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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第1章
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第8話 戦闘と発覚

 森を抜けると広い草原に出た。森の中を歩いていた時には気づかなかったが、近くに俺たちの進んでいた向きと同じ方向に大きな川が流れていたようで、草原に出たことによってはっきりと見えた。

 川の流れる先を目で追っていくと5㎞ほど先に町が見えた。ここから詳しい様子はよく見えないが、町の上に何か飛んでいる気がする。


 ガサガサ……


 その時、背後の森から音がした。サムの後ろを歩いていたイザベラが真っ先に警戒する。背の高い草の中から姿を現したのは、4足歩行の獣だった。

 全身は毛で覆われ、口には牙が生えそろっている。足は4つとも長い指を持つ器用そうな足をしていた。例えるなら人間と狼を足して2で割った感じだ。


「こいつは?」


 俺がレックスに訊ねる。


「あれはワーウルフだ。そこまで脅威になる魔物じゃない」


 ワーウルフ!? 狼男ってことか? なんかイメージと違う……もう少し理性的だと思ってたのに……


「サム、やってみろ」


 レックスがそう言うとサムが前に出る。


「大丈夫なのか?」


 俺がレックスに問う。


「元々今回ダンジョンに行っていたのはサムの戦闘技術を磨くためでもあるからな」

「そのためにわざわざ簡単なダンジョンに潜ることにしたのに、あなたみたいなとんでもないのが出てきて焦ったわ」


 レックスに続いてイザベラがそんな事を言ってきた。そんな人を化け物みたいに……って化け物だったわ。

 そんな会話をしていると、サムが腰に括り付けたがカバンから手のひらサイズの何かを取り出し、ワーウルフに向けた。これは……銃?

 この世界にも銃はもう出てきてるのか……と思ったその時、引き金を引かれたサムの持つ銃のようなものから眩い光とともに赤い光線が真っすぐ発射されワーウルフの眉間を貫いた。


「は?」


 え!? ナニアレ? 強っ!? いや俺の知ってる銃と違うんですけど!? ていうかこれ……


「レーザーじゃん!?」

「マティスさん? レーザー? って何ですか?」


 サムが訊ねてくる。レーザーはこの世界にはないのか。じゃあ今のは何なんだ?


「あぁ今のは俺の故郷の……いや違うな、あー…気にしないでくれ」

「?」


 なんとかごまかそうと考えたが、生まれたからずっとダンジョンの中にいたということは既に話しているのを思い出して曖昧な返事をしておく。


「い、今撃ったのは何なんだ?」

「今のは魔力銃ですよ。自分の魔力をこの魔力銃を通して加速させて発射するんです。どんな人が使っても一定の威力が出るので、僕のように近接戦も普通に魔法を使うことも不得手な人にとっては便利なんですが、そうではない人は普通に戦った方が良いですね」


 あの赤い光線みたいなのはサムの魔力なのか。というか俺、本気で戦ってもサムにすら勝てないんじゃないか……?


《そんなことあるわけないだろ。あの男の剣の一撃の方が何億倍も強いぞ》


 レックスのことか? 確かになんか光ってはいたが……流石に何億倍は無いだろ。

 その時、レックスがこちらを見ていることに気付いた。


「レックス? 何だ?」

「レーザーって……?」


 まだ引きずってたのかその話、うまく話を逸らしたと思ってたのに。


「何でもないって、ただの言い間違いだ」

「そうか……」


 そう返事したが、そのまま黙り込んでしまったレックス。俺の言葉になんでそんなこだわるんだ……


「そういえばレックスも初めて魔力銃を見た時似たようなこと言ってたわね」


 イザベラが昔を懐かしむようにそう言った。


 え?


 何か今の言葉気になるような……


「サム、素材の採取は終わった?」

「はい! 終わりました! お腹も減ってますし、先を急ぎましょう!」

「そうだな。出発だ」


 イザベラがサムに声を掛け、レックスの合図で再び町へ向けて進みだした。




 草原を歩き続けて1時間程。ようやく町がハッキリと見えるようになってきた。

 さっきはわからなかったが、並んでいる建物の多くは枠や梁は木造で、壁には石や煉瓦が使われているようだ。やっぱり地球で言う中世時代の文明なんだろうか。と思った矢先、さっきから気になっていた飛行物体が見えた。

 それは、流線型で金属製の機体に2対の翼が備え付けられたもので、車体後方部からは赤々とした炎の様なものが噴き出ており、それを推進力として飛んでいるようだった。

 いうなれば宇宙船と戦闘機の中間の様な見た目をしたそれは、明らかに建物から見立てた文明レベルからかけ離れていた。


「何だあれ!?」

「あれは魔翔機です。魔王軍の空飛ぶ魔物との戦闘の中で開発された乗り物ですよ」


 思わず声を上げた俺の疑問にサムが答えた。戦争中に開発された物ということは戦闘機という例えは間違って無い様だ。


「あれはどうやって飛んでるんだ?」

「う~ん? 詳しい話はあまり聞かないのでよく分からないです」

「動力機構の基本的な部分はさっきの魔力銃と同じだ。まぁ、人間1人の魔力で動かすのは無理だから魔鉱石を燃料として積んでるらしいぞ」


 サムが答えられなかった質問にレックスが答えた。


「やっぱりレックスってものしりだね!どこで聞いたの?」

「え? あぁ、まぁ魔王との戦争に俺も出てた時期があったからな」

「あれ? レックス達が冒険者を始めたのって魔王が倒された後じゃなかった?」

「えぇと……冒険者を始める前は正式に王国に帰属してたからな……」

「そうだったの!? 初耳!」


《おい! ちょっと待て! 魔王様が倒されたってどういう事だ!?》


 サムとレックスの会話に対していきなりもう一人の俺がツッコんできた。だが、確かに俺を創ったという存在の魔王がどうしているのか気になってはいた。というかそういえば最初にレックスに出会った時に俺のことを魔王軍の残党とか言ってたな……


「ちょっといいか? その……魔王は倒されたのか?」

「お前……魔王軍なのに魔王がどうなったのか知らなかったのかよ……魔王は5年前にお…勇者によって倒されたんだぞ」

「ということは、さっき言っていた戦争も?」

「そうだ。魔王が倒された時点で魔王軍の指揮系統は壊滅して戦争は終結した。その後勇者が残党をほぼすべて狩りつくしたらしいな。擬態して隠れるお前みたいなのは見つけ切れなかったようだが」

「そうだったのか……」

「大丈夫ですか? 人間の敵とはいえ生みの親みたいな存在だったのに……」

「大丈夫だサム。魔王も人間と敵対していたようだし仕方ないさ」

「強いんですね……」

「そんなんじゃないさ」


 だが、俺は内心驚愕していた。そんな、まさか……




 俺少なくとも5年はあの場所でじっとしてたってことか!?


《……いや気にするとこそこかよ!? お前元人間とは言え生みの親殺されて何とも思わないのか!?》


 いや、確かに魔王がどんな人だったのかは気になるけど……


「そういえばレックスって勇者様のことを様づけしないよね」


 ふと、サムが思い出したかのようにレックスに訊ねた。


「え? あ、あぁ……王国にいた時にちょっと知り合いだったんでな……」

「え? 本当!? 勇者様と出会える機会あるかな?」

「あ、あるかもしれないな。は、ははは……」


 なんかさっきからレックスに対して違和感を感じる……


《うわぁ~……マジかぁ~魔王様ぁ~……おいたわしやぁ~》


 うるさいぞ俺。っていうかやっぱなんかノリ軽いなお前。本当に悲しんでんのか?


《当たり前だ! 勇者とかいうやつにあったら絶対喰ってやる!》


 俺が許さないけどな。


《クソォ!》


 レックスに若干の違和感を持ちつつも、新発見と新事実、それともう一人の俺が頭の中でうるさかったせいでその時は深く考えることできず、そのまま忘れてしまった。

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