第7話 出立
「……でマティスは何で女の子の見た目をしてるの?」
イザベラが問うてくる。何気に初めて名前を呼び捨てで呼ばれた気がする。同じ女性の見た目をしているおかげだろうか。
「いや俺もよく分かんなくて……擬態魔法自体初めて使ったし……」
嘘は言ってない。もう一人の俺の話でなんとなくの見当はついてはいるが、それを話すと俺が元人間である話までさかのぼらなくては言いけなくなるので後回しだ。
「まあ、いいわ。下着はどうしてるの?」
「レックスのを……」
「私のを使いなさい」
「いやそれはちょっと」
「私のを使いなさい」
「あ、はい。じゃ、じゃあ町に着くまで……」
急に顔が怖くなったよイザベラさん!? 俺のことを危険な魔物だと思ってた時より怖いよ!? 思わず承諾しちゃったよ! 逆にイザベラさんはいいの? 俺元男だよ? いやそれは言ってないけど。
小声でサムに問う。
「レックスとイザベラってそういう関係なの?」
「本人たちは違うと言ってますが、今みたいな反応は結構見ますね。多分お互いに気付いてないのかと……」
あぁ~……そういうもどかしい感じのやつか……うん、そのままにして本人たちに気付かせるのがいいだろう。サムもそうしているようだし。
「私のはもう片付けちゃったからサムのテント借りるわ。いい?」
「はい!? い、いいですよ!」
「え、ちょっと……」
俺はイザベラさんに襟口の後ろをつかまれテントに連行された。
10分後。
イザベラさんが俺の胸を見てなぜか落ち込んだり、服や鎧まで変えてくるよう抗議してきたり色々あったが、流石にイザベラさんが着ていたような大胆な服は着たくなかったのでそこだけは全力で否定した。
テントで会話が駄々洩れだったせいか、テントから出た時サムはまた顔を真っ赤にしていた。レックスもちょっと苦笑いしてた。
「じゃ、じゃあ出発するか」
サムがテントを片付け終わると、レックスの声をきっかけにようやくダンジョン近くの野営地を出発した。
結局予定より15分近く遅れ、魔法を使ったことと出発前に色々あり過ぎたせいで昨日あんなに食べたのにもう空腹を感じ始めていた。
歩き始めて1時間たったが、景色は変わらず鬱蒼とした森が続く。
「町は遠いのか?」
会話が無いのも味気ないので俺がそう問う。
「いや、もう少し歩けば草原に出る。そこから町が見えるだろうさ」
前を歩くレックスがそう答えた。
「町ってのはどんな感じなんだ?」
「そこまで大きな町ではないですが、必要なものは割と何でもそろうと思いますよ?」
今度は後ろを歩いていたサムが答えた。
「そうかぁ~」
町を見ればこの世界の水準が分かるはずだ。正直今までの情報だと、前の世界のライトノベルの様な中世ヨーロッパに近いような感じだが、魔法という未知のものがある以上もっと発展していてもおかしくないのでどんな感じなのか想像がつかない。ダンジョン内ではロボットみたいなのも見かけたし。
魔法と言えば、俺も使えるらしいが擬態以外にどんなものが使えるんだ?
《急に振って来たな……お前が使えるのは宝箱に化けている時に使うような魔法だ。宝箱の餌として宝を創れる創造魔法と、箱の状態で周りの物を動かせる空間魔法、一応真っ向からの戦闘になった時の為に多少の攻撃魔法も使える》
一気に説明されたが、得意なのは創造魔法ってのと空間魔法ってやつか。宝を作れるってのはかなり凄くないか?
《あんまり質の良いものを創ろうとすると見た目だけの劣化品になってしまうみたいだが》
そうなのか……でもそれがあれば服の問題は解決するんじゃないか?
《確かにそれくらいなら創れるかもしれないな。だが創造魔法は効果が大きい分、魔力もかなり使う。使うのは町についてからの方がいいだろうな》
魔力を使うってのはあの腹の減る感覚か。もう既に空腹を感じ始めてるし、もう一人の俺の言う通り町で朝飯を食べてからにしたほうがいいだろう。それで、空間魔法の方は物が動かせるって言ってたがどんなもんなんだ?
《手を触れずに近くの物を動かせるようみたいだぞ。今の状態じゃ小石1つを人間の手が届く範囲で動かすので精いっぱいだろうが、鍛えれば少ない魔力消費でデカい岩も自由自在に動かせるようになって範囲も広がるみたいだぜ》
要するに念動力みたいなものか。ということは某銀河戦争の暗黒卿的な戦い方が出来るようになるのか! 割とロマンあるな……戦うことがあるのかわからんけど。
《空間魔法を攻撃に使うなんて思いつかなかったぜ。人間を喰いたくないと言ってる割に意外と攻撃的だなぁお前》
いや、俺も元男だからそういう異世界で無双できる的なロマンあふれるヤツにあこがれは無くは無いから……
「また急に黙り込んでどうした?」
魔法についてもう一人の俺と話し込んでいたらレックスに指摘された。もう一人の俺と話すのは知らない情報を知る上で必要な事だが、一瞬で脳内会話できるわけじゃないのが難点だな。
「あぁ、少しぼーっとしてただけだ」
「大丈夫ですか?」
「体調が悪いとかではないから安心してくれ」
サムの心配してくるのが申し訳なくなってくる。俺の前世ともう一人の俺についても近いうちに話すことになりそうだなぁ。そんなことを考えていると少しずつ木々の向こうから光が差してきた。
どうやら森の出口までやって来たようだ。