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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第3章
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第50話 実験室

「おい、一体何なんだよ?」


 俺に腕を引っ張られながら操舵室までやって来たレックスがそう言うが、引っ張ることができている時点で本気で抵抗していない事は伝わってくる。


「操舵室に本棚があったって言ったろ?」

「本当だったのかそれ。ただのその場しのぎかと思ってたぞ」

「いや、それも半分事実だが……」


 そう言って俺は入ってきた扉の方を向く。その横の壁には小さな棚が備え付けてあり、その上には数冊の本が置かれていた。


「こんなところにあったのか。見逃してたな」


 レックスが納得したようにそう言う。


「……ん?」


 その時、扉のそばに千切られたような小さな紙切れが落ちている気づいた。それを拾い上げると、文字が印字されていることに気付いた。


「あぁ、さっきマティスに引っ張られてきた時に落としたのか」

「これは…………ボル、テ……イン。ボルテイン? って書いてあるみたいだが、雷の魔法か何かか?」


 俺が紙に書いてある文字を読み上げ、レックスに訊ねる。


「いや、雷の魔法は〈軽雷(バリ)〉、〈斥雷々(バリガ)〉、〈漆怖塵雷(ギバリガ)〉の3つだけだ。それに、その紙は裏に書いてある事がメインだ」


 レックスの言葉に従い、紙切れを裏返す。そこには、先程までの均一な書式ではなく、インクによって書かれた手書きの文字が記されていた。


「[ヤツは蘇る。俺の後を継いでくれ]……って何のことだ?」

「それについてはもう解決済みだ。もう必要はないだろうが、俺が持っておくよ」


 レックスはそう言って俺の手から紙切れを回収した。


「それよりもこの本だ。見たところ製本されたものでは無くて、手記のようだが……」


 そう言いながらレックスは棚にあった本を次々にパラパラとめくっていく。適当に見ているように見えるが、物凄い早さで速読しているのだろう。


「……ん? これは……」

「何か書いてあったのか?」

「いや、逆だ。この巻だけ見たことのない言語で書かれているせいで内容が分からない。それ以外は王国語で書かれた単なる航海日誌のようなのだが……」


 そう言ってレックスが本の表紙を見せてくる。そこには[実験記録]と記されている。


「実験記録か……いったい何なんだろうな」


 俺がそう感想をこぼすと、レックスが驚いたような顔でこちらを見る。


「マティス、お前これが読めるのか?」

「え? そりゃ…………なるほど」


 レックスに言われ、その字を見てみると、確かに普段見かけるものとは違う事に気付いた。シャロンの時の様に、文章でも無意識に言語を変換して読んでいたようだ。


「少し内容を読んでみてくれないか?」

「わかった」


 レックスにそう言われ、その本の表紙を開く。そこに書かれている一行目の文章を王国語で読み上げた。


「[手順1、固有解錠呪文〈紋戸廻棚(イラリス)〉の詠唱]」


 その直後、俺達の前に在った棚が横に90度回転し、中央から上下に分かれて壁の後ろから金属製の板が出てきた。

 驚きつつも、その下の文章を読み進める。


「[手順2、掌解析による資格所有者の生体承認]」


 これは……先程の金属板に手をかざせばいいってことか?


「おいやめとけ」


 俺が手をかざそうとしたところレックスに手首を握られ、横から止められる。


「人間に擬態しているとはいえ、お前は魔物だ。得体の知れない生体認証なんか受けたら何が起こるかわからんぞ」

「じゃあ、どうするんだよ」

「俺がやれば何が起きても大抵はなんとかなる」


 本当の意味でこんなことを言えるのはコイツくらいだなと思いつつ、前を譲る。そのまま、レックスは金属板に右手をかざした。


≪資格所有者の認証完了、秘匿隔離扉の解錠を承認≫


 どこからか合成音声のような声が聞こえ、金属板が壁の奧へと引っ込んだ。


≪秘匿隔離扉開放、現在位置からの後退を推奨≫

「……これ下がった方がいいのか?」

「従っておこう」


 俺達が数歩下がると、先まで経っていた位置の金属床が四角い形に開き、その下に階段が出現した。その奥は暗闇に包まれている。


「……行ってみよう」


 レックスがそう提案する。


「この本はどうする?」


 俺は最初の1ページが開かれたまま放置された[実験記録]をレックスに見せる。


「一応持っていこう。この先と関わりがあるのは明らかだしな」

「そうだな」


 俺は頷き、レックスとともに階段を降りた。




 階段降りた先は暗い通路が続いていた。後ろ側の操舵室の光が上から差し込むのみで、他の艦内通路の様に天井照明は無いようだ。


「……ん?」


 後ろから射していた光が消え、通路が真っ暗になった。


「階段上の扉が閉まったのか。……戻れるよな?」

「帰るための手段は備わっているだろう。もし罠だった場合は破壊して脱出する」

「あっ、は、へぇ……」


 レックスの若干の脳筋発言で言葉に詰まる俺。


 ――コツコツ……コツコツ……………………コツコツ……


 真っ暗な視界の中で俺達の足音が響く。俺は壁に左手を当て続けながら進んだ。




 通路の行き止まりまで辿り着くと、突き当りの壁の上部に小さな赤いランプが光っていた。

 俺達が近づくとその光は緑に変化し、突き当りの壁が中央から左右に開いた。その先から漏れてきた光は暗闇に慣れていた目には眩しく、思わず薄目になる。


 ゆっくりと目を開けると、壁の向こう側には広い部屋が広がっていた。


「この艦にまだこんなスペースが残っていたとは……」


 部屋の奧の壁には太い透明な5本のパイプが縦に通っており、その中にそれぞれ違った色の発光する液体が流れていた。その手前には棺のようなものが置かれており、そこから沢山の管が伸びている。

 左右の壁には培養槽が並んでおり、その中の一部にはよく分からない生き物のシルエットが浮かんでいた。


「この部屋はいったい……」


 そう言いながら俺は手に持っていたあの本を開く。適当に開いたページの内容が目に入ってきた。

[…………ヤツを参考にした属性合成魔力波による強化は、結果として失敗だった。あれと同等の威力にするには相当量の魔力が必要であり、もし理想値の魔力を常時入力できたとしても聖剣の1割程度の性能しか発揮できない。そもそも、設計段階で材料として高純度な聖金剛が必要と判明した時点で――]

 そこまで読んだ時、首筋に冷たい感覚が走った。


「……マティスッ!」「動くな!」


 レックスが俺を呼ぶのと同時に、俺のすぐ背後から声がした。


「お前達…………ここで何をしていた?」


 真剣な声色でそう訊ねてきたのは、俺の喉元に背後から剣を沿わせたシャロンだった。

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