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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第3章
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第43話 港町と謎魚肉

 ルマーシェの町の入り口まで辿り着くと、活気の溢れる声があちこちから聞こえてきた。


「よう、少し前に大変な事があったそうだが、大丈夫だったか?」


 レックスが入り口に立っているガタイの良い衛兵の男に声を掛ける。レックスが勇者だと知っている俺からすれば白々しく見えるが、話しぶりから察するに知り合いなのだろう。

 衛兵と言ってもこれまで訪れた町の様にルマーシェの町には町を囲う防壁は無い。魔物への対処はどうしているのだろうか。


「あぁ、あんなデカい魔物は初めて見たなぁ! ……だがまぁ、魔物にブッ壊されるのには慣れてるからな! 多少いつもより時間はかかったが、復興はほぼ完了したぜ!」


 日焼けした丸太の様な太い腕を組みながら、意外にも陽気なテンションで答える衛兵。


「慣れてる……ってどういう事ッスか?」


 俺の後ろに居たクリスが衛兵に訊ねる。


「おぉ? レックスとサム坊、それにイザベラ嬢は見知ってるが、あんちゃん達はこっちに来た時には見かけなかった顔だな? どういう関係だ?」

「俺はレックス達とアクチェスの町で知り合って、パーティに加わることになったマティスだ。そこにいる()()のクリスやラミも似たような経緯(いきさつ)だな」


 衛兵の疑問に俺が答える。まぁ、俺は魔物(ミミック)で、レックス達と出会ったのはアクチェスの町近くのダンジョンだし、今は擬態をしていないラミも魔物(ラミア)なのだが、詳しく話す必要はない。


「そうだったんかぁ! ところで姐ちゃん、男みてぇな喋り方すんなぁ! まぁそりゃどーでもいいか! 俺ぁギャヴィンってんだ」


 ガハハと笑いながらそう言う衛兵――ギャヴィン。細かい事を気にしない……というより大雑把な性格なのだろう。


「そういや、襲撃に慣れてるって話だったな! まぁ、見ての通りっちゃあそうなんだが、この町には防壁がない。だからしょっちゅう魔物に襲われる。そんな訳で、直して壊されてってえのは日常生活なわけだな」

「……町の人は魔物に襲われたりしないのですか?」


 サムがギャヴィンに訊ねる。面識はあったようだが、この町については知らなかったのだろうか。


「この町の住人は大抵自分の船を持ってる。ヤバい魔物が来るってなったら海に逃げんだ。そうすりゃあ建物は壊されようとも、命は助かる。生きてりゃどうとでもなっからな」

「でも、毎回毎回そんなんじゃ大変じゃないスか?」

「もちろん海へ逃げんのは最終手段に近い。それに、空飛ぶ魔物なら海に逃げても意味無ぇからな。普段はどうしてるかってーいうとな、このルマーシェの町は港町だけあって人の流れが多い。そのおかげで名の知れた冒険者も結構頻繁に訪れる――レックスやイザベラ嬢みたいなのがな。で、そういった人間に、この町の停泊費の代わりとして防衛を頼んでるわけだ」


 振り向けば、レックスとイザベラがうんうんという感じで首を縦に振っていた。……というか勇者パーティなのを隠すための冒険者なのに名が知れてていいのかよ。


「サム坊が前に気付かなかったのはレックスとイザベラ嬢が一度も魔物の侵入を許さなかったからだろうな」


 まぁ、勇者とそのパートナーで守れない物は無いだろうな。だがギャヴィン、その何気ない一言が一応冒険者の端くれであるサムを傷つけているぞ……


「……って、長話が過ぎたな。レックスの仲間ってんなら信頼はバッチリだ。ようこそ、ルマーシェの町へ!」


 そう言いながら道の脇によるギャヴィン。


「ありがとうございます」

「ありがとな」

「ありがとうッス!」


 それぞれがお礼を言い、ギャヴィンの横を通り抜けて町の中へと足を踏み入れた。






「いらっしゃい! いらっしゃい! 今朝獲れたての新鮮なのが揃ってるよー!」

「安いよ! 安いよー! 今なら3つ合わせて銅貨20枚!」


 町に入ってから、先程から聞こえてきた声が鮮明に聞こえてきた。道の左右の店先に並べらている物を歩きながら見てみる。

 元の世界で見たことのあるような青魚などに混じって、見たこともないような奇妙な生き物達も並んでいた。


「うわぁ、あそこにあんの完全に首長竜じゃねぇの?」

「あれは海獣の一種ですね。首の部位の肉はとても美味しくて、高値で取引されるそうですよ。あそこまで大きいのは狩猟も大変で、珍しいかもしれないですね」

「へぇ~……いつか食べてみたいなぁ」


 呟くように口に出た感想にサムが解説を加えてくる。


「それに、これは…………なにこれ……何……?」

「うーん……これはちょっと僕にも分からないですね……」


 そんな事を話しながら、俺達は町の通りを進んでいった。





「うわっ……あれ食べ物なのか……?」


 思わずそんな言葉がこぼれるほど、グロテスクな見た目の物も見つけた。

 だが、その時……


「何言ってるんスか姐さん。あれは珍しくもなんともない普通のアールスじゃないッスか。タヴォカハで食べてたッスよね? 俺は焼いたのの方が好みッス」


 そのクリスの言葉を聞いた俺は、ギギギ……という音が聞こえそうな様子でクリスの方を向く。


「え、俺が……ァ、アレを……!? あのエ〇リアンのチェ〇トバスターみたいなアレを……?」


 え、クリスが焼いたのが好みって事はあの時食べた海鮮丼……? ってことは俺、アレを生で……?


「いやいやいや、無い無い無い……だって食べた感じ完全に赤身の魚だったし……そんなわけが……うっ……!」

「マティスさん!? どうしたんですか!? 急に具合でも悪くなりましたか!?」

「姐さん大丈夫ッスかッ!? エイ〇アンのチェスト〇スターって何なんスか!?」


「エ、アノヨコノイクラミタイナノハ……? マサカ、タマゴ……ヴッ!!」

「マ、マティスさ――――ん!!」






 ……ルマーシェの町に着いて早々、一生モノのトラウマを植え付けられた俺は、今後知らない物を食べる時は絶対に加工前を知っておこうと決めたのだった。

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