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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第2章
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第42話 旅の再開

「だいぶ降りてきたな~ 海に着いたら船に乗るんだろ?」


 タヴォカハの山頂を出発してから2日後、俺達は山の麓近くまで降りてきていた。

 俺は上へ向けた人差し指の先に〈灯火(イグス)〉の炎を灯しながらレックスに訊ねる。

 〈灯火(イグス)〉を含めた基本的な属性の魔法は、魔力が自由に扱えるようになったこの2日の間にイザベラとゼラノスのおかげで制御できるようになっていた。コツはイザベラと違って呪文を口に出さない方が良いということが分かってからは失敗することなく発動出来た。


「あぁ、そうだが……」


 肯定をしつつも口ごもるレックス。俺は〈灯火(イグス)〉の炎を霧散させ、話に集中する。


「何か問題が?」

「山頂から見えた通り、麓から港のあるルマーシェの町までは距離が近い」

「それが、悪い事なのか?」

「いや、それ自体は問題ない。だが出発前に既に話したと思うが、魔王とのやり取りの末ゼドラ――破壊神は海に去った。しかし、その時の進行ルートにルマーシェの町が、というのがな……」


 確かにあの巨大な怪物であれば町をただ歩いただけで少なからず影響が出るだろう。


「あぁ……」

「だが、王国と連絡を取った限りルマーシェの町でも一時的な避難が行われて町の人には被害は出ていないそうだが、山頂の町と似たような状況なのは間違いないだろう」


 タヴォカハ山頂の町でも避難の影響で出発時は人影がかなり少なくなっていた。

 宿の店主にも出立の挨拶をしようとしたのだが、結局戻ってくることが出来なかったようだ。宿泊費はクリスが一応会計してくれたが、アイツ辞めたんじゃなかったか……?


「まあ、船の状態さえ悪くなければそこまで長居をすることは無いと思うぞ」

「そうだな」


 レックスは付け加える様にそう言った。


「あ、そう言えばマティスさん。話していなかった事が」


 その時、隣を歩いていたサムが話しかけてきて、なにやら背負っていた鞄をゴソゴソと探っていた。


「なんだ?」

「これです! 鞄を無くしてしまった時に一緒に紛失してしまったので、この前マティスさんが眠っていた時にギルドで再発行してもらったんです」


 そう言いながらサムが取り出したのは丸められた2枚の羊皮紙だった。


「これは……俺が受注したクエストか!」


 直後に騒ぎがあったせいで忘れていたが、そう言えばクリスの試験待ちの間にクエストを受けていた。


「どんなの受けてたっけな……」

「歩きながらの確認は危険だから、後にしておけよ」


 依頼内容を再確認しようとしたが、レックスに止められる。仕方ないと思いながら再びサムの鞄にしまい込んだ。




「うーん……暇だ」


 特に何も起こらないまま、森の中を歩き続けてしばらく経った。

 魔力の回復によって歩き続けることが出来るようになったのは良い事だが、長時間同じ事を続けるのは退屈でもある。


「あ、そうだ…………『来い』」

「ちょっ……」


 歩きながらかざされた手の平に木々の影が集まり、星喰らいが現れる。


「なぜ呼び出したし」

「暇だったから」

「いや、暇だから呼び出すとかじゃないだろソレ……」


 白い目をしたレックスが突っ込んでくる。


「別に害は無いし、いいだろ」

「なんかそれ呼び出す時、本能的に危機感を感じてゾワゾワするんだよ」

「俺は別に感じないけど……」

「そりゃお前の所有物なんだしそうだろ」

「僕も少し感じます……」

「あ! なんか変な感じがしたと思ったらその剣! っていうかどこから取り出したんスか!?」


 レックスの意見にサムとクリスが同意を示すように会話へ入ってきた。


「俺が呼び出した時だけ出せるようになってるらしい」

「なんスかソレ! やっぱカッコいいッスね! 他には何か出来ることとかあるんスか?」

「うーん……俺もこの剣についてはまだよく知らなくてな……」


 そう言いながら俺は星喰らいの刀身を眺める。形は50cm程の先端の尖った両刃の刀身があって、飾り気のない柄があるだけのシンプルなもの。

 真っ黒なのは相変わらずだが、よくよく見てみるとただ黒いだけではないらしい。黒が深すぎて表面に凹凸を感じられないのだ。

 光を一切反射していない……というか空間に剣の形の真っ黒な穴が開いているように見える。ずーっと見つめていると、刀身の奥に星のない宇宙空間が広がっている気すらしてくる。

 だが実際俺は今星喰らいを手にしているわけで、触れば立体的な剣がそこに存在していることが分かる。視覚と触覚が一致しない、奇妙な感覚だ。


【この剣については余が一番よく知っている】


 唐突に頭の中に声が響く。そういえばこの剣を呼び出すとこいつ(魔王)も出てくることを失念していた。

 だが、この剣が元々魔王の物であることも事実。詳しい事について聞いてみるのもいいかもしれない。


【いいだろう。余が解説役になるのは多少不服だが、其方の頼みなら……】


 いや、なに再登場でキャラ修正しようとしてんの? 前に俺が星喰らい持てちゃったことに対して動転して素が出てたのは不本意だったのか?


【わかってるなら触れないでよお……】


 ……なんかスマン。


【もういい! このままいく! 一言で言えば、その剣に出来ないことは無いの!】


 結局雑じゃねーか。


【いやだってホントの事なんだもん!】


 そう言われても……てか”もん”って……


【そ、そこはどうでもいいでしょ! 星喰らいは何処に居る相手だって認識さえしてれば切れるし、切った相手の傷が絶対に治癒しないようにできるし、物理的な攻撃でも魔法による攻撃でも完全に相殺できるし、次元の楔を断ち切れば高次元空間に干渉して時間も操作できるし……】


 いやいやいや、ちょっといきなり情報詰め込まれ過ぎて訳分かんないんだけど……物凄くヤバそうな代物な気が…………


【だから前からそう言ってるでしょう! もちろん絶対に殺さないように手加減して峰打ちもできるのよ】


 いや、この剣峰無いじゃん。というか死なせないけど死ぬよりつらいパターンじゃないですかねソレ。


「姐さん! どうかしたんスか?」


 魔王と話しているうちにクリスの前でボーっとしていたところだった。

 俺達のパーティの中でクリスだけは俺が魔物であることも、魔王との関係も全く知らないので正直に言うわけにはいかない。


「あーこの剣について少し思い出していたとこでな。なんか距離関係なく切れたり傷を治らなくしたり出来るらしい」

「どーなってんスかその剣! チョーイケてるッスね!」


 めちゃくちゃヤバそうだからチョーイケてるというよりチョーイkater(ケテル)って感じだが……


「そ、その剣……」


 いつの間にかクリスの奥からこちらに近づいてきていたラミが星喰らいを見ながら声を掛けてきた。


「どうした?」

「ょ、よく見てみると、その剣から魔力がどんどん漏れ出ています……」

「そうなのか……?」


 前々から思っていたが、ラミは魔力を見ることが出来る様だ。

 それにしても、星喰らいから魔力が? ということは、俺の魔力が回復したのは星喰らいのおかげなのか?


【当たり前でしょう? 星喰らいに出来ないことは無いの!】


 そうだったのか。大体こういう凄い力にはデメリットがあるはずなんだが……あ、コイツか。


【誰がデメリットよ!】






「あ、ルマーシェの町が見えてきましたよ!」


 斜め後ろを歩いていたサムがそう言いながら前方を指差す。

 俺もそちらの方を見てみると、木々がまばらになり、開けた先に町が見えていた。

 ちなみに、星喰らいは送還したので、魔王の声は消えた。後、実は星喰らいを呼び出してから無視していたがゼラノスはずっとうるさかった。


「思ったよりも建物への被害は出ていないようね」


 レックスの横を歩いていたイザベラが感想を漏らす。

 主戦場となった山頂の町よりも被害は小さいだろうとは思っていたが、遠くから見る限り、建物の大きな損壊などは起きていなさそうであった。


「あと少しです、このまま行きましょう!」


 サムの言葉に全員が同意を示し、俺達はルマーシェの町へと足を早めた。

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