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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第2章
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第40話 魔力と閑談

「はぁ…………で、何で俺の擬態が解けてない?」


「星喰らい」を送還した後、魔王の声は頭に響かなくなった。送還前になんか騒いでたけどあの様子なら多分大丈夫だろう。ゼラノスも惜しんでたけど無視だ。

 クリスは凍るような笑顔を張り付けたイザベラに部屋の外へと連れていかれた。まぁ、これも大丈夫だろう。……きっと、恐らく、多分、十中八九。

 レックスへの誤解も、一度俺の膝の上に浮いていた「星喰らい」を触らせると、固定された位置から動かせない事からなんとか信じてもらえた。やはり魔王と俺以外には「星喰らい」を扱う事が出来ないようだ。


 ようやくゆっくり落ち着く事が出来た俺は、部屋に残った3人へと声を掛けた。


「マティスさんは僕達が到着したときには既に人間の姿でしたが……」

「気絶した時からずっとだ。魔力は大丈夫なのか?」

「あぁ、今の所は……」


 そう言って俺は自分の体を見る。

 俺の今の恰好が病院服の様な物だと言う事しかわかることはない。


「あれ、俺の服は?」


 そう、起きてから色々と起きていて忘れていたが、俺の着ていたローブとジーンズ、そしてTシャツが見当たらない。


「俺は知らないぞ、俺の目の前で魔王の鎧が消えた時に下着姿だったからな」


「……えっ?」

「えぇっ!?」


 俺とサムが思わず声を上げる。

 サム、なんで当人の俺より反応が大きいんだ。


「この宿に連れてきた後、町の病院からその病院服を拝借してきた」

「レックスが着せたのか?」

「そうだが……何か問題あったか?」

「いや、別に俺は問題ないが……その話、イザベラにはするなよ」

「え? なんでだ?」


 ……俺かお前のどっちかが死んでもおかしくないからだよ。この鈍感主人公が。


「それにしても、無くなっちまったのか……サム、予備持ってる?」

「急いで逃げたので、買い物した後の荷物と一緒に広場に落としてきてしまったと思います……」

「広場は破壊神とかなんとかが暴れたから回収はできなそうだしなぁ……」


 創造魔法はかなり魔力を使うし、予備も最近作ったばかりだったのに……


「ぁ、あの! マティスさん、今凄い魔力量です……!」

「え?」


 今まで会話に参加していなかったラミが俺にそう言ってくる。

 そう言われてみると、魔力不足の感覚が全くない。ダンジョン内で目覚めてから感じていた慢性的な空腹感がなくなった感覚だ。


「今なら……」


 俺はそう呟くと、頭の中に昨日まで着ていた服を思い浮かべ、もう一度創造魔法を使う。


「……腹が減らない」


 創造魔法が失敗したわけではない。目の前にはいつもの服が創り出された。

 だが、いつも創造魔法を使った後に襲ってくる空腹感が無い。


《魔力が完全に回復してるな。原因は恐らく魔王様に関係しているだろう》


 ゼラノスが俺にそう言ってきた。

 擬態が解けていない原因もそれだろう。


「なんか、魔力が完璧に回復したらしい」

「本当か!?」


 レックスがそう訊ねてくる。


「実感はあまり無いが……」

「ゎ、私からすれば、出会った時とは大違いです……」


 そういえばラミは、俺の魔力が底をつきかけていたのにすぐに気付いていたな。


「まあ、空腹感を感じなくても、魔力は昨日から消費しっぱなしみたいだから、何か食べたいところだな」

「それなら僕が宿の厨房を借りて何か作ってきます! 許可はさっきクリスが取ってくれていたみたいなので」


 サムがそう言って部屋を出ていく。


「まだまだ気になることが色々とあるが……俺も昨日から事後処理で働きっぱなしだったし、少し仮眠をとってくる」


 サムの後を追うようにレックスも部屋を去る。

 というか、レックスはあれだけ激しく戦闘していたにもかかわらず、昨日から寝ずに色々と町関係で働いていたのだろうか。勇者とは言え流石に疲れるだろう。俺の話を聞いている場合じゃない。


「ゎ、私はどうすれば……」


 残されたラミが俺のベッドの側で狼狽える。


「それだったら俺と少し話をしよう。ラミは昨日どうしてたんだ?俺達以外の魔翔機に乗って避難していたとかか?」

「ぇ? ぁ、あの、昨日は皆さんを部屋で待っていたら轟音がして、窓の外を人が沢山走って行くのが見えたので、逃げようかと思ったのですが、皆さんより先に逃げるのも良くないかなぁ……と思いまして……それで……」

「え!? まさか、ずっとこの宿に居たの!?」

「は、はぃ~……な、何かまずかったですかね……?」


 眉を八の字にしてか細い声でそう言うラミ。


「いや、結果的にはいいんだけど、一歩間違えれば危ない所だったっしょ!」

「ご、ごめんなさぃ……」

「いや、別に謝る必要はないよ! 俺達を待ってくれていたのに、むしろこっちが謝らないといけない!」

「そ、そうですか……?」

「そうだって」


《この魔物は本当に魔物らしくないな……》


 ラミに対してゼラノスがそんな事を言うが、俺は魔物らしさがどんなものなのかがわからん。腰が低すぎるとは思うけど。


「ぁ、あの、私から訊いてもいいですか?」


 そんな事を考えていると、ラミの方から質問が飛んできた。


「魔力がなんでそんなにいきなり回復したか、分かりますか?」

「う――ん……俺自身もあんままだわかってないんだけど、やっぱり魔王関連っぽいけど……」

「魔王……ですか?」

「……あれ?」

「な、なんでしょうか?」

「ラミは魔王に対して敬意とかないのか?」


 ゼラノスがいつも嫌になるほど魔王様魔王様言うので、てっきり魔物は皆魔王様呼びなのかと思っていたのだが……


「え? はい、無いですね……」


《おい! 魔王様に対する忠誠が無いとはどういう事だ! 魔物はたとえ魔王様に創られていなくても知性がある限り魔王様への忠誠と人間への憎しみが……あれ、そう言えばコイツ人間も憎んでいない!?》


 今頃な気もするが、確かに少し疑問だ。というか、こいつ(ゼラノス)が異常なだけなんじゃないかという気がしてきた。


《そ、そんなわけないだろ!》


 だって多数決でも2(俺とラミ)1(ゼラノス)で勝ってるし……


《お前は人間みたいなものだし例外だろ! まだ1対1だ!》


 また頭の中がうるさくなってきた……


「あの、ラミ。悪いんだけど少し眠くなってきたから寝るわ」

「は、はい! 私、サムさんの方、手伝ってきます!」


 ラミはそう言うと、部屋を出ていった。部屋に残ったのは俺1人。


 さーて、寝るとするかぁ~~


《おい! 無視するな! ……おい!》


 抗議するゼラノスを無視して、安息を得るために俺は眠りについた。

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