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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第3章
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第44話 夏と船

 俺の気力がなんとか回復した後、俺達は活気溢れる市場を通り抜け、人混みから脱した。


「それじゃ俺は王都方面に運航している船を探しに行ってくる」


 とレックスが言い、道案内をイザベラに、財布の管理をサムに任せ、大通りを離れていった。




「時間が出来た訳だけど……何か行きたいところはあるかしら?」


 レックスがいなくなった後、イザベラがそう俺達に訊ねるが、ルマーシェの町に来たことがあるのはこの中ではイザベラを除くとサムだけだ。


「うーん……僕は特にないですけど、マティスさんは?」

「俺か? 俺はこの町について知らないからなぁ……港があるからその辺とか?」

「オレは武器屋に行きたいッス――」

「ラミさんはどうですか?」


 サムがクリスガン無視でラミに訊ねる。……うん、あれは俺も悪かったと思ってる。


「ぁ、ぇ? ゎ、私ですか……? えぇっと……し、しいて言うなら、少し暑いので涼しい所に行きたいかなぁ……なんて……」


 自分に振られるとは思っていなかったのか、しどろもどろで答えるラミ。


「確かに、昨日あたりから急に暑くなってきたなぁ」


 俺もそれは少し感じていたのでそう答えた。

 ラミは下半身が蛇の魔物だから、気温変化に弱かったりするのだろうか? というかそもそも恒温なのか変温なのか……うん、この世界の生き物に元の世界の常識は当てはまらないのは既に身をもって体感していたんだった。深く考えるのはやめよう。


「急に、というより時期的にはもう夏季に入っていてもおかしくない時期なんですよ? タヴォカハ山は標高の高い山ですからね。涼しく感じていたんだと思います」


 サムが暑さの理由を説明してくれた。そういえば、この世界に来たから季節について気にしたことが無かった気がする。今着ているこのローブも、中が半袖のTシャツだから着れているが、既にちょっと暑い。


 夏、かぁ……

 前世の記憶を辿っても思いつくのはかき氷や夏祭りなどこの世界には無さそうなものばかり。スイカなら育てている所あるだろうか……


「――あ。そう言えば海で泳いだりとかしないのか?」

「海……ですか?」


 夏で涼しくなれると言ったら海水浴と思ったのだが、魔物のいるこの世界で砂浜で泳ぐ文化があるのかどうか……


「自己責任って感じだけど、泳ぐ人はいるわね。レックスが高品質な水着の製造方法を開発してからは結構そういう人が増えたらしいわ」


 イザベラが俺の疑問に答えた。また勇者様(レックス)かい。魔翔機に始まり、食品に続いて娯楽まで……本当に色々な所に影響与えまくってるな。


「水着……は俺には創れないな」


 創造魔法で創ってしまおうかと思ったが、下着と同じく前世で馴染みのない物は創れない。一から創るのも難しい。


「じゃあ、今から買いに行きましょう。私も持っていないし」


 イザベラがそう提案し、俺達は洋服を扱う区画へと移動したのだった。






 ―――――

 ――――

 ――


「王都方面への船ねぇ……厳しいとしか言いようがねぇな」

「どうしても……出せないか?」

「レックスの頼みなら聞いてやりたいが……1パーティの為だけに船を運行するのは利が無さ過ぎる。あのバケモンが去っていった方角に、わざわざ行きたいってぇ物好きはあんたらだけだ」

「そうか……残念だが仕方ない。ありがとうな」

「何もしてやれなくてすまねぇ。船以外の話なら何でも話に乗るぜ!」

「あぁ、よろしく頼む」




「これで目当てにしていた4人は全滅……か」


 そう呟いた俺は、はぁ……っと溜息を吐きながら街中を彷徨っていた。

 イザベラ達にああ言ってきたはいいものの、俺は未だに王都方面への船を確保できていなかった。

 既に陽は真上へと昇っている。そろそろ昼飯を食べようと、適当な飯屋へと入った。




「お! レックスじゃねぇか! ……どうした? 浮かねぇ面してるみてぇだが……」


 店のカウンター席から声がかかる。その方を向くと、今朝町の入り口で会ったばかりのギャヴィンが座っていた。


「あぁギャヴィン。ここに居るってことは休憩時間か? 飲んでいるみたいだが」

「いや、今日はこれで上がりだ。衛兵っつっても他の町みたいに守る役目は無ぇからな」

「そういえばそうだったな」


 仕事終わりに昼間から酒を呷っているギャヴィンの言葉に相槌を打ちながら、隣の席へと腰を下ろす。


「で……どうした? イザベラ嬢と喧嘩でもしたのか?」

「い、いや……そんなんじゃないんだが……」

「珍しいな、レックスがイザベラ嬢以外の事で悩んでるとは」

「い、いやいや、そんな事無いからな。……無いよな?」

「冗談だ。それで、本題は?」


 ギャヴィンの冗談に変な汗をかきつつも、俺は軽く愚痴をこぼすように話し始める。


「いや、なんだ。王都へ向かいたいんだが、船が見つからなくてな」

「レックスとイザベラ嬢なら空を飛ぶなりなんなり……って今はサム坊達がいるんだったな。それで船……か」

「あぁ、魔翔機ならすぐなんだが、いかんせん個人で払える額じゃないからな……」

「そりゃ当たり前だ。あんなん普段使いしてるのは王族か大富豪だけだろ」


 実は貯金の額的には余裕で乗ることも出来るのだが、勇者だとバレるリスクが格段に上がるので、非常時以外は使いたくない。


「この前の騒ぎで、俺達以外で王都方面に今すぐ向かいたいなんて奴はいないそうだ」

「しばらくすればどうかもわからんが、今船なんか出したら赤字確定だからなぁ……レックスは船持ってなかったか?」

「操縦は出来るが、所有はしてないな。燃料代もこちらで出すと言っても渋る人が多くてな……」

「そうか…………じゃあ俺の船を貸してやらぁ!」

「! 本当か!? ……避難用じゃなかったのか?」

「レックスが山の方から来たっつー事は、しばらくはあっちの方から魔物は来ねぇだろ」

「それは、まぁそうだと思いたいが……」


 俺への信頼が厚すぎて心配になるレベルだが、確かにこの町に来るまでの間に脅威になりそうな魔物は全てイザベラと2人で殲滅しておいた。サムやマティス達は寝ていて気付かなかったと思うが。


「……でも、本当にいいのか?」

「燃料も操縦もそっち持ちだ。貸すだけなら何とも無ねぇさ」


 そう言って懐から船の原動鍵(エンジンキー)を取り出し、俺の手に重ねる。


「俺のお気に入りだからな。壊すんじゃねぇぞ?」


 にやりと笑いながらそう言い、手を放すギャヴィン。


「恩に着る」

「いいってことよ! おら、そろそろなんか頼んだらどうだ?」

「……そうだな」


 俺はそう答えると、店のメニューへと目を通し始めるのだった。

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