第3話 遭遇 ~冒険者サミュエル~
僕の名前はサミュエル。皆からはサムと呼ばれることが多くて元の名前を忘れられがちだけど、サミュエルだ。
最近16歳の成人を迎え、冒険者になって親元を離れたばかりだ。
冒険者とは言っても、僕は腕が立つわけでも魔法が使えるわけでもなかったので、荷物運びや鍵開け、調理などのサポート担当。
今一緒にパーティ組んでいるのは冒険者歴5年の先輩であるレックスとイザベラで、それぞれ剣士と魔導士をしている。
先輩なのに呼び捨てでいいのかと聞かれることがあるんだけど、これは2人が言い始めた事なんだ。
実は「自分たちができない事や雑用をこなしてくれているのに、無下に扱うことは出来ない」と言って最初は今以上に丁寧に接してくれていた。
しかし、こっちが落ち着かないと言ったら、せめて対等な関係にと言われて今の状態に落ち着いた。
レックスには「それに君の鍵開けの技術は一流の冒険者でも欲しがるだろう」とも言われたが、これはお世辞だな、うん。
ちなみにレックスとイザベラは付き合っていないらしい。
傍から見たらそうとしか見えないんだけど、一緒のパーティで過ごしてみた感じでは嘘ではないみたいだ。
だが、正直お互い気づいてないだけという感じなので逆にじれったい。でも、そのうち関係は変わるだろうと思うから余計なことはしないほうがいいね。
話がそれたけど、今日はこの近辺で1番大きなダンジョンを攻略することになった。
ダンジョンは数千年前にあったという文明の遺跡で、今でも定期的に内部構造が変化して魔物が出現したり、宝箱が設置される場所だ。
内部で魔物によって生物が倒されることがダンジョンの活動源となり、それをもとに更なる魔物や宝箱が現れるという説が有力なんだけど、学者たちがこぞって研究していても本質的な部分は謎のままだ。
魔物って言うのは生物の区分の1つで植物、動物、魔物に……ってのはわざわざ説明する必要もないか。
5年前までは、魔王という存在が数多くのダンジョンに強力な魔物を生み出していたらしいけど、勇者様が魔王を倒した後残党を倒して回ったので、今はダンジョンから自然に出現する魔物しか生息していないんだそうだ。
この近辺で1番と言ったけれど、今居るアクチェス川流域は僕の様な初心者が挑戦できるようなダンジョンしかない。
それに、レックスとイザベラが居れば心配無用だ!
ところでダンジョン攻略というのは最深部までたどり着くことが目標でダンジョンを制圧することじゃない。
なぜ僕たち冒険者が魔物の襲ってくるダンジョンを攻略するかというと、それは宝箱から出てくるアイテムが目的だ。
宝箱に入っている武器や防具、その他の道具の質は、店で売られている最高級の物にすら勝る……というわけではないけど、不思議な効果を持っている物が多くて、一流の鍛冶屋でもなぜか模倣することができないそうだ。
そして持ち出した道具達は様々な場面で重宝されているため需要が大きい。もはやダンジョン無しでこの世界は回らないだろうとも言われているらしい。
そんなわけでダンジョンの出土品は高く売れる。生命の危機と隣り合わせだけど、ほとんどの冒険者は稼ぎのためにダンジョンへと潜る。中には強くなるためだけにダンジョンに潜る戦闘狂もいるみたいだけど……
そんなこんなでダンジョンに入って4時間ほど経ったんだけど、やはり現れる敵はゴブリンやオークなどの低級魔物、少し強い敵でも亡霊騎士やスケルトンなど中級魔物だけだ。
弱い魔物は僕が倒すことになっているけど、中級などの魔物はレックスやイザベラが直ぐに倒してしまうため、危険なことは何一つなかった。
近くに魔物はいないようだとイザベラが言っていたので、僕が松明を持って通路を先行する。
薄暗い通路を進んで行くと、横道が見えた。
その先は行き止まりみたいだ。けれど、その先に見えたものがあった。
「あ、宝箱だ!」
「罠かもしれない、警戒しろ」
レックスに注意された。
「後ろから敵が来ないか見ておくわ」
イザベラがそう言う。
確かにもしトラップが発動したら逃げ場はない。まぁ、レックスとイザベラが居れば安心して背中を任せられる。
「じゃあサム、頼む」
「了解だレックス!」
宝箱の前に行き鍵開けを始める。
だけど、鍵穴にピックを刺しても感触が無い。元から開いている宝箱だったかと蓋を押し上げてみたけど開かなかった。
「あれ~? 鍵は開いていると思うんだけど、開かないな~」
蝶番が錆びついてるのかと思って力を込めて開けようとする。
すると急に蓋が軽くなって、開いた勢いでそのまま尻餅をつく。
何が入っているかと思いながら見た瞬間、ギルドで宝箱開ける時に注意すべき点について回されていた情報を思い出さされた。
「あ、あぁまさか……!」
――勇者様が倒して回った魔王軍の残党の中でも、とある魔物は擬態が得意で全て倒しきることができたか未確認だったそうだ――
――ああ知ってるぜ。その特徴を見たら、すぐにギルドから通達して勇者様が向かえるように報告しなければいけないらしいな――
恐ろしい程綺麗な赤色の大きな舌、縁に並んだ太く鋭い牙。
魔王軍の残党であり宝箱に擬態する人食いの魔物、ミミックが僕の目の前で大きく口を開けていた。