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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第2章
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第36話 武器と嵐

「これで良し……と」


 カウンターで手続きを済ませた俺は、丸めたクエスト依頼の羊皮紙2つをサムの鞄へと仕舞ってロビーのソファに腰掛けた。

 なんだかんだで悩みに悩んだせいでかなり時間がかかってしまった。


「あ! いたいたっ! 終わったッスよ~!」


 そう言いながらクリスがカウンター横の出入り口から出てきた。

 鞄の口を閉めたサムが立ちあがって声を掛ける。


「どうでしたか?」

「見てくださいッス!」


 そう言って一枚の紙を取り出すクリス。そこには[2等級に配属]の文字が。


「おぉ! 良かったな」

「はいッス!」

「えぇ、あぁ、はい……そうですね!」


 俺に続いてサムが若干戸惑いながら祝福する。

 そう言えばサムは最近2等級に上がったばかりだったか……


「そ、そういえば、クリスは実技試験の時何の武器を使ったんですか?」


 なにか慰めるようなことを言ってやろうかと思っていた時に、サムがクリスにそう訊ねた。


「オレは特に決まった武器とか使ってるわけじゃなかったから、貸し出していた訓練用の剣で受けたッス」

「へぇ……」


 サムの表情が笑顔を保ちつつも更に渋くなる。


「僕の時は持参の魔力銃を持ち込みしても1等級だったのに……」

「何か言ったッスか?」

「え? いやいや! 何でもないです!」


 サムの聞かせるつもりがないであろう呟きが聞こえてしまったが、聞かなかったことにしておこう。


「というか、実技試験って武器とか使うんだな」


 俺がクリスとサムの会話にそんな感想を呟く。


「あれ? 姐さんは冒険者じゃなかったんスか?」

「うんにゃ違うよ? なんか俺の時は近くにいた冒険者のおっさんを腕相撲でぶっ飛ばしちゃったら免除された」

「そんな事もあるんッスね!」

「いや、かなり特殊ですよ……」

「姐さん腕相撲強いんスか? 後でオレと勝負して欲しいッス!」

「いや、やめた方がいいぞ。ここのギルド床が石畳だし」

「? 石畳だとなんか悪いんッスか?」

「と、とにかく腕相撲はナシ!」


 アクチェスの町の時は下に空間のあるフローリングだったから何とかなったもののここでやったら床にめり込ませてしまう恐れがあるので流石に危険だ。


「それはそうと、武器を持ってないのはこれから旅するのにはつらいんじゃないか?」


 俺はクリスの話を聞いて先程から疑問に思っていたことを訊ねた。


「それは分からなくもないんスけど、今オレお金が足りて無くて……」

「そっ、それなら僕がレックスに頼んで必要経費として出してもらうよ!」


 クリスの発言に食い気味に答えるサム。


本気(マジ)ッスか!? 本当ならめっちゃありがたいッス!」

「本当です! いつでも頼ってください! ()()なので!」


 ”先輩”を強調して少し嬉しそうにそう言うサム。サムがこんなに自己主張するのは珍しいな。やっぱ悔しかったんだろうか。


「じゃあこれから武器屋でも寄ってくか? どうせ出発は今日のクリスの試験で更に明日に延期になったんだし」


 擬態出来る時間も最近は1日10時間ほどに伸びてきたので、寄り道をする余裕はある。


「お前さん達、明日から出発するのかい? 方角は?」


 俺がクリス達に提案したとき、ギルド内に併設されている酒場のカウンターに座っている客がそう話しかけてきた。


「え? 僕達は王国の王都に向かっているので山の北側を降りてそのまま海を渡る予定ですけど……」


 サムが予定を答える。というかあの展望台で予想した通りやっぱ海越えるのか。この世界で海に行くのは初めてなので期待が膨らむ。


「やっぱりその道かい。やめておいた方がいいかもしれないぜ?」

「どうしてだ?」


 朝から酔っ払いやってる男の言葉が信用できるか分からないが、一応訳を訊ねる。


「なんでも、北の海の方で大きな嵐が突然出来上がって船も魔翔機も発着できない状態らしい。下山して港町に居たら波に襲われるかもしれないぜ?」

「嵐?」


 昨日見た時は海の方は水平線まで雲一つない程快晴だったが。


「おっさん……その話、本当なのか?」

「誰がおっさんだ! 俺ぁまだ24だぞ! それに話は本当だ! 信じられないってんなら魔翔機の発着場で聞いてくるんだな」


 魔翔機は確かに見かけたが、あれは主に輸送用だとか言っていた気がする。発着時間とか聞けるのだろうか? というかこの男せめて30代後半かと思った。


「魔翔機って一般の人間も乗れるのか?」

「料金はバカみたいに高いがな。というかそんなの常識だろ?」

「常識に疎いもんでね」


 素直な疑問に常識と言われ若干イラっとしつつ男を睨む。


「あれ? お前さん、男かと思ったら女だったのか。そんなもん被ってるせいでよく顔が見えなかったぞ。どうだい? 一杯奢るぜ?」

「遠慮しとく」


 酔っ払いの男が俺が女だと分かったとたんナンパモードに移行し始めたので俺達は足早にギルドを後にした。




「さっきの話……本当でしょうか?」


 武器屋へと向かう途中、サムがさっきの男の話を持ち出した。


「俺が昨日町の広場から見た時は嵐が発生しそうな雰囲気は全くなかったが……宿に戻る時にもう一回寄ってみるか?」

「そうですね、本当ならレックスに報告したいですし」

「オレはどっちでもいいッスよ?」


 というわけで武器屋の後の予定が決まった。


「そういえば、サムは腰に魔力銃を下げてるッスけど、姐さんは何の武器で戦うんスか?」


 クリスが突発的にそんな疑問を発した。


「いや、俺も武器は持ってないぞ?」


 普段の力加減は慣れてきたが、戦闘が少ないせいで戦闘時の力加減がいまだに掴めていない。というかデコピンで人が吹っ飛ぶレベルなので、武器なんか持ったら地割れでも起きそうだ。

 だが、レックスは俺より強いにもかかわらず剣で戦っている。急激に強くなったのもあるが、やはり戦闘経験が足りないのだろう。ゼラノスにも言われたしな。


「えぇ!? じゃあ姐さんの武器も一緒に買いましょうよ!」

「あぁ、いや俺は武器無しでも戦えるから……」

「遠慮せずに見てみるだけでも!」

「えぇ……? まあ見るだけなら……」


 クリスの圧に耐えきれずに思わず肯定してしまった。まあ、買わなければいいだけだしな。






「カッケェ~……超欲しい……」

「ッスよね! これなんかどうッスか?」

「おぉ! いいなぁ! でもこっちはどうだ?」

「凄いッス姐さん! これ買いましょうよ!」


「あの……」


「いや、まだ決めるには早い。これも捨てがたいな……」

「確かにそうッスね!」

「お! この魔力銃めっちゃ良くね?」

「マジそうッスね!」


「マティスさん……?」


「あぁでも魔力銃って誰が使っても同じ強さなんだよなぁ……エディとかじゃない限り」

「そこが問題ッスよねぇ~……エディって誰っすか?」

「前いた町にいたスゲー渋いおっさん。目に見えない程の早撃ちだったんだぜ」

「えぇー! それスゲー見てみたかったッス! だって渋くて強いってめっちゃカッコイイ――」

「マティスさんッ!!」


 え? あ、サムの事忘れてた。


「話ハブっちゃったみたいでごめんな。一緒に語ろうぜ!」

「え、それは是非……じゃなくて! マティスさん武器要らないんじゃなかったんですか!?」

「あ」

「あ、じゃないですよっ! 無視されるの寂しいし!」


 日本には無かった本物の武器屋にテンションが上がってしまっていたようだ。いやだって剣とか銃とかズラーって並んでたらワクワクするじゃん?


《別に。ってか誰に訊いてんだよ》


 少なくともお前には訊いてない。

 とにかく、サムには悪い事をしてしまった。


「ご、ごめんな?」

「いや、マティスさんがホントに武器が欲しいのなら喜んで買いますけど……」

「使わないけど欲しい」

「じゃあ買いませんッ!」


 結局クリスは店で3番目くらいに安い普通の剣を買った。






 武器屋を出て広場へと向かってみると、昨日は子供達しかいなかった野原には沢山の人が群がっていた。

 どうやらみんな考えることは同じだったらしい。

 その中に見覚えのある白い鎧と、赤黒いドレスを着た男女がいた。


「レックス! イザベラ!」


 俺が声を掛けるとこちらに気付きレックスが手を振った。


「レックス達も海の様子を見に来たのか?」

「あぁそうだな、宿の店主に宿泊数の変更を申し出たら嵐の噂を聞いて、とりあえず確認しに来たんだ」

「で、どうだった?」

「実は人が多くてよく見えていないの。これから並んで確認しに行くところよ。一緒に行きましょ」

「そうですね!」




 人混みの列の中でレックスが訊ねる。


「クリスはどうだった?」

「合格したッス!」


 そう言いながら先ほどの紙とさっき武器屋で買った剣を見せる。


「剣も買ったのか。まぁ必要経費だしな」

「レックスは新しい剣とか買わないのか?」


 俺がそう訊ねる。

 するとレックスは俺の耳元に口を寄せて、腰に下げている剣を手にしながら内緒話をするように答えた。


「あんまり大きな声では言えないが、これは力を失ってはいるが元聖剣だ。だからそう簡単に劣化するようなものじゃない」

「聖剣……」


 レックスから少ししか話は聞いていないが、確か魔王との闘いの時に折れてしまったと言っていた気がする。


「正確には断片から打ち直した形だけのほとんど別物だがな」

「それって公表されてるのか?」

「聖剣が力を失ったなんて話が広がったら混乱が起きる。折れた事すら国家機密レベルだよ」

「じゃあなんで俺に話したっ!」


 思わず大声を出してしまった。周りにいた人たちの視線が集まる。


「お、お気遣いなく~……」


 そう言って話をやめると、周りの人たちは興味を失ってそれぞれで話始めた。


「はぁ……」


 緊張の糸が切れて思わずため息が出た時に、レックスがもう一度話しかけてきた。


「話したのはマティスを信用してるからだ」

「はぁ……」

「なんでため息!?」


 レックスが珍しく驚いているが、そういうとこだぞ。確かに信用されていることは嬉しいが、なぜこのイザベラの痛いほどの嫉妬の目線に気付けない。

 というかまだイザベラに俺とレックスが転生者だって事話してなかったのか? 昨日の夜時間あっただろ! というか早くくっつけ。


 そんなこんなで海が見える崖際の柵のところまでやって来た。


「おわぁ……」

「確かに嵐としか言いようがないわね……」

「なんかカッコいいッスね」

「嵐を見た感想がそれかよ」


 遠くに見える海の上には、絵に描いたような巨大な黒雲が出来上がっていた。雷などが時折光っているのが見える。


「これは出発は延期かぁ……?」


 レックスがそんな事を言う。


「やっぱ嵐の航海って危険だったりすんのか?」

「まぁそうだな……俺だけならどうとでもなるんだが」


 確かにレックスなら生身で飛びながら雷雲に突っ込んでもピンピンしてそうだ。

 レックスが少し考えてからこれからの予定を口にする。


「取り敢えず宿に戻って計画の立て直しだな。それから……」




 ――その時、目の前に見える北側の山腹が大きな振動とともに爆発した。

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