの。諦めて」


「罵倒しやすい!?」


「そんなことはどうでもいいの。貴方、優陽になにかしたでしょう?」


 弥々が切り込んだ話題に、ぐっと息が詰まる。

 どんな時でも笑顔で、にこにこと笑って許容してくれる彼女の優しさ、慈悲の心に甘えて逃げた陽太を逃さないと言わんばかりの鋭い眼光。


 察するに、弥々に伝わるくらいには優陽の様子が変化していたのだろう。

 と、いうことはだ。


「八神さん。結城さんが今どうしてるか知ってるよね?」


「知っていたらどうなると言うのかしら?」


「……僕がいくらLIMEしても既読もつかなくて、でもそれは僕が悪くて。会ってちゃんと、話がしたいんだ。だから、知ってるなら教えてほしい」


 頭を下げて頼み込む。

 訝しげに陽太を見やり数秒間の沈黙の後、弥々は言う。


「貴方は、なにが悪かったのかしら?」


 その問いかけに、陽太はすぐに答えることが出来なかった。


 自分の栄養管理を気にかけて、料理を作りに来てくれたあの夜。

 楽しい時間が過ごせた……とは思っている。ただ、最後。


 最後の最後で、余計な感情が溢れ出した。

 それは明確な、不満。


 ただ、今は違う。不満に思うほどのことではなかったのではないかと。

 冷静になった頭で考えると、ムキになって責めるほどのことを、優陽はしたのかと。


 答えはノーだ。

 だからこそ、謝りたい。些細なことで、感情をむき出してしまったことを。


「……ま、いいわ。優陽の住所、教えてあげる」


「あ、ありがとう! 助かるよ、八神さん」


「けど、ひとつだけ忠告しておくわね」


 1枚のメモを手渡しながら、八神弥々。

 受け取りながら、忠告とは? と先を促す。


「貴方は、あの子の恋人に向いていない」


「え……」


「あの子の考え、感情、想い。ことごとく裏目に出ているわ。陽太が良かれと思った行動、言動、貴方自身の願望――」


 くるり、と踵を返して。

 言葉を捨て置くかのように。


「全部、間違っているのよ」


 そうして弥々は、人混みに紛れていった。

 消えゆく黒髪を見送って、再び立ち尽くす陽太。


 脳内で、弥々の言葉が反響する。

 巨大に膨れ上がる。言葉の暴力が支配する。


 間違っている。


 デートのプランが?

 接し方が?


 四ツ谷陽太は女性経験が非常に希薄である。

 接する機会が少ない。ただの会話ですら、不慣れで不器用。あえて言うならば、佐々木紗季だけが唯一、特になにも考えず気楽に会話ができる貴重な異性だ。


 今しがた言葉をかわした弥々も、恋人の優陽相手でも。

 出来るだけ自然に気取らず、ただし気遣わなさすぎず接していた……つもりだった。


 が。


「それが全部、間違っているのだとしたら……」


 もう自分には、正解がわからないと。

 鈍色の絶望が押し潰れんばかりに降りかかる。


「それでも、今は行くしかないんだ」


 弥々に貰ったメモを片手に、電車の路線を確認。

 駅3つほど離れた土地の、駅から数分の賃貸が優陽の住まいらしい。


 本人に内緒で住居を知ったことには後ろめたさがあるが、陽太も紗季からリークされていたのでお互い様で。

 それも含めて、まずは会ってきちんと話をすることが先決だと判断し、10分後に到着した電車に乗り込んだ。



「ここか」


 電車を降り、スマホの地図アプリを開いて住所を検索する。

 道のりは単純で、迷うことはなさそう。


 ナビに従い、早足で目的地へと向かう。

 徐々に見え始めたマンションに、はやる気持ちを抑えて近づくとそこはオートロックで高級そうな設備が整っていた。


「部屋番号を入力して呼び出してください……か。えー、結城さんの部屋が……」


 305号室。

 留守にしていなければ、優陽はこの部屋にいるらしい。


 7階建てのマンションの3階角部屋。意を決してチャイムを鳴らすこと、約10秒。


「はい」


 インターホン越しに、優陽の声が届いてくる。

 よかった。まずは留守でなかったことに安堵する。


 さて、次はどうにか直接顔を合わせることだが……


「あ、四ツ谷くんじゃん。どしたのー、こんなとこまでー。あ、とりあえずそっち行くねー」


「え、あ、うん。了解」


 あっさりクリア。


 もっとあしらわれると想定していただけに、拍子抜けしてしまう陽太であった。


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