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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第1章
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第4話 俺とアイツ、俺と俺

――ダンジョンの入り口から少し離れた森の中。持ってきた食料のほとんどを喰いつくしたソイツは安心したように俺達の前で眠っていた。




 俺の名前はレックス。昔は苗字と名前があったが、20年前にこの世界に生まれてきてからはこの名前だ。

 片田舎の農家で生まれ育ってきた俺は6年前、突然教会によって勇者に選ばれ、丸一年に及ぶ魔王と魔王軍の戦いを強いられることになった。

 不満一つ言わず苛酷な戦いに身を投じた事に対して周囲の人々は俺を称賛したが、実は俺は勇者になることをずっと前から知っていた。それこそが俺がこの世界に来た役割だったからだ。


 俺はかつてここから違う世界の地球という惑星、その中でも日本と呼ばれる国で暮らしていた。

 その世界で俺は不運にも命を落としてしまったのだが、その時こちらとあちら、どちらの世界からも神と呼ばれる存在に目を付けられた。

 何でも、俺は地球では意味を成さなかったが、異世界で魔王と呼ばれる存在と唯一渡り合えるほどの強い魂を持った存在だったらしい。俺は魂を崩さないために記憶を持ったままこの世界に生まれ落ちた。

 魔王とは世界の中の理を逸脱した者だ。神への謀反をを企み、それにあった実力を備えていた。神が殺されれば今いる世界も地球のある世界も、全ての世界が消滅してしまう。


 魔王を倒した今は、勇者に選ばれた時からタッグを組んで戦っていた相棒、イザベラとともに表向きは冒険者として魔王軍の残党を狩っている。

 ほとんどはこの5年で倒しつくしたのだが、ミミックと呼ばれる厄介な魔物だけは恐らく狩りつくせていない。

 最近知り合ったサムという少年は鍵開けがとても得意だ。本人は謙遜しているが、今の時点でも勇者時代に出会った一流の鍵開け師にも劣らない能力を持っている。

 それにもかかわらずサムは俺たちの食事の調理、荷物運びまでしてくれている。なので俺とイザベラはサムと対等に接するようにしているのだ。本人はそれすら遠慮している節があるようだが。

 しかしサムはまだ弱い。鍛えるためにも弱い魔物しか現れないこのダンジョンで鍛える予定だった。


 そこで出会ったソイツは不思議な奴だった。


 争いを好まず、言葉を対話のために使い、ましてや涙を流す魔物など今まで1度も見たことが無かった。

 いや、魔王とは戦う直前に言葉を交わしたな。と言っても結局のところ、戦うことになったが。

 生まれてから一度も食事したことなかったということだが、魔王によって生み出された魔物なので少なくとも5年は何も口にしていなかったということだろう。

 嘘をついている可能性もあるが、今目の前の焚火のそばで無防備に眠っているこのミミックを見ていればそんなことは杞憂だとすぐわかる。

 魔物を連れて行くなど今までありえない事だったが、なんとなくコイツには感じるものがあるので、俺が直々に監視している間はしばらく面倒を見てやってもいいか。






 最後に食べたのは前世なので、いつ振りか分からないほど久しぶりに食事をとった俺は、安心感と泣き疲れたことによって眠りに落ちていた。


《いや~やっと出てこれたぜ!》


 なんだこの声は。


《箱の状態で動こうとするわ何もせずじっとし続けて発声練習しかしないわ、一度も出てこれずに死ぬのかと思ったぜ。というかお前もちゃんとしろよ~》


 頭の中から響いてくるような感じだ。誰なんだ。


《俺はお前だ。本来なら俺が体の主導権を握るはずだったのに、魔王様が俺を創り上げる時にお前の魂が無理やり入り込んできて混ざり合って分裂したせいで俺は予備精神になっちまったんだぞ!》


 魔王とやらが俺を生み出したらしい。


《お前、魔王様のことすら知らないのか!? お前の中に余計な記憶があるせいで、俺しか知らない事とお前しか知らないことが別々にあるらしいのは分かっていたが深刻だな……》


 やはり俺は記憶が欠落しているらしい。その分の記憶はもう一人の俺が持っているようだ。それと自分がミミックな時点でそうだが、魔王に様付けってことは恐らく人間勢力に完全に敵対してるな、俺。

 ギリ人間を食べることに特化しているという生き物なだけで基本的には中立ポジション的なのを狙ってたのに……というか、あの人達(特に最初に心を開いてくれたサム)よく俺を受け入れてくれたな。


《情に弱い人間だったな! で、いつ喰うんだ?》


 いや食わねぇよ! 命見逃してもらった上食べ物までもらって裏切るとかクズ過ぎるだろ!


《なんだよ、その場で喰うんじゃなくて食料まで奪うなんて賢い作戦だと思ったのに》


 魔物ってこんな徹底的に人間が嫌いな思考なのか? とにかく、俺は前世が人間だったから人間なんて食いたかねぇんだよ。


《元人間!? うわ最悪だよ元々変な奴だと思ってたけど何でこんな奴と精神共有しなくちゃならねぇんだよ……》


 精神を共有してるのにそういう情報はやり取りされないのかよ。めっちゃ嫌がられてるし……てかノリ軽いな。とにかく、俺は人間食わねぇからな!?


《わぁったよ。人間が寄越した食いモンもなかなかうまかったしな。とりあえずはお前に従うさ。そもそも、俺が体を自由に動かせるのはお前が魂がぶっ飛ぶくらいのキツいダメージを受けた時だけだし、お前に逆らってちゃ話が進まねぇよ》


 本当に体の主導権はほぼ完全に握っているのか。というか、お前の声が聞こえるようになったのも、さっきダメージを受けたからか?


《確かに少し痛かったが、あんなもん俺が出る程のダメージじゃねぇよ。俺が出てこれなかったのはお前が何も食わなかったせいだろうが》


 理屈はよく分からないが、2つの精神を同時に出せるほど体に余裕が無かったのか。というか……まさかこれから先お前はずっと俺の頭の中に居座る気なのか?


《当たり前だろ? 元々いるのが通常なのに今まで出てこれなかったのが異常なんだぞ?》


 マジか……まぁ俺に協力する姿勢を見せてくれいているし、どうにもならない事なら仕方ない。


《お、そろそろ体が目覚めるころだぞ》


 起きたらどうしようか、サム達は俺といつまで居てくれるのだろう……

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