第5話 命名
「ふぁ~あ」
「箱があくびしてるのシュールだな……」
目を覚ますと燃え尽きた焚火が見え、そのそばにレックスが居た。ダンジョンを出た時には夕方だったが、寝ている間にいつの間にか夜が明けていたようだ。
イザベラとサムはテントで寝ていたようだが、レックスは俺のことが信用しきれないので見張り役としてずっと起きていたらしい。
「傷はどうだ?」
レックスが訊ねてくる。
「あぁ、今は大丈夫だ、痛みはない。」
昨日結構レックスにバッサリと切られたが、傷は塞がっているようだった。
「おぉ……意外とタフだな……」
「おはようレックス」
「おはよ~レックス……とミミックさん」
2つ張られたテントの1つからイザベラさんが、もう1つの方からサムが出てくる。
「おはようイザベラ、サム」
「あ、おはようございます」
レックスが返したのでをして俺も続けて挨拶をする。焦ってなんか敬語になった。
「なんでこんな人間臭いんだ……」
レックスが小声で何か言っていたがよく聞こえなかった。
「あの」
サムが俺に声を掛けてくる。
「何だ?」
「ミミックさんの名前って何ですか?」
そう問われたが、すぐに答えることは出来なかった。人間の時の名前も覚えていないし、今の体になって会話したのもサムやレックス達が初めてで、誰かに名付けられたわけでもない。
もう一人の俺は何か知ってるか?
《魔物に名前なんてあるわけないだろ》
アッハイ。
「魔物だから名前は無い」
もう一人の俺の知識をそのまま伝える。
「そうなんですか……じゃあ僕が付けていいですか?」
サムにそう提案された。
「無いと俺が呼ぶときに不便だろうし、頼む」
「テイムされたわけでもないのに魔物に名前を付けるなんて前代未聞よ……」
イザベラさんがそう呟いていた。まあ、俺は自分で言うのもなんだがかなり特殊な例なので名前くらいあってもいいだろう。
「ミミックさんって男の人? ですよね?」
サムが訊ねてくるがまたも分からない。あの、もう一人の俺……
《ミミックに性別は無い》
あっそうなんすね~……
というか、最初に頭に入ってた言語知識みたいなのはあるのに、魔物としての基本的な知識がほとんどもう一人の俺の方に入ってるんですが……
「ミミックに性別は無い……らしい」
「らしい?」
「あ、何でもない。性別は無い」
元人間ってのは話すと面倒なことになりそうだから、話すとしても落ち着ける場所で話すことにしよう。
「喋り方が男っぽいので男ってことで...マティスってどうですか?」
「マティス……いい名前だな。でもどうしてその名前なんだ?」
「クレマチスから取りました。花言葉が”策略”なんです。ミミックさんっぽいな~と思って……」
おぉ、ちゃんと意味までしっかり考えてくれていた! 凄く気に入った!
「……ありがとう」
最初の出会いの時の分も含めて心からの感謝を伝える。
「いえ、僕はそんな……」
サム……ここは謙遜するところじゃないだろ……ほんとにいい奴だ。
「それにしても花言葉って……やっぱ女々しいなお前……」
レックスが何か言っていたが、新しい名前が気に入っていたので無視した。
「そろそろ朝ごはんにしましょう?」
イザベラがそう提案する。
「そうですね、今から用意します……あ。」
サムが朝食を用意しようとしたとき、作業の手が止まる。
「昨日ミ、マティスさんがほとんど食べちゃって御飯が無いです……」
あ~……これは完全に俺のせいだわ。というか、サムに苦労を掛け過ぎて申し訳ない。
「すまんサム……俺のせいで……」
「マティスさんは悪くないですよ!生まれてから一度も食べてなかったんですから、あれだけ食べたのも仕方ないですって!」
「いや、俺が……」
「もういい、わかったわかった。お前らをこのままにしてたら延々とやってそうだ。とりあえず、今日は早めに町に戻って食事と補給をしよう。15分後に出発だ、用意しろよ!」
「あ……了解レックス!」
「わかったわ」
レックスがテキパキと予定を立て、サムとイザベラが準備を始めるためテントに戻った。
「お前はどうする。町までまた俺が担ぐか?」
レックスが俺に声を掛ける。昨日ダンジョンから出る時はレックスが運び出してくれたのだ。自力で移動しようとするとまた大量の空腹感に襲われるのでおとなしく提案に乗ろう。
「じゃあ……」
《いや、お前は擬態魔法が使えるんだから人間に擬態すればいいだろ。というか前から見ていたが宝箱状態のまま移動しようとするとか馬鹿か?》
え?いや、そんなことできんの? マジで基礎知識しっかりしてくれ……ってか魔法? 俺魔法使えるの!?
《初級ダンジョンに配置されたとはいえ、魔王様が直々に創っていただいた体だぞ? ミミックとして最低限の魔法は使える。まぁ、擬態魔法は珍しいみたいだが。》
魔法知識ももう一人の俺が持ってのかよ……俺の精神もう一人の俺に劣り過ぎじゃね……?
「おい、どうしたんだ?突然黙り込んで」
目の前で黙ったと思いきや突然落ち込み始めた俺にレックスが声を掛ける。まあ、俺の見た目は箱だから落ち込んでいるとかは分からないだろうが。
「あぁ、いや何でもない。移動の件は今の満腹の状態なら擬態魔法でなんとかできる」
「そんなものがあんのか。まぁ……昨日の件は俺が悪かったところも大きいし、なんかあったら言えよ?」
後頭部をを掻きながらレックスがそう言う。
俺のことを警戒しているからか名前は呼んでもらえないが、心配してくれるレックスもなんだかんだ良い奴なのかもしれない。