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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第2章
33/58

第32話 不屈と腹痛

「へーそうかー……あむ」

「そうなんですよ。もしかしたらまた絡まれるかもしれないですね……」

「ほへはふぁいへふほうはは」

「え? 何て?」


 俺は帰ってきたサムの買ってきた特大の串焼き肉を食べながらさっきのごろつきが居なくなっていたという報告を聞いていた。

 箱の状態だと串は食べづらいので、サムには俺の前でしゃがんで串の端を持ってもらっている。


「んむ、ごく。その、大変そうだなってな?」

「そうでしたか」

「そう言えばレックスは?」

「ごろつきはいなかったけれど、一応ギルドに報告してくるって言ってました」

「そうか。ラミとイザベラは隣の部屋に戻っていったぞ」


 ちなみにレックスが蹴破った扉は時間を巻き戻して直したらしい。


「もう一本食べます?」

「ん、頼む」


 サムがもう一本肉串を取り出し、口の前に差し出す。

 その時、部屋にノックする音が響いた。


「あ」


 サムが音に驚いて串を落とす。


「すみません……」

「いいよ、取り敢えず出て」


 サムが鍵を開けて応答する。

 ドアの向こうにいたのは先程の犬耳青年――クリスだった。


「あれ? お一人スか? 話し声が聞こえていた気がしたんスけど……」

「同じパーティのメンバーが離れたところでも話せる魔法を使えるので、それで話していた声ですよ」


 サムが俺と話していたことは話さずに適当な理由を告げる。


「そんなものまで使えるんスね! やっぱり憧れるッス!」

「あ、あの……何の用でしょうか?」

「もちろん、仲間に加えてもらいたいからッス! その為に、店主の親父さんに話をつけてきたんス!」

「えぇ!? それってやめちゃったってことですか!? まだ確定したわけじゃないのに!?」


 なんというかこの青年は行動力が凄いというか無鉄砲というか諦めが悪いというか……


《ただの馬鹿じゃないか?》


 言ってやるな……


「ん? それってそこの通りにある串焼き屋台の串焼肉じゃないスか? 落としちゃったんスか?」


 クリスが俺の前にある肉を見てそう言う。


「あ、ああ……そうなんですよ」

「なんでこの箱の前にあるんスか? 箱に串焼きを入れるって変な感じもするし……あ! もしかしてこの箱もなんか冒険者特有の特別な物だったりするんスか!?」


 そう言ってサムの横を通り抜け俺の前にしゃがみこむクリス。

 俺に興味を持たれるのは少しまずい気が……


「鍵はかかってるみたい……って勝手に開けるのはまずかったスね!」

「あの、わざわざ来てくれたんですけど、今はレックスが居ないので交渉は後でもいいですか?」

「本題から逸れてたッスね! それなら、明日聞きに来るッス!」

「本当は明日の朝出発の予定だったんですけど……僕からレックスに話しておきます」

「助かるッス! そう言えば名前、なんていうんスか?」

「え? 僕ですか? 僕はサム……じゃなくてサミュエルです」


 サム、そういえば本名はサミュエルだったな。呼ばれなさ過ぎて自分でも間違えそうになってるじゃないか……


「じゃあサムって呼ぶッス!」


 そして無慈悲な宣告。


「それじゃ、また明日ッス!」


 そう言って部屋から出ていく。

 サムがドアを閉め、俺の前に落ちた串を拾い上げる。


「やっぱり僕、クリスさん少し苦手です……」


 そう言いながら落ちた串を処分しようとするサム。


「ああ、それ俺食べるよ?」

「え? でも室内と言っても落ちたのは汚いですよ? お腹壊しちゃいます」

「俺は魔物だから大丈夫だ」


 魔物である俺は口から取り入れた物を全て魔力に変換する。なので病気にかかることも、実は呼吸する必要もない。

 食べようと思えば土でも石でも食べれるのだが、味覚は人間と大差ないのであまり食べたくないだけだ。


「で、でも……」

「せっかく買ってきてくれたんだ。食べさせてくれ」

「わ、わかりました……じゃあ僕も一切れ食べます!」

「なぜその発想に至った!?」


 そう言ってサムは串の一番先に刺さった肉を食べた。






 ――翌朝。


「う、うぅ……」

「こりゃあ、出発は明日に延期だな」


 ベッドの上で青い顔をしてお腹を押さえるサムを見ながらレックスがそう言った。


「ま、まぁクリスが話がしたいって言ってたし、丁度良かった……んじゃないか?」

「よ、良くないですよ……」

「スマンスマン」

「ん? なんの話だ?」

「あぁそう言えばサムがあの様子で話してなかったな。クリスが俺達の旅について来たいからとこの宿の仕事を辞めてきたらしい」

「マジかアイツ……」


 若干呆れの様な、困った様な表情でそう言ったレックス。


「それで、今日聞きに来るって言ってた」

「どうするんだ? 同行するにしてもお前が一番の問題だろ?」

「だよなぁ……でも、わざわざ仕事までやめられちゃあ断りづらいしなぁ……ハッ! まさかアイツここまで読んで……!」

「ないだろ」

「……ないな」

「だが……俺はアイツにテンションで押されたら断り切れる気がしないぞ……」


 勇者にここまで言わせるとは恐ろしい……もはやハイテンションと言う名の暴力だ……


「まあ、もし同行することになったら俺は何とか頑張るつもりだが……」

「じゃあ一応イザベラとも相談するが、多分受け入れる方向になるぞ」

「どうするか考えとかないとな……」

「今日はどうするんだ? 俺と一緒にクリスと話すか?」

「いや……俺も昨日は町に着いてすぐ魔力が切れたから、見回りたかったんだ」

「そうか、昨日のみたいなのもあるから気をつけろよ?」


 まぁ半分クリスと話すのが面倒臭そうなのもあるんだが……




「それじゃあ俺は先に食堂に行ってるぞ」


 寝巻から着替え終わったレックスがそう言って部屋を出ていく。


「それじゃあ俺も着替えるか」

「ちょ、ちょっと待ってください! せめて僕が後ろを向いてから……」


 顔を青くしながら赤くするという器用な事をしながら壁向きに寝返るサム。

 俺は擬態魔法を掛け、服を着ながらサムに話しかける。


「昨日も話したが、俺は元々男だからそんなに気にしなくていいんだぞ?」

「それでもです……!」


 まぁ、気にかけてくれることは嬉しいが…………ん? なんで俺は嬉しいんだ?




「着替え終わったからこっち向いてもいいぞ?」

「うっ……今少しお腹が痛いので動けないです……」

「じ、じゃあ俺も朝ごはん食べてくるぞ。お大事に」

「明日までには治します……」


 サムの返事を聞きつつ俺は部屋を出て食堂へ向かう。


「うーん……」


 少し前に感じた違和感について考えながら……

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