第57話 ゼドラVSヤマタノオロチ
陽は傾き始め、空が茜色に染まる中、黒く禍々しい龍と八つ首の大蛇が睨み合う。
――グワァオオォォォオオオ!!
――キシャアアアアアアアア!!
互いの咆哮が開戦の合図となった。
音のぶつかり合いは荒れる海面に静寂をもたらした刹那、津波の如き大波を引き起こす。
甲板に居るサムとイザベラは、大きく揺れる艦から振り落とされないようにしながらも、2体の怪物を見つめていた。
ゼドラが接近するために一歩を踏み出すと、大蛇の首が一つ高圧の水流を放ち、ゼドラの顔面に直撃した。
しかし、ゼドラは霧散した水飛沫の中から悠然と現れる。
その目は攻撃してきた首を鋭く睨みつけ、そのまま海面を掻き分ながら前進する。
歩みを止めないゼドラに対し、続いて3つの蛇首が同時に大口を開けた。
それに反応するように、ゼドラの鱗殻の隙間から漏れ出る7色の光が強まり、全身が輝き始めた。属性合成魔力波の予備動作である。
ゼドラの口が開き、喉の奥から光が溢れ出す。
――刹那、音が消えた。
その直後、耳をつんざくような爆音が響き渡る。サムの耳にはキーンという耳鳴りが遅れて聞こえてきた。
ゼドラの口から白い光線が放たれ、同時に3つの首から放たれた水流とぶつかり合う。
ゼドラの光線は、3つの高圧水流をあっけなく蒸発させ、3つ並んだ首の中央を貫いて頭ごと消し飛ばした。
これには大蛇も驚きの反応を見せ、ゼドラに対する警戒心をさらに強める。
2体の距離が縮まると、大蛇の首が1つ、ゼドラの喉元に喰らいつこうと飛び掛かった。
しかしゼドラはその突撃をスウェーするように躱し、逆にその首を両手でがっしりと掴む。その腕力により、掴まれた首はミシミシと音を立てる。
首を掴まれた大蛇は、別の3つの首でゼドラの喉元や肩に噛みつく。
ゼドラは大蛇の攻撃に対して初めて反応を見せ、掴んでいた首を手放した。
自由になった手で喉元に喰らいついていた蛇の首を振り払い、肩に噛みついていた首に喰らいつく。
そのままゼドラは腰から上半身をひねり、大蛇の首を束ねる体ごと投げ飛ばす。
海面に打ち付けられた大蛇に、ゼドラは更に尻尾を叩きつけて追い打ちをかける。
二、三度目の叩きつけに合わせ、大蛇の首がゼドラの尻尾に噛みつく。
ゼドラは叫び声をあげ、その隙を利用して大蛇は距離を取って体勢を立て直した。
尻尾をぶつけるために背を向けていたゼドラは振り返り、大蛇の方を見据えるが、そこに大蛇の姿はない。
辺りを見回すが、海面が広がるばかりであり、困惑するような唸り声をあげる。
直後、水飛沫と共にゼドラの足元から大蛇が勢いよく飛び出し、再生した8つの首と尾でゼドラの身体に絡みついた。
喉と口元にそれぞれ2本の首が巻き付き、属性合成魔力波の発射を封じる。手足も同様に拘束され、ゼドラは完全に動きを封じられた。
そのまま大蛇はゼドラの喉に巻き付いた首の締め付けを強め、ゼドラを苦しめる。
身体から放たれる七色の光が弱まり、ゼドラの抵抗する動きが徐々に鈍くなっていく。
「まずいっ……!」
サムがそう呟くと同時に、隣に立っていたイザベラが杖を振り上げた。
「〈水暴槍〉ッ!」
2体の戦っていた僅かの間に回復した魔力を振り絞り、水の槍が打ち出される。
完全に死角から放たれた攻撃は、ゼドラの喉元に巻き付いた大蛇に直撃した。
水の槍が与えた傷は深くは無かったが、それによって首の締め付けが僅かに緩んだ。
ゼドラの目に光が戻る。
ゼドラの身体から漏れ出る光が七色ではなく赤となる。それだけではなく、全身に生え揃った本来黒いはずの鱗殻が赤熱し、足元の海水は水蒸気へと変わる。
甲板に居るサム達も猛暑の様な熱気に包まれ、ゼドラの周囲が高熱によって蜃気楼のように歪む。
その姿は背後に沈みゆく太陽の如く、輝いていた。
大蛇の体表は焼き焦がされ、巻き付いていた大蛇は高熱に耐えきれず拘束を諦める。
――グギァォォオオオオオオ!!
ゼドラは雄たけびをあげ、全身が爛れた状態の大蛇を見据えると、片足を半歩前へ出し、居合の様に構えた。
直後、赤熱したゼドラの尻尾が高速で横なぎされ、大蛇の首を落とそうと迫る。
尻尾の動きに一度は対応していた大蛇は首を逸らし、尻尾による薙ぎ払いを躱した。
しかし、ゼドラはそのまま体を一回転させ、既に発射準備の整っていた属性合成魔力波を口から放つ。
光線が直撃した大蛇はその勢いにより大きく全身を吹き飛ばされる。
ゼドラの体色は黒へと戻り、漏れ出る光も七色へと戻る。海面に倒れ込む大蛇へと歩み寄り、その体を片足で踏みつけた。
七色の光が再び強まる。ゼドラは大蛇の心臓部に狙いを定め、口を開く。
その時、意識を取り戻した大蛇は8つの口全てを開き、その全てを束ねるように高圧の水流を放った。
8つが合わさった水流と、ゼドラの光線がぶつかり合う。
最初とは異なり、二つの奔流は拮抗した。互いに力を込めるようにその威力を高めていく。
その力が頂点へと達した時、2体の中心で爆発が巻き起こった。
水飛沫が雨の様に降り注ぎ、2体の存在していた場所には大きな霧に覆われていた。
徐々にその霧が晴れ、その姿が見えてくる。
――そこに存在していたのは八つ首の大蛇のみだった。
大蛇は消えたゼドラを探すように辺りを見回す。しかし、周囲には影も形もなく、海中からの奇襲もない。
「いったいどこに……」
サムも困惑しながらそう呟く。
「残念だが、決着はお預けだ。……永遠にな」
突如サム達の背後から声がした。
「「……レックス!」」
そこには円柱状の短い棒を手にしたレックスが甲板に立っていた。




