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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第2章
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第33話 アネさんとカシラ

「なんか買い物でもすっかな~」


 朝食を済ませた俺は特に目的もなく町の中を歩いていた。

 俺の手には昨日裏路地で拾ったリーヴ銀貨が握られている。持ち主をわざわざ探して返す必要はないと言うので、少し罪悪感があるがネコババさせてもらって何か買い物をしようかと考えていた。


「つっても欲しい物とかないしなぁ……」


 そんな時大通りの人混みの中で見覚えのあるこげ茶色の髪を見つけた。頭からは犬の耳が生えている。クリスだ。

 宿をやめたせいか、町の中をふらふらと当てもなく歩いているようだ。……俺と大差ないな。

 そんなことを思っていた時、クリスと目が合った。そのままクリスはこちらに駆け寄ってくる。

 昨日部屋に来た時は箱になっていたため面識は無いかと思っていたが、受付で見られていたことを思い出した。


「サムとラミさん達と同じパーティの人ッスよね! サムから聞いてるっすか? オレがパーティに入りたいって話です!」

「ああ、聞いてる。クリス……だったか? だが、サムはあいにく体調を崩してる。レックスって分かるか? あの全身鎧着てた奴な――がパーティのリーダーだから話をするって言ってたぞ」


 聞いているというかクリスが来た時2回とも俺はその場にいたんだが、敢えて初めて会話したふりをする。


「そうなんスか! 昨日話した時は元気そうだったのに……」

「病気とかじゃなくて腹を壊してるだけだからな」

「お腹を……もしかしてあの肉を食べた? それは流石に無いッスよね……」


 俯いて小声で考えるクリス。

 俺に聞かせるつもりのない独り言の様だったが聞こえている。そしてクリスの予想は正解だ。まぁサムが食べたのは一口だけで、ほとんど俺が食べたんだが。


「レックスは昼まで用事があるみたいだったから、会いに行くなら昼飯の後だと思うぞ」

「そうッスか! わかったッス! あ、そう言えばオネーサンの名前は何て言うんスか?」


 こいつ、人に出会う度に名前聞いてないか? というかオネーサンって……と思ったが、クリスもサムほど小さいわけではないが、俺との身長差が結構あった。

 確かにクリスから見たらオネーサンなのかもしれない。というかこいつ何歳なんだ。見た目はサムより年上っぽいが……言動は確実にサムの方が大人だ。


「俺はマティスだ。よろしくな」

「おぉ、なんかオネーサンカッコいいッスね!」

「そうか?」

「そうッス! (あね)さんって呼んでもいいっすか?」

「別にいいが……」


 姐さんってなんかスケバンみたいだな……っと思ったがこの世界で代わる言葉が思いつかなかった。もしかしたら日本でも死語かもしれない。

 そう言えばアクチェスのギルド酒場で明らかに年上のスコットに話しかけられた時も最初から姉ちゃんと呼ばれてたな。

 俺ってそんな感じに見えるのか? 言葉遣いが男だからだろうか……


「じゃあ早速ですが姐さん!」

「なんだ?」

「昼まで暇なんでついて行ってもいいッスか?」

「えぇ……俺も特に用事があるわけでもないんだが……」


 サムはクリスが苦手だと言っていたが、俺も概ね同意だ。慕ってくれている感じはするんだが……なんというか相手をしていると疲れる。


「それでもいいッス!」

「そ、そうかぁ……」


 とはいってもレックスですら断れる気がしないと言っていたものを俺が断れるわけもなく……


「じゃあ……なんか欲しい物とかあるか? 銀貨で買える範囲なら買ってやるぞ?」

「マジッスか!? じゃあ姐さんとおいしいもん食いに行きたいッス! オレまだ朝飯食べてなかったんスよね~」

「そうか、俺はもう食ったんだが……まだ食えないこともない」

「ブランチってことで行きましょう姐さん!」


 まぁ丁度いい、銀貨の使い道が出来た。これからパーティに加わるだろうし親睦を深めておくのもいいだろう。

 ……と自分に言い聞かせ、俺はクリスとともに大通りを歩み始めた。




「コレと……コレと……コレは頼まなくてもいいっすね」

「結構遠慮ねぇな……」

「え? 奢ってもらえるんじゃないッスか?」

「いや、そうは言ったが……まぁいいか」


 クリスとともに飯屋にやってきていた俺はクリスからまわってきたメニューを眺めていた。


「姐さんはお米好きなんスか?」


 俺たちがやってきていた店はアクチェスの町でレックス達と行ったような米を出す店だった。


「ああ、まぁ故郷を思い出す感じがするからな……」

「お米が故郷を思い出すって事は……姐さんは東方の国出身スか?」

「まぁそんなとこだな」


 実際はダンジョン産で親は魔王なわけだが、俺は故郷を思い出すとしか言ってないからな。


「じゃあこれにするか」

「生魚の刺身がのったドンブリッスか、オレはなんか苦手なんすよね~」


 犬だからじゃないか……と思ったが、獣人は形質が現れた動物とはなんの関係もないらしいのでこういう話はしないほうがいい……とレックスから話を聞いていたのを思い出し、言葉を飲み込む。


「オレが犬の見た目の獣人だからッスかね! オレ、鼻良いんッスよ?」


 俺の気遣いを3秒も経たずにぶち壊すな……コイツは。まぁ明るい性格なのは悪い事じゃないが……


「そういえば、こんな山のてっぺんなのに生魚が食べれるとは思わなかったな」

「勇者様が戦闘以外で活躍してくれているおかげで、最近の魔法研究の進みは凄いらしいっすからね~」


 また勇者様(レックス)か。というかそう言えばハンバーガーを保存するためだけに時間を止めてたな、アイツは。

 まあそのおかげで今海鮮丼が食べられるのか……後で感謝しておこう。


「それで決まりッスか? まだ銀貨を使い切るには残ってるッスけど……」

「いいさ、使い切らなきゃいけないってわけでもないしな」

「そうッスか。店員さーん! 注文お願いしまーッス!」


 そこにも「ッス」が付くのか……と、俺はどうでもいい事を考えながら店員を待った。




「いや~やっぱ姐さんスゲーッスね」

「ちょっ……そこ褒められてもうれしくないからやめてくれ」


 結局使い切っちゃったよ、銀貨。

 なんだかんだで俺は慢性的な魔力不足なわけで……いくらでも食えてしまう状態だった。

 クリスは最初で頼んだ分で満腹になったらしく、俺が一人で食べ続けてしまった。思い返してみれば恥ずかしくなってくる。


「結構いい時間ッスね。オレは宿に戻ってレックスさんと話をしてくるッス、姐さんは?」

「俺は元々町を見回るつもりだったからな、この辺りをぶらぶらしてるさ」

「そうッスか。 じゃあ次会うときはメンバーッスね! また会いましょうッス!」


 そう言って宿の方へと走って行ったクリス。

 話をするとは言いつつも、もうパーティに入る前提なのか。まぁ恐らく入ることになるだろう。




「ここで昼寝でもするかぁ~」


 お金も使い切り、することもなく歩いていた俺は、防壁に囲われた町の中で唯一防壁が無い場所へと来ていた。

 そこは崖と面しており、野原が整備されて公園の様になっていた。崖の縁には金属製の柵が設置してあり、転落はしないようにしてある。崖から見える景色は昨日まで登ってきた側とは反対側、俺達がこれから目指す山の麓まで見渡すことができた。

 山の麓は少し平野が続いているが、その先は大海原が見えていた。レックスは王国へと向かうと言っていたが、海を越えた向こうにあるのだろうか。


 野原にはこの町に来てあまり見かけていなかった子供がちらほらと見かけられた。遊び回る子供達を横目に、俺は野原に大の字で寝転がる。

 昼寝と言っても魔物の俺にとっては気分的なものにすぎないのだが、目を瞑ってゆっくりと過ごすのも悪くない……




「いましたカシラ! あの女です!」

「あいつがぁ? お前ぇら、たるんでるじゃねぇのか?」

「油断は禁物ですぜ!」

「俺に頼み込むぐれぇだから大勢連れてきたってのにあの女1人だけとは……」


 なにやら聞き覚えのある声とない声が聞こえてきた。

 ゆっくりと目を開けて上半身を起こすと、野原の端の所に昨日のごろつき達に加えて、更に10人ほどの男達が居た。


「で、お前ぇはどうしたいんだ、あの女を」

「それは、その懲らしめてやるというか……」


「おい」


 俺は昼寝を邪魔されたことで不機嫌な声色でごろつきの集団に声を掛けた。大方昨日の敵討ちのつもりだろう。殺したわけじゃないけど。

 声を掛けられた集団は一気にこちらを向く。


「あいつ、この距離で俺らの会話が聞こえて……」

「……なるほどな、こいつぁ厳しそうだ」

「カシラ? どうかしました?」

「いや、なんでもない」


 普通ならそこそこ距離が離れているので話し声などは聞こえないはずだが、俺は耳がいいので聞くことができていた。

 今日はサムがおらず、自由に暴れ回ることができる広場にいるので全員返り討ちにしてやろうとも思ったが、昨日俺に負けた上で連れてきた奴らもいるようなので、敵の強さが分からない内は戦いは避けたい。


「おい、そこの女! 話が聞こえているなら話が早え、昨日ウチの子分が世話になったみてぇだな……」

「先に声を掛けて襲おうとしたのはそっちだろうが」


 昨日のごろつき達の頭領らしき、スキンヘッドで無精ひげを生やした男が俺に話しかけながら仲間を引き連れてこちらに歩いてくる。


「何? お前ぇ、そうだったのか!?」


 俺の言葉に対し、頭領らしき男が昨日俺達を襲ってきたごろつきに訊ねる。


「へぇ、でも俺達はボコボコにされて……」

「手前ぇ……自分でちょっかい出して勝手に文句言ってるだけじゃねぇかっ! 大体お前はいつも適当な……」


 頭領が手下の男を怒鳴りつける。ボコボコにって言っていたが、お前俺に勝手に頭突きして気絶したじゃねえか。頭領の叱責はそのまま説教に突入し始めた。


 ……あれ? これ矛先俺からずれてるから逃げられるんじゃないか?

 俺はその場からゆっくりゆっくりと気配を消して離れていく。


「おい女!」


 説教が終わったらしい頭領の男がゆっくりと歩いていた俺に普通に声を掛けた。全然気配消せてない。


「昨日の件に関してはこの馬鹿どもが世話を掛けた! すまなかったな!」


 しかし、思ったより頭領の男は常識的らしい。このままもう宿に帰らせて欲しいんだが……


「それにな……この馬鹿どもは俺に敵討ちを頼み込んで来たみたいだが、見たところお前さんの方が俺よりも強い」

「カシラ!?」


 昨日のごろつきが驚いたように頭領の男の方を向く。


「だがしかし、このとおりこの馬鹿どもはそれが分かってねぇ。だからな……俺と勝負してくれねぇか?」


 えぇ……せっかく解決しそうだったのにまた話面倒臭そうな方向に……

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